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六話 ペンはその身を整える

 次の日。

 俺は皐月を連れ立って少し遠目の都会まで来ていた。家及び大学の周辺には大きな商業施設がないのでちょっと高めの移動費用を払ってでも来る必要があったのだ。


「一応買い物リストを作ったから確認してくれ。ネットで調べたものだからいらないものとか足りないものとかあったら言ってくれ」

「分かりました」


 皐月はずっと同じ服を着ている。どういう原理かは分からないけど清潔に保たれてはいるらしい。

 俺は俺で黒とかグレーの服ばかり持っているせいで、並んで歩くととても黒く見えるだろう。これでフードとかマスクとかサングラスとかつければ通報待ったなしだな。

 まず買うのは歯ブラシとかタオルとかの皐月専用になる道具類。昨日と一昨日は昔どこかで貰った使い捨ての歯ブラシを使ってもらったが、やはり専用の道具はあった方が良いだろう。

 もしかしたら衛生管理をしなくても健康のままなのかもしれないけど、食事や排泄をしている以上体内環境は普通の人間と変わらないだろうし、風邪をひかれたりすると面倒なので先に対処しておくに越したことはない。


「私はこれでいいです」


 皐月が手に取ったのはmatendaのペンと同じ色である黒の歯ブラシ。服もそうだけどやはり黒が好きなのだろうか。

 皐月が選ぶものは大抵黒だった。ただし黒色がないものについては女の子らしいかわいい柄を選んでいた。今はあまり女の子らしいとか男の子らしいとか言っちゃいけないんだっけ?

 ともかく、道具類はいくつかの店を回ることで揃えることができた。それぞれはあまり大きくないので荷物が増えないだろうと踏んで先に道具を揃えたが、予想通りそこまで重くない。


「ドライヤーは買わないのですか?」

「ここじゃ買わないよ。高いし。千円以下で買えるものがあるからそれを売ってるとこに行くぞ」


 ネットで調べたけど、高いやつは何万円もするものだった。一体何が違うのかまったく俺には分からないけど、使う分には安いものでもいいだろう。皐月しか使わないし。


「確認するけど、衣服は必要か?」

「売っているものもかわいいとは思いますけど、私はこれが気に入っていますし、どうやらこれは洗わなくてもいいみたいなので」


 皐月が着ている服は質感も見た目も普通の洋服と変わらない。しかし驚くことに全然汚れが付かないのだ。まるで服全体にコーティングがされているみたいに。

 泥水を全体にぶっかければまた何か変わるのかもしれないけど、今のところヨレヨレになっている部分もないし、寝るときに着たままでもシワができないのでそのままでいいだろう。服を買わなくていいというのは嬉しい。


「じゃああとは消費物だな」

「シャンプーとかリンスとかですね」


 服は汚れずとも皐月自身は汚れるので風呂に入る必要がある。ただ俺は風呂に入るときは石鹸で体を洗いシャンプーで頭を洗うという方法で体を洗っているので、女性の皐月の長い髪には適さないのだ。

 皐月の髪は今のところとてもきれいな状態だが、ちゃんと清潔にしておくべきだろうという判断で女性用のシャンプーを別に買うことにしたのだ。それぞれ別のシャンプーを使っても一日で消費する全体量は変わらないので損でもないし。

 とはいえ俺はそういう界隈のことはまったくもって分からないので皐月に任せることにした。


「あの、私もよく分からないんですけど」

「じゃあ店員にでも聞け。お金は渡しておく。俺は食料品売り場に行ってるぞ」


 俺がここにいてもできることはないので、お金だけ預けて俺は食料品売り場へと向かった。


____


 仁さんが食料品売り場に行ってしまったので私は再度必要なものを物色してみる。

 体は女性だけど女性の知識があるわけじゃなく、こういうシャンプーとかも何を使えばいいのか全然分かりません。髪の結び方だって調べなければ分からないのだから当然ともいえます。


「すみません。どれを選べばいいですか」

「そうですねぇ…お客様のような髪であれば…」


 私は店員に声をかけてオススメを聞いてみることにした。話の中でよく分からない単語が出てきたが、それはスルーで取り敢えず適当にオススメされたものを買うことにした。

 私はペンです。その自負がある。だから知らない単語も書くことができないといけないという考えが、なんとなく頭の中にある。帰ったら調べないといけませんね。

 買ったものを袋に詰めてもらって店を後に。仁さんは食料品売り場に行っているはずです。

 未だに私の好きなものとかはよく分からないけど…でも多分味の好みは仁さんとまったく同じだと思っています。

 五年も一緒にいて、私が食べたわけじゃないけど仁さんが食べているのを間近で何度も見ているのだ。記憶はぼんやりであっても、見ればそれが美味しいものなのかは分かる。

 きっと私のせいで食費は嵩んでいるのだろう。私だって仁さんに迷惑をかけたいわけじゃないけど、この体はちゃんとお腹が空いてしまうのが悪い。

 突然お邪魔することになってしまった私のことを…一度追い出そうと考えている様子ではあったけど…家においてくれているのだからそれなりの感謝はしている。

 だから、あの人が持っている距離感を大切にしようと思っているのだ。


「仁さん」

「来たな、皐月。買うものは買ったから一度帰るぞ」


 両手にいっぱいの荷物を持って家に帰る。

 ペンの時は出来なかった手伝いができるというのがちょっとだけ嬉しい私でした。

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