9、ウジトベ・スイーパー・カンパニーの闇
「これは酷いな・・・。」
死屍累々と化した現場に到着した橘亮の第一声。
引き連れた部下達に氏ト部社長及び社員の容体確認に指示。
「氏ト部は妖魔拘束鎖で縛られて気を失っています。その他の社員は大怪我を負っていますが命に別状はありません。」
「綾ちゃん!!!!」
「ことは君。どうしてここに?」
途中で通話を切られ、嫌な予感がしたことは。
学園からここまで全力疾走で駆けこんできたのだ。
「返事をして綾ちゃん!」
制止を振り切り中に入り綾音を探すが、姿は見えず。
現場を歩き回っているとふと、ファイルの上に置かれているスマートフォンに目が止まる。
「これ、間違いない、綾ちゃんのだ・・・。」
見覚えがあるスマートフォンを握る手に力が入る。
「もしかしてここに綾音君がいたのか?」
「はい・・・。」
「なんという事だ・・・・・・。」
かぶりを振る橘亮。
ふと何気なしにスマートフォンの下敷きとなっていた一冊のファイルを手にする。
「こ、これは・・・!」
ファイルに目を通す橘亮の顔が徐々に険しくなる。
「総員!ただちに氏ト部社長及び社員全員の身柄を拘束せよ!」
突然の命令にも関わらず迅速に行動を移す部下達。
「え?え?どうしたのですか先生?」
目を点にすることは。
しかし橘亮はその問いには答えない。彼の意識は気を失っている氏卜部に向いていたのだ。
「氏ト部よ、お前はとんでもない事をしでかしてくれたな。」
「虚偽報告じゃと!」
白髪染を塗った髪に皺々の肌、細眼鏡の老婆。彼女は志奉学園の学園長の花条院玲香。橘亮の上司である。
「はい、ウジトベ・スイーパー・カンパニーは安息地の妖魔を無断で捕縛し会社の地下に監禁。その後、町に放ち、自分達で討伐していたそうです。」
橘亮は拾ったファイルを提出。
「そこには捕縛した妖魔の情報と放った場所などが詳細に記載されています。」
「嘘の被害報告と討伐報告を行い、政府から討伐報奨金を受け取っていたのか。」
やれやれ、と頭を抱える玲香。
「それで氏ト部や他の者達は?」
「氏ト部以外は重症で入院。回復次第随時逮捕する予定です。首謀者の氏ト部はすでに逮捕、只今源蔵が取り調べを行っています。」
「綾音は?」
「所在不明です。多分、彼に連れて行かれたかと。」
「あの子で間違いはないのかい?」
「氏ト部が証言しています。幻竜神だと。」
「嫌な名前をだすね。」
「ええ、全くです。」
二人して苦々しい表情を浮かべる。
「それであの子は何処に行ったか目星はついているのかい?」
「氏ト部が所有していたトラックが一台見当たりません。おそらくそれで移動している模様です。そして行き先ですが、十中八九この場所かと。」
橘亮が指差したファイルの書類の一文に玲香の老いた瞳が大きく見開いた。
「富士代山じゃと!!」
「富士代山といえば近郊外にある山だよね。」
「ええ、車で4時間程走った所にある山よ。」
「そこに焔村は連れて行かれたと言うのですか?可奈さん。」
「十中八九。」
可奈の研究室に集う宗司とことは。
「捕らえられていた妖魔は富士代山奥部を棲家にしていた保護妖魔達です。」
「保護妖魔って確か、穏便に暮らす事を条件に身の安全を保証した妖魔の事だよね。」
「その通りよ、ことはさん。どうやら氏ト部社長及び社員は花条院家の私有地である富士代山に侵入して妖魔は無法捕縛していたようです。」
「おい、それが事実なら大問題じゃないか!対魔師資格は剥奪はもちもん、不法侵入に窃盗、誘拐の罪で刑事罰じゃあ・・・。」
「ええ、その方向で逮捕されることになりますね。」
「焔村の奴、えらい問題に巻き込まれたな。」
「あれ?ちょっと待って!」
何かを思い出したことは。表情がみるみると真っ青になる。
「富士代山って確か山神がいる所だよね?」
「ええ、多分綾音さんが連れ去られた理由はそこにあるのだと思われます。」
「どう言うことだ?」
ただ一人、会話についていけていない宗司が聞き出す。
「あのね山神は執着心がものすごく強いの。山に生える木の実一つ取られるだけで激怒するほどに。」
「その昔、山の果実を一つ捥いだだけで複数の女を生贄に備えろと村に脅したそうです。」
「おいおいまさか!」
「ええ、西社は綾音さんを山神に差し出すつもりでしょう。生贄として。」
「ふざけるな!」
机を力強く殴り、怒りを露わにする宗司。
「そんなこと、絶対にさせねえ!」
「ちょっと宗司さん。何処へ?」
「決まっています。焔村を助けに行く。」
「私も!」
「何を言っているのですか!二人とも待機するよう橘先生から言われているでしょう。それに交通の手立てはどうするつもりですか?」
可奈の指摘に足踏みする宗司とことは。
そんな二人に颯爽と救世主が現る。
「それなら私に任してください!!」
「京香ちゃん!」
「私の家が利用している車を用意しました。お姉様を助けに行きましょう!」
綾音が捕まった報告を受けた京香は無断で自家用車を動かしたのである。
「山神がいる場所も私が把握しております。さあ参りましょう。」
「花条院!でかした。」
「ちょっと待ちなさい。」
可奈の制止を振り切り、研究室から飛び出す二人。
身体能力の差から追いかける事が無理だと判断した可奈は「もう、勝手にして。」と見限り自分の課題に取り組むのであった。




