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対魔師  作者: 魚右左羊
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~綾音編~序章

 睦月も数えること後僅か。

 如月へと移り変わろうとするある日の真夜中。草木が一切生えていない整備された住宅地。住民達が寝静まる中、夜道を懸命に逃げる一人の女性。彼女は後ろから迫り襲う何かに追われていた。

ビチャン、ビチャン。

 闇夜の中から聞こえてくる重たい液体が地面に落ちる音。

 その音が聞こえる度に女性の心は恐怖で染められていく。

 合コンの為に気合を入れた身なりは崩れ、酔いは完全に醒めている。楽しかった今日の思い出は得体の知れない何かによって完全に壊されてしまった。

ビチャン、ビチャン。

「だ、誰か・・・。」

 助けを求めるが、恐怖で声が出ない。いや、出せないが正しいのかもしれない。

ビチャン、ビチャン。

 この音が彼女の正常な思考を奪い、徐々に追い詰めていく。

「あっ!」

 行きついた先は行き止まり。

 真冬で冷たい壁を背にして振り返る。

ビチャン、ビチャン。

 音は女性に近づく。

 闇夜に隠れていた正体がゆっくりと女性の前に現れ、女性は悲鳴を上げる。

 それは大きな泥だった。女性よりも背丈は大きく、人の形に似た泥の化け物――泥田坊(どろたぼう)である。

 闇夜から姿を見せた泥田坊は長い泥の手を伸ばし大きな口を開けて女性へ迫る。

 腰を抜かした女性は迫る恐怖から抗うように逃げれない壁の方へと身を逃がしながら助けを求める。

「ア・・・・・・アア。」

 泥田坊が初めて声をあげる。

 苦しんでいるような悲痛な声と地面に滴り落ちる泥の音が女性の耳を犯す。

「イ、イヤ・・・。」

 恐怖で掠れた声は夜風に吹き飛ばされる。

 泥田坊の腕が女性の身体へと触れようとした時、

「待ちなさい!」と背後から少女の声が静寂な夜を切り裂いた。

 高校指定のブレザー制服に着た赤髪の美少女。

 紅玉のように輝く瞳を持つその美少女の手には刀身の反りが深い日本刀が握られている。

「そこまでよ!妖魔――泥田坊!覚悟しなさい。」

 腰を少し下ろし日本刀を構える美少女。

 泥田坊は視線を女性から美少女の方へと向き変える。

「ア・・ア嗚呼・・・。」

 唸り声を上げる泥田坊。

 両腕を振りかざし何かを伝えようとする素振りを見せるが、美少女は一切の弁明を許さない。

「いくわよ夜叉丸。私に力を貸しなさい!」

 美少女の言葉に日本刀の縁部分に飾られている紫色の水晶が一瞬小さく光り、そして刀身全体に真っ赤に燃える炎が宿る。

「ア・・ア!」

 荒々しく燃える炎に泥田坊は戸惑いの様子を見せる。

 それを絶好のチャンスと捉えた美少女は地面を蹴り、泥田坊へ突撃。

 降り抜かれた一閃に泥田坊の身体は真っ二つ。

「嗚呼アア・・・。」

 泥田坊は苦しみとも悲しみともとれる声を残して朽ちていった。

「大丈夫ですか?」

 周囲に他の妖魔がいない事を確認し終え、腰を抜かしたまま振るえている女性へ優しい微笑みと手を差し伸べる美少女。

「い、今のは何?アンタは一体?」

 かすれ声での質問に美少女は自分の顔にかかる髪をするりとかきあげ、こう答えた。

「今のは妖魔。そして私は焔村綾音(ほのむらあやね)対魔師(たいまし)です。」


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