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二話 ペンは口で説明する

 マテンダが食べた残りを食べることで少しだけ腹を満たすことができたあと、俺はマテンダと情報共有をすることにした。


「さっきも聞いたけど、原因は不明なんだよな?」

「はい。突然です」


 いきなり文房具が女の子になるなんて訳の分からない現象だが、俺の部屋はいわくつきというわけでもなかったので本当に原因は不明。これで幽霊のせいとかならまだ説明も…無理か。むしろ無理だな。

 一応ネットで似たようなケースがないか探してみたが、まあ当然のように見つからなかった。こんなことが過去にあったのならば最低でもネットニュースにはなっているはずなので仕方ない。


「どうして自分がmatendaのペンだって分かる?」

「なんとなくですけどペンとしての記憶もあるんですよ。特に大学で間違えて落とした挙句踏むといういじめのようなことをされたのはよく覚えています」


 一週間前の出来事じゃねえか。強い記憶、随分と新しいな。

 確かに俺は筆箱が開いていることに気付かず持ち上げてしまったせいでペンが落ちてしまい、焦って踏んだ。しかし間違えて踏んでしまうなんて誰でも一度は経験したことのあることだと思うし、いやまあ踏まれるのは痛いと思うけど硬いじゃんペンの君たち。


「それで俺に対して冷たいのか」

「冷たくなんてしてませんよ、ええ」


 若干怒気も感じられるような声で否定するマテンダ。俺は明らかに冷たくされていると思っているのだが…肯定してくれた方が安心できたかもしれない。

 その後もマテンダのことを色々と聞いてみたけど、多分本当にペンだったのだろう。もしくは正真正銘のストーカーかどちらか。

 matendaのペンは俺が高校に入る頃に買ったもので、もう五年ほどの付き合いとなる。マテンダにとって買われた日というのは特別だったらしく、その日の記憶だけはしっかりと覚えていた。ただ日付はともかく時間すらも正確に言われたところで俺が覚えていないので判断材料にはならない。


「matendaってそういう人になるって機能があるのか…?」

「それでしたらもっと私みたいなのがいっぱいいますよ」


 matendaはぶっちゃけそこまで高くもない普通のペンだ。特注品とか一点物というわけでもない、いたってシンプルな量産式のペン。俺以外にも買った人は多いはずなので、matenda自体に特殊な力があるとは思えない。


「同族で意思疎通できるとかないのか?他のペンも筆箱に入れてたんだし、何か分からないのか?」

「そもそも記憶はありますけど、その当時に意思があったわけではありません。他のペンからコンタクトを図られた記憶もないので、当時はどのペンも無機物だったと思いますよ」


 無機物が有機物に何の前触れもなく変化するなんてことあり得るのか?

 俺が家を出てコンビニに行って帰ってくるまで長く見積もっても十五分はかかっていない。もしどこかの国の秘密の研究所で無機物も人間にする研究が行われていたとしても、そんな短時間で済むことではないだろう。

 そもそもマテンダの体って本当に肉体なのだろうか。疲れ切った俺の幻覚ということもありえるが…先ほど弁当を食われたので存在しているのは確かだろうけど。

 少し触ってみれば分かるかもしれないが…


「へ、変態!」

「ああ違うそうじゃなくて」

「なんですか、警察に言いますよ」


 俺が悪かった。何も言わずに触ろうとしたらそりゃこうなるよな。

 あと警察に言った場合身元を言えないマテンダも警察の厄介になること間違いなしだ。しかもどれだけ調べたところで血縁はいないので警察の皆さんは盛大に頭をひねらせることになるだろう。

 もう一度、今度はちゃんと確認をとってからマテンダと握手をした。

 うーむ、女の子らしい手だ。俺の手よりも断然柔らかくて、ちゃんと肉体である。というか見た目から判断していたけど本当に女の子なのだろうか。ペンには性別などあるはずがないので両性なんていう可能性もある。


「失礼な。ちゃんと女の子ですよ。胸はありませんけど」

「なんでだ?」

「分かりませんよ。分かっていればちゃんと言います。そんなのだから女の子にモテないんですよ」


 お前も失礼だ。俺だって女の子と話したことくらいある。話したことくらいしかないけど。

 マテンダとの握手も含めて分かったことは、何も分からないということだった。現時点で何も分からないというのは停滞ではあるが、進歩でもある。ただこれ以上の進歩を望むのなら病院か研究所に連れて行く方がいいだろう。

 病院…マテンダの血の色ってちゃんと赤なのだろうか。matendaのペンは普通の黒インクのペンなのでもしかしたら血が黒色という可能性もある。もしそうなら病院で採血してもらったら注射器の中に黒い血液が入り、医者はビックリ仰天…なんてこともあるかもしれない。


「お前の血は何色だ?」

「死にたいんですか?」


 確かに俺は女性との接し方が非常に下手なのかもしれない。

 ちゃんと考えたことを説明したうえでもう一度血液の色を聞いた。するとマテンダは怖がりながらもハサミを取り出したので慌てて止めた。


「時が来るまで保留だ。いいな?」

「はぁ、私も自分をハサミさんで傷つけるのは遠慮したいので止めてくれて助かりましたよ」


 なら最初からしなければよかったじゃん。血液のことを聞いた俺も悪かったけどさ。なんて思っていたらマテンダに睨まれた。さっきも俺が考えていることを当てられたしエスパー能力でもあるのだろうか。


「五年も傍であなたが勉強しているところを見てきたんですから、どんな思考をするのかは分かりますよ」

「やっぱりエスパーじゃねえか」


 そもそも世の中の心を読むとかなんとか言ってる人は皆その人の僅かな動きからどんなことを考えているのかを大まかに当てているに過ぎない。むしろそれができるのであればその人はエスパーだと言ってもいいだろう。

 ともかく、本当に現時点では何も分からないのでもう諦めて風呂に入って寝ることにしよう。もしかしたら朝になったら全部戻っているかもしれない。


「寝るんですか」

「ああ」

「私はどこで寝ればいいですか?」


 どうしようかな。

 俺の家には布団は一個しかないし、誰かを招くこともなかったのでソファはない。つまり毛布類は布団一個しかないのである。


「でしたら私が敷布団の上で寝ますので、掛け布団の上であなたが寝ればいいじゃないですか」

「なんでさっきからお前の方が優先的なんだ。家主は俺だぞ」

「こんなかわいい女の子をそんなボロボロな掛け布団の上で寝させるんですか」


 こいつ、最初はかわいらしい見た目だとか思っていたけど段々とウザいと思い始めた。なぜ五年間も苦楽を共にしてきたペンにここまで冷たくされなければいけないのだろうか。

 何度かの押し引き問答の結果…やはり俺が掛け布団の上で寝ることになった。なぜだ。

 風呂に入って、寝巻に着替えて、掛け布団の上に移動する。用心でもしているのだろうか、敷布団とは随分と距離があるところに置かれている。俺にそんな度胸はないっての。

 朝になったら元に戻っていてくれと思いながら俺は目を閉じた。

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