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四話 ペンの主は悩みを抱える

 俺が住んでいるところから電車で二十分ほどの距離に大学はある。おんぼろな家の唯一にいいところはこうして大学が近いことだろう。

 一度研究室に寄って机の上にレポートを提出してから講義の場所へ。この研究室の教授は典型的なパソコン嫌いだり、こうしてネットが普及してパソコンでレポートが書ける現代になっても未だに紙での提出を求めてくる。

 今日の一コマ目は現代文化学の講義だ。言い忘れていたが俺は文学部である。理由は特になく、人より少し字がきれいということが唯一文学部らしい感じに落ち着いている。

 出発が遅れたせいで焦ったからか逆に予定よりも早く到着したのでスマホを取り出してSNSを見ていたら隣に座る者が一人。


「今日は早かったね。どうした?」

「なんでもねえよ」


 纏う雰囲気が俺と同じな男、その名も坂本剛(さかもとつよし)。名前だけ見ると筋肉ありきのパワーキャラみたいな印象だが、それとは裏腹に比較的爽やかなタイプである。

 俺と同じ文学部であり、受講しているものも同じものばかりなのでこうして話す機会は多い。

 俺はバイトをする必要があるので部活にもサークルにも入っていないが、こいつは日本小説研究会とやらに入っていたはずだ。なので俺と違って男子にも女子にも交流がある所謂勝ち組というやつなのである。唯一の欠点は俺と絡んでいることくらいか。


「あれ、いつも使ってるペンじゃないんだ」

「ああ…家に忘れた」


 坂本は俺が使っているペンがmatendaではないことに気が付いたようだ。昨日なぜか女の子になったなんて言えるはずもないし、言ったところで信じてもらえるはずがないので適当に誤魔化す。

 いつもはmatendaを使うが残念ながらもう二度とあれを使うことはできなさそうなので、今日は別のkreepというペンを使う。matendaとは違って使用頻度は少ないものの持ちやすいので常に筆箱の中に入れている。


「こんな時間に来るくらいだし、さては焦って家を出たね?」

「ああそうだ。そして大学が終わったらすぐにバイトだよ」


 この妙に見透かしているような視線が俺は好きではない。基本的に好印象を与える喋り方と見た目でありながら、実際に喋ってみるとちょっと距離を取りたくなる。

 その後は適当な雑談をしていると教授が入ってきて講義が始まった。俺も坂本も講義はちゃんと聞くタイプなので私語はしない。

 その後は七十五分間の講義が続き、教授は用事があるとか言って途中で終わりとなった。二コマ目には特に予定はなく、次の俺の講義は三コマ目に入っているので少しばかり時間ができた。

 坂本は二コマ目もあるということで別れ、俺は一人休憩スペースでスマホを弄りながら考え事をすることにした。

 もちろん内容はマテンダ、もとい皐月についてだ。


「そういえば靴とかねえじゃん。どうするんだ…?」


 今思えば皐月が生活するために必要なものというのが一切ない。というかそもそも女性用の色々が俺の家にあるわけがない。

 皐月は人の姿になった時に既にあの全身黒の服を着ていたようだから衣服はどうにかなるとしても、タオルだとか食器だとかは一切存在しない。それに衣服もあの一着しか出せないとなれば最低でもあと一着は必要となる。

 それにかかる費用をスマホで調べながら計算すると…


「足りないだろ…」


 到底バイトでは補えない出費になることが確定した。

 もしマテンダが仕事をうまいこと見つけてきて収入が増えるとしても、この諸々の出費をどうにかするにはしばらくの間は超激安飯にしなければいけない。もやしかなぁ…

 農家である実家からの仕送りもほぼ期待できないもので、届いたとしても少ない現金か少ない野菜なので雀の涙ほどのものにしかならない。


「やっぱりバイトを増やすしかないのか…?」


 俺はそう呟きながらシフト表をスマホ画面に表示させた。そこには平日の放課後は毎日、土日もほとんどフルタイムで入っている表が写っている。

 一年の収入が扶養を超えた税金とならないくらいの量で調整しているが、それでも結構なバイト量である。皐月の収入に期待しようにもあちらもあちらで税金やら住民登録やらをする必要があるだろうし…


「はぁ、やっぱり追い出すべきか」


 結局のところそれが一番なのだ。住民票も血縁者も見つからない女の子となると警察に保護されて死ぬことはないだろうし、一応発見者なだけである俺が罪に問われることはないだろう。

 ただその時皐月が警察に何を言うかは分からない。なんせあちらは俺のことを何年も見てきた故の知識があるのだ。一緒に生活してきた人にしか分からないようなことを言うと、それだけで俺に矛先が向くのは間違いない。


「なんで神様はこんな厄介な女の子を出してきたんだ…」


 せめて食事が要らないとかそういう補助くらいあってもいいだろ…

 俺は次の講義が始まるまで放心状態で時間を過ごしたのだった。

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