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対魔師  作者: 魚右左羊
14/27

13、襲撃

「さてと、上手くいくかどうか・・・。」

洞窟から一人出てきた西社の呟きは中に置いてきた綾音に対して。

 近くの切株に座り、彼女の行末を見守る。

「この結果でこれからが決まると言っても過言ではないからな。」

 青空に向けての独り言。

 白い雲がゆっくりを流れ、早春の風が西社の髪を揺らす。

 久方ぶりのまったりとした時間。

 木々の隙間から流れる風と時の一刻一刻を全身に浴びる。

 少々疲れ窶れた心に安らぎが得られた、と思われたのも束の間、

「見つけた!」の声と襲撃によって全て強制終了された。

「この男がお姉様を攫ったのですか、乾センパイ。」

「そうだよ京華ちゃん。」

 敵対心全開の宗司、ことは、京香。

「焔村綾音と同じ制服・・・、志奉学園の生徒か。」

 見覚えがある女子生徒―――ことはに鋭い眼光を向ける。

「油断するなよ花条院、ことは。」

「分かってるわよ。」

「了解です、神崎センパイ。」

 各々(おのおの)の名前を知り、眼を見開く。

「神崎に花条院・・・?そうかそうか。神崎宗玄(かんざきそうげん)の息子と花条院玲香の孫娘か。」

 ククク、と含み笑いが漏れる。

 腹の底に眠らせていた荒ぶる感情がぐつぐつと湧き上がるのがわかる。

「で、何をしに来たのだお前達?」

「惚けないで!!今すぐ綾ちゃんを返しなさい。」

「お姉様を生贄なんかさせません!」

「ならば実力で奪い返してみせろ。」

 壮大な誤解をしているが、敢えて訂正をしない。

 敢えて相手を(あお)り、頭に血が上るように仕向ける。

「言っておきますが、乾センパイと神崎センパイは学園最強のお姉様の次に強いと言われています。大人しく降伏した方が身のためですよ。」

「御託はいいからさっきとかかってこいよ、世間知らずで温室育ちのお子ちゃま達。」

「降伏しなかった事を後悔させてあげます!」

 両手に持っていた札――式紙(しきがみ)を宙に投げる京香。

 式神は不規則な動きで四方八方から襲いかかる。

「水破針、秋刺雨!」

 頭上からの水の針が雨のように降り注ぎ全ての式神を串刺しにして地面へと墜落させる。

「く、式神で拘束するつもりだったのに。でも最低限の目眩しにはなりましたね。」

 勝ち誇った表情を崩さない京香。先程まで彼女の隣にいたこのはの姿がない。

 彼女は式神に気を取られている一瞬の隙をついて背後に回り込んでいたのだ。

「せやっ!」

 ことはの正拳突きを上手く躱す。

「逃がさない!」

 自慢の俊敏力を駆使して自分の間合いから逃さないようにすることは。

「乾センパイは速さは学園一。あなた如きにセンパイから逃げ切れる事はできません。」

「ことは、そのまま抑えていろ。」

 槍の矛先に雷の力を貯める宗司をチラ見。

「(成程、一撃で決めるつもりだな。)」

「よそ見してる余裕なんてあるのかな?」

 絶え間なく攻撃を続けることは。

 相手を仕留める意識はなく、足止めすることに全力を注いでいた。

「ことは!」

 準備が整った宗司の合図に飛び遠のくことは。と同時に京香が密かに仕込んでいた術を発動させる。

「雷術、電束縛(でんそくばく)。」

 雷の鎖が身体に絡みつき拘束。

「抵抗しようとしても無駄です。その鎖は抵抗すれば電流が流れます。水術師のあなたにはとても辛いはずです。」

「流石京香ちゃん。」

五行(ごぎょう)陰陽論(いんようろん)。対魔師の基本です。」


 五行陰陽論とは五つの属性(火、水、雷、土、風)の相違関係のことである。

 属性にはそれぞれ相性があり、水は火に強く、雷は水、雷は土、風は土、火は風に強いとされている。

 京香は西社が水術を使用した事で水術師だと判断。相性の良い雷術で拘束したのだ。


「花条院、よくやった!!!」

 宗司は槍を天高く振り翳し、跳躍。その場に留まる西社目掛けて振り下ろす。

「喰らえ、雷術 大稲妻落とし!」

 宗司の必殺技は直撃―――の寸前、西社の周囲に突如、土の壁が出現。宗司の一撃を受け止めたのだ。

「何!?」

「惜しかったな。」

「ぐはぁ!」

 大きな拳を形成した土の塊が宗司の腹にクリーンヒット、吹き飛ばさせる。

「神崎センパイ。」

「遅い!!」

 雷の鎖を簡単に引き千切った西社。彼はわざと捕まっていたのだ。

 すかさず印を結ぶ。

「水術、水檻(みずおり)。」

 京香の足元から突如水が出現。球体となり京香を閉じ込める。

「一ヶ所に留まり続けるから簡単に捕まるのさ。」

 しかしその忠告は京香の耳には届いていない。水中に閉じ込められた彼女は息が出来ず、もがく事で必死なのだ。

「さて、後は速さしか取り柄がないお前だけだ、乾ことは。」

「バカにするな!」

 一歩で西社の懐に入り、お得意の狼牙連脚を繰り出す。が空振り。

 彼女よりも上回る速さで回避したのだ。

「嘘!」

「その速さも中途半端。相手に上回れるとこんな風に!」

「~~~!」

 簡単にことはの背後を取ってヘッドロック。

 首を絞められたことは。身長差で足が地面から離れる。

「ことは!!ぐああああ!」

 二人の危機に立ち上がろうとする宗司を土の塊が重くのしかかり、潰しにかかる。

「宗司・・・、京香ちゃん・・・。」

「どうした乾ことは。本気を出さないとみんな死ぬぞ。」

「何、ですって?」

 ことはにしか聞こえない小声で囁く。

「私は最初から本気で―――。」

「嘘はよせ。お前は本気を出していない。(あやかし)の力を見せてみろ、乾ことは――いや、犬神寿牙(いぬがみことは)。」

「っ!!何でそれを?!」

「上手く隠しているつもりだろうが、俺にはバレバレだ。お前は人間と犬神の間に生まれた半妖。特にお前は人よりも犬神の血の方が濃い。この小さな体型も犬神の血を抑えているせいで成長が止まっているのあろう。」

 隠し事を明かされた動揺が苦しむ顔に表れる。

「さあどうする?お前が本気を出さないと死ぬ事になるぞ。」

「あ、妖の力(あんなの)に頼るぐらいなら死んだ方がマシよ。」

「そうか、ならば仲間諸共、死ね。」

「があああ!!」

 その言葉と同時に力を込める。

 宗司にのしかかる土の重さがさらに増し、口から吐血。

 京香も水圧が増し、息の限界を迎えて口から大量の水泡が。

 彼女の身体の力が失い、そしてトドメとして、ことはの首を絞めつける腕に力を込めた。

「力を出し惜しみして仲間を見殺しにした公開を抱いて死ぬがいい。」

 意識が途切れる最中、西社の怒りが込められた声が脳に残された。


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