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九話 ペンは料理人になる

 予想通りママさんたちでごった返していたスーパーをなんとか抜けて必要なものを買いそろえた。俺は何が必要なのか全然分からなかったが、なぜか皐月は全部わかっているかのように商品をカゴにいれた。

 聞くところによると、いつもの皐月の雇い主の夫婦に料理を教えてもらっていたらしい。だからあんなに料理に対して前向きだったわけか。

 その夫婦に俺はまだ一度も会っていないが、夕食を皐月に分けてくれたり料理を教えてくれたりと随分と色々してくれる人たちだ。そもそも誰かも分からない皐月に仕事をくれた時点で感謝しかない。俺もどこかで挨拶に伺った方が良いだろうか。


「ということで今日は野菜炒めを作ります。仁さんも暇ならご飯を炊いてください」

「はいはい」


 ご飯全部自炊するということでお米も買ってきたのだ。実家から持ってきたものの一度も日の目を見ることがなかった炊飯器がとうとう仕事をする時が来た。流石に俺もお米くらいは研ぐことができる。

 俺が米をシャカシャカして研いでいる間に皐月は野菜を切っていた。まだまだ発展途上だからか切り方はたどたどしいものの、頑張って野菜を切っている姿に少しばかりほっこりする。これでエプロンでもあればとても絵になったのだが、残念ながらエプロンなんてものはこの家にはない。本当に残念だ。


「あ、それ取ってください」


 俺が米を研ぎ終わると同時に皐月から指示が飛ぶ。近くに置いてあった調味料を皐月に渡して俺は炊飯器に米を入れて自動炊飯。早炊きモードにしたので多分この速度ならちょうど皐月が完成させたくらいに炊けるはずだ。

 なんかこういうシチュエーションって男子なら一度は夢見たようなやつで…皐月にそういう気持ちは一切ないだろうから期待も何もしないけど。皐月は相変わらず俺を手下みたいに使って指示するし。


「そっちの皿取ってください」


 棚の中にはあまり皿を置いていない。ただでさえあまり使わないのに、それなのに割ってしまった時は非常に損をした気分になるからだ。

 でもこうして毎日料理をしてもらえるというのであれば食器を買うのも吝かではない。少なくとも茶碗は買ってこないといけないしな。なんせ今日は茶碗替わりにただの深皿を使う予定なので。


「うーんと…」


 いつの間にか持っていたメモ帳を見ながら皐月は料理をしている。ちゃんと教わったことはメモ帳に書いて記録していたらしい。流石ペン、いや元ペン。

 途中で俺はすることがなくなったので料理をしている皐月の後ろ姿を見ること数十分。俺の予想通り、ご飯が炊けるのと同じくらいのタイミングで皐月は野菜炒めを完成させたのだった。


「はい、どうぞ」


 俺の家の食卓にちゃんとした料理が並ぶのは初めてなのではなかろうか。

 というのも、俺が実家から届いた野菜を使って料理をするときは買ってきた焼きそばに混ぜるとかそういう使い方しかしてこなかったから、食材オンリーで作った料理というのは俺もしていないのだ。

 箸も二膳はなかったので置いてあったいつのか分からない割りばしを使う。記憶にないから少なくとも数ヶ月以内のものではないだろう。割りばしだからこそまだ使える。


「「いただきます」」


 まだ皐月の料理のレパートリーはそこまで多くないらしく、食卓に並んでいるのは白米と野菜炒め、そしてインスタントの味噌汁だ。味噌汁はまだ作り方を教わっていないらしい。

 とはいえここまで本格的な食事は本当に久々。外食とかいう食費の敵とは触れることがないしな。


「お、結構美味い」

「教わったレシピ通りに作ったので」


 たまにレシピに変なアレンジとか入れる人がいるが、皐月はそうじゃなくてよかった。むしろ皐月は調味料の量まで正確に計測するタイプだったようだ。まあそこらへんは今後料理をしていくうちに慣れて計測せずとも分かるようになるだろう。

 特に何か話すこともなく黙々と食べる俺たち。元より食事の時に俺は基本的に喋らないし、皐月も自分から進んで話題を振るタイプではない。でも俺はこれくらいの空気が一番居心地いいと思っている。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


 おかずは一つだけなのでそれさえ食べきってしまえば食卓には何も残っていない。ふう、いつもよりも量があったしとても満足。しかもこれからもこれが続くとなると…皐月が家にいてよかったと初めて思ったかもしれない。


「こんなにかわいい女の子がいるだけで得ですよね?」

「心を読むな」


 いやまあ大学生にして女子と同居とか中々心躍るシチュエーションではあるが…再三言うけども皐月が俺に冷たいのでそうはならない。普通もうちょっとこういう擬人化モノってご主人様への愛が溢れた子が生まれるもんじゃないのかねぇ…


「甘えるタイプじゃなくて悪かったですね」

「だから心を読むなって」


 でも甘えてくるタイプの子だったら、それはある意味皐月よりも精神的な負担が大きかったのではないかとも思う。

 そう考えると皐月が俺に冷たくしてくれるおかげでそこまで精神的な負担がないとも言える。やっぱり皐月くらいの子の方がちょうどよかったかと考えなおす俺だった。

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。作者が感謝の土下座をします(そろそろここに書く文章が思いつかなくなってきました)

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