15、騒がしいHR
対魔課0小隊。
新世界の日本破壊行動に対抗するべく、当時局長だった花条院玲香が結成した特別精鋭部隊の名称である。
橘亮や打越源蔵、焔村風音に塚門脇一騎など当時の対魔師界では名の知れた実力者達で構成された0小隊は幾多の激戦の末、多くの殉職者を犠牲に新世界を壊滅させることに成功。
その後は0小隊は目的を果たした事により解散となるが、4年経った今もその雄姿は対魔業界に語り継がれているのである。
「で、その夢為人も0小隊に属していた対魔師やった、という事かいな。」
「そうらしい。」
朝の始業前の教室にて。
琢磨の問いに苦々しく頷く宗司。
先日の出来事は彼にとってあまり思い出したくない出来事。
それもそのはず。完膚なきまで敗北を期した挙句、尊敬する橘亮から大激怒された事に大分堪えているのだ。
勿論、他の女子三人も同様に怒られ、罰として結界などで使用するお札の写しを各自千枚ずつ作成する羽目に。(もちろん正座で。)
かなりの苦行を強いられたのである。
「でも待って。0小隊の生存者は確か三人だけって聞いたけど。橘先生と長官とーーーー。」
「その三人目が夢為人の事らしいよ。まぁ解散直後、行方をくらませていたらしいけど。」
「行方をくらませてた?それは何でや、こと?」
「そこまで知らないわよ。先生達が話していたのを盗み聞きしただけだもん。」
橘亮による説教中の片隅で、夢為人と玲香が会話していたのを盗み聞きしていたのだが、断片的しか聞き取れなかったのだ。
「焔村、大丈夫か?」
落ち込んでいるのが表に出ていたのか、宗司が気遣いの言葉をかけてくる。
「ええ、大丈夫よ。」
気丈に振る舞うが実際の所は全く大丈夫ではない。
夜叉丸に認められていなかった事実。
そして、その夜叉丸が全く扱えていなかった事で心情はかなり病んでいた。
「綾ちゃん・・・。」
弱々しい笑顔しか振り撒くことができず、その様子に翳りを見せることは。
「くそ、橘先生の同僚か知らないが、ことは達にした事は絶対に許しはしないからな。」
掌に拳をぶつけて決意を見せる宗司。
重苦しい空気を変えようとあからさまな態度をとる。
「次会った時は絶対に膝を地につかせてやる。」
宗司、それフラグやで。と琢磨が注意しようとした時、教室の後ろの戸が開く音が。
「なっ!」
「ええ!?」
「嘘・・・。」
「何や?」
三人が驚いた理由。
それは先程まで話題となっていた夢為人の姿があったのだ。
宗司と同じ制服を着た夢為人は眠たそうな表情で一番端奥――――ずっと空席だった場所に座るとそのまま頭を伏せ眠り始める。
「何でアイツが教室に?」
「もしかして彼が?」
「そうだよタッ君。アイツが夢為人だよ。」
他のクラスメイトも突然現れた見知らぬ生徒に戸惑うばかり。
凄然の空気は始業のチャイムと橘亮の登場によって一掃された。
「号令。」
「起立!礼!着席。」
「諸君おはよう。本日、担任の神太曲教諭が所用の為、私が代理でHRを行う。さて、今日の欠席者は・・・・・・、うん。ようやく全員揃ったな。」
教室内を大きく見渡し満足そうに頷く橘亮の視線は号令を無視してずっと眠っている夢為人の方を注視。
「今日の連絡事項は特にない。今日も一日、大いに勉学を励んでくれ。」
生徒達のウズウズした気持ちを焦らす橘亮。
「あの先生!」
「わかっているよ宗司君。」
捲し立てるが如く手も挙げた宗司を制した後、夢為人へと話しかける。
「皆、興味津々なんだ。自己紹介してくれるかな。」
それに対して顔を伏せたまま、左手を挙げて左右に何度も振り、拒否表明を見せる夢為人。。
「全く。」
仕方がないな、と小さくため息を落とす橘亮。
黒板に彼の名前を書き、他者紹介を始めた。
「彼の名は西社夢為人だ。諸々の事情で今までこの学園に来れなかったが本日から通う事となった。皆、仲良くしてあげてくれ。」
シッシッ。←追い払う仕草をする夢為人。
必要ない。構わないでくれと言わんばかりの態度を見せる夢為人に再びため息を落とし、頭を押さえる橘亮。
「はぁ~~、夢為人よ。せめて初日ぐらいは起きてくれないか?」
お構いなしに寝続ける夢為人。
そんな彼の態度に悪戯心が湧き上がった橘亮は爆弾発言を投下した。
「因みに夢為人は対魔課0小隊時代の私の元同僚。そしてクラスSの対魔師だ。彼から色々学んでくれたまえ。」
「「「「クラスS!!」」」
「亮さん!?」
クラス全員の驚きの中、夢為人も顔をあげて猛抗議。
「(黙っといて、と言ったはずだろう!)」
「(さあ、何のことかな?)」
視線での会話を尻目に騒がしくなった教室。
興味と好奇心の視線を浴びせられる夢為人を横目にこっそりと教室を立ち去る橘亮。
教室内から夢為人の嘆きの叫び声が届いた。




