18、マネージャーからの依頼
「実は梨沙ちゃんとあなた方が話されているのを立ち聞きしてしまいまして。」
森本の希望により近くの喫茶店にて詳しい事情を聞くことに。
因みに喫茶店へ共だったのは源蔵と綾音の二人だけ。
夢為人は梨沙の警護(尾行)の為、この場にはいない。
「で、話とは?」
「はい。実は梨沙ちゃんはストーカー被害に遭っていまして。」
「ストーカーなら警察に相談すべきだろう。何故ワシ達に?」
「それが、その、そのストーカーが人間ではないみたいで。」
「その根拠は?」
冷たく矢継ぎ早に質問をぶつける源蔵に森本は汗を拭いながら、ポツポツと返答する。
「あのわたしは学生時代は陸上部でした。今でも足にはそれなりの自信があるのですが、実は先日、そのストーカーを目撃しまして追跡したのですが簡単に逃げられてしましました。」
マネージャー森本の話ではそのストーカーは身長190㎝をも超える長身で人混みでも目立つ存在。
その為後を追いかけるのは簡単だったらしい。が、そのストーカーの足は異様に早くそして細い路地に入った瞬間、人間離れした跳躍で壁の蹴り昇り屋根へと到達。
そこで見失ってしまったそうだ。
「話を聞く限り、確かに人間じゃねえな。」
「あの、良ければそのストーカーを捕まえてほしいのです。梨沙ちゃんは今、女優の岐路に立っています。このドラマが成功するかどうかで梨沙ちゃんの今後の女優人生が決まります。なにせ今、色々あって撮影が遅れていて、さらにストーカーのせいで撮影が中止となれば梨沙ちゃんは・・・。」
「あの、撮影が遅れているって言いましたけど、それはどうして?」
「っ、ああ、まあ色々ありまして・・・。」
言葉を濁す森本。
「お願い致します。」
机に頭を擦り付け懇願する森本に源蔵は唸りながらも頭を縦に振らざる負えなかった。
「で、引き受けたんだ・・・。」
「仕方がないだろうが。」
夢為人の批難する冷たい視線に耐え切れず言い逃れをする源蔵。
「ところで夢為人、お前さっきから何しているのだ?」
夢為人は先程写した写真をずっと凝視していた。
「いや、ちょっとこれが気になって。」
とある箇所を指差す。
「ほら、瘴気の渦の中に変な線が入っているでしょ。これが気になって。」
「確かにあるな。なんじゃこりゃ。」
首を傾げる源蔵。
しかしすぐさま思考を放棄。
彼は考えるより動くのが先のタイプ。
「でこれからどうするの?」
源蔵が放り投げた写真を回収しつつ今後について尋ねる。
「梨沙を見張るに決まっているだろう。カミキリに繋がるのは彼女しかいないからなぁ。」
「それしかないな。」
「ワシ達の目的はカミキリの確保と三日月の鎌の回収もしくは破壊。梨沙のストーカーはいわばついでだ。」
二人の会話を黙って見守る綾音。
彼女はこう考えていた。自分には何も決定権がないのだと。
この場に連れてこられたのは梨沙との仲介の為。
夜叉丸に見限られ、大した力もなく何も出来ない自分はここでお役御免。
心折れ、落ち込む気持ちが殻となり、彼女を消極的にさせる。
「―――という事だ綾音。わかったな。」
「はい?」
突然名前を呼ばれ我に返る。
「何ぼ~としている。」
「ごめんなさい。」
「集中しろよ。ここからが本番だぞ。」
「え?本番?」
「何驚いている。当たり前だろうが。お前には最後まで付き合ってもらうぞ。」
「え、でも私はもう夜叉丸が使えません。役に立てる事はもうーーー。」
「元々扱えてなかっただろう。夜叉丸が抜けなくなったところで大差はない。」
夢為人の鋭い指摘が心にグサッと突き刺さる。
「それとも夜叉丸の子守りがないと何も出来ないお子様か?お前は。」
「なんですって!!!」
夢為人の煽りにカチン。
萎れていた心に反骨の炎が宿る。
「見せてやるわよ。夜叉丸の力を頼らなくてもやり遂げてみせるわ。」
「元気になったのはいいが、もう少し違う方法があっただろう。」
「なら源さんがアクションを出せばよかったでしょう。全部俺に投げてきたのが悪い。」
「いやだからもう少し言い方が・・・、いやもういい。」
大きなため息一つ。
(そんな態度を見せるから勘違いされるのだぞ、と忠告しても無駄だな。)
成長しているが変わらない部分もあり、嬉しいのか悲しいのかわからず複雑な気持ちを抱える源蔵はふと数日前、夢為人と再会した後の玲香達との会話を思い浮かべる。
「綾音の事をこのまま夢為人に任せる!?本気かい、バアさん。」
「本気だよ。」
玲香は意味深な視線を助手席に座る夢為人に送る。
「夢為人なりの考えがあっての行動さ。ならば最後まで責任をとってもらうのが筋、てもんさ。」
「学園長の言いたい事はわかりますが、しかし。」
「何、憎くて綾音をあのような形に追い込んだ訳でない。むしろ心配しておる。」
「それはもちろんわかっちゃいるが。ただな。」
夢為人は良くも悪くも厳しい性格。
特に対魔師関連に対しては。
「という事だ。」と玲香は源蔵の肩をポンと叩く。
「夢為人のフォロー、頼むぞ。」
「ワシが!!」
源蔵の視線は隣にいる橘亮へ流れる。
「スマンな源、俺は宗司達の説教で忙しいのだ。」
「亮、お前逃げたな。」
「さぁ、何の事やら。」
涼しげな顔を見せる橘亮が苦々しく見えた。




