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十四話 ペンは主の友に見つかる

 土日だと言うのに仁さんはバイトに出かけて行った。一週間の勤務時間が正社員とあまり変わらないことに仁さんは気付いているのでしょうか。

 私は今日は日中ずっと仕事。進藤夫婦は今日は予定があるとかで外出されているので追加の仕事をもらうことも、終わった仕事を渡しに行くこともできない。

 買い物も昨日終わらせてしまっているので今日は特に買い物に行く必要もありませんので、集中して仕事をすることができる。

 今書いている部分には図解がないので絵を描く必要はない。なので文字を書くことだけしていれば仕事は終わる。

 絵を描くのはとても楽しかったのですが、やはり文字を書く方が私には合っている。仁さんは絵を描くことなんてありませんでしたし、やはりペンだった頃の経験というのは私の技術にも直結しているんでしょうか。


「む…この漢字は…」


 特殊資料なのでたまに難しい漢字も存在している。その時は何度も元の資料と見比べて書き写すことになる。私はあくまである程度きれいに文字が書けると言うだけで、私が色々知っているわけじゃないので仕方なくこうなる。

 そんなふうに何度か私が画面と原稿用紙の間を行き来していると、唐突に玄関のドアがノックされた。

 このアパートはとても古くて、インターホンなどの設備がないので誰か来たときはこうしてドアをノックするしかない。ただし、仁さんはネットで買い物をしないし、友人をここに招き入れることもないのでノックされたことは一度もなかったはずだ。そのため私はびっくりして体が跳ねてしまった。

 体が跳ねた影響で歪んでしまった文字を見つつ私はドアへと向かう。一応ドアにある小さい覗き穴から見ていると、見知らぬ男性が立っていた。仁さんと同じくらいの年齢でしょうか。


『夏目ー、いないのですかー?』


 夏目…仁さんの苗字だ。うーん、見た感じ大学の同級生といったところでしょう。

 とはいえ私が出ることはできない。仁さんから「誰か来ても勝手に出るな」と言われているからだ。私のような女の子が家に1人だと何をされるのか分からないとのことだった。


『君のkreepを折角僕が直接渡しに来たというのに…』


 kreep…確か仁さんが私の次によく使っていたペンだ。私からするとライバルみたいなもの。

 私がペンとしての役割を果たせなくなってからは、大学でkreepを使っていたらしい。なんだかんだペンを大切にしているペンを落としてしまうというのは考えにくいが、もしかしたらこの人に貸したというのも考えにくい。

 どうしよう…流石に私が受け取るというのはダメだろうし…


『それとももしかして噂の彼女がいるのかい?だとしたら僕に見せてくれよー』


 か、か、彼女!?仁さんは一体大学でこの人に何を話したんですか!

 落ち着こう。ふー…よし。

 仁さんが大学で何を話したのかは帰ってきたときに問い詰めるとして、この人のことは放置するしかない。むしろ仁さんの家に訪れたら私がいるときの方が変な誤解を生じさせることになる。

 私がこの姿になった当時は何も考えずに大学で書記をするなどと言ったものだが、今考えてみるとあれは相当によろしくない。進藤夫婦にも彼女だと間違えられているし、結構彼女として扱われると恥ずかしくなる。

 この人は…多分面白がるタイプ。ペンだったときもきっと私はこの人に会っているのだろうけど、私には文字の記憶と仁さんとの記憶しかないのでこの人の素性は分からない。


『…もしやバイトか?君は土日にも飽きずに朝からバイトに行っているのか?』


 そうです。


『確かに前は少ないご飯ばかりで心配だったけど、あれもお金のためなのか?』


 そうです。


『そして…弁当を作ってくれる彼女ができたから更にお金を稼ごうとしているんだね!?』


 そうで…いや、それは違うと思います!

 どうやら私は自分が思った以上に焦ってしまったようで、ドアにぶつかってしまった。そのせいで振動が外の男性にも伝わってしまう。


『…やはりいるんじゃないか。せめて返事くらいしてくれないと悲しいのだけど』


 まずい。もう居留守は使えなくなってしまった。

 仁さんは既にバイトに行った後だし、持っていくものが少ないから忘れものをして戻ってくるという可能性も非常に低い。男性もドアの前でスマホを弄りだしたので動く気配がない。

 …仁さんには後で謝っておこう。


「何の用ですか」


 私は鍵を開けて男性と対面した。小さい覗き穴からは分かりにくかったけど、やはり仁さんと同じくらいの年齢に見える。


「……」

「あの…」

「…ああ、すまない。ええっと…夏目の部屋だよね?それとも僕は間違えちゃったかな…」


 ここで部屋違いだと言えば時間稼ぎはできる。けどもあとで確認したときにやはり合ってたとなるとむしろ怪しさが増してしまう。


「合っています。あの人は現在はバイト中なので」

「そうか…君は?」

「春野皐月です」


 仁さんから貰った名前を言うのはこれで二回目。ずっと私はmatendaだったから未だに少し違和感がある。仁さんが名前で呼んでくれるから名前の方はもう慣れたけど、苗字には慣れない。


「夏目に姉妹がいるって話は聞いたことないし苗字も違うってことは…やはり彼女か」

「いえ、えっと…彼女ではないんですが…」

「彼女じゃないのに夏目の部屋にいるのかい?もしかして僕が思っている以上に事件性が高い?」


 胡乱な目でこちらを見だした男性に慌てて言葉を付け加える。


「ちゃんと鍵は貰っています!ただ色々と事情があって…」

「ふむ…僕は坂本剛。夏目が帰ってくるまで色々と話したいことができたから失礼するよ」


 私が何か言うよりも先に家に上がり込んできた坂本さん。

 一体私はどうすればよかったのでしょうか。

「ドアに近付かなければよかったんだよ」って思った人は評価や感想をお願いします。作者は若干調子が悪いです

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