十二話 ペンの弁当を講評する
いつも通り大学に来て、講義を聞きレポートを提出して研究をする。
基本的に平日の生活というのは変化がなかったのだが、先週から大きな変化があった。そう、知っての通り弁当である。
この一週間の間に弁当用のレシピを多く教えてもらったのか、夕食のラインナップはあまり変わらないものの、弁当の中身の冷凍食品率が下がってきていた。最終的には冷凍食品なしのフル手作り弁当が完成するかもしれない。
「あのさ、本当にそれ作ったの誰なんだい?」
「誰だっていいだろ。坂本はパン食っとけ」
「君の弁当と比べると貧相に見えるだろっ!」
坂本と並んでテラスのようになっている休憩スペースで昼食。坂本は近くのコンビニで買ってきたパン二つで、対する俺は皐月の弁当。確かに比べるとパンが非常に貧相に見えるな。
最初の頃こそ揶揄うことが多かった坂本だが、あの日から毎日弁当を持ってくる俺を毎回揶揄うのは面倒になったのか、今では羨む程度に抑えられている。
坂本は典型的な大学生らしく一人暮らしであり、俺の家とは違って仕送りが潤沢だから俺ほどバイトまみれの生活をしてはいないものの、食事が自炊じゃないのは俺と同じだったので昼食はよく仲良くコンビニご飯を食べていたのだ。
そんな俺たちの仲を弁当が切り裂いた…と言うと大袈裟だが、まあ坂本が羨む理由はそこにある。
「君が自分で弁当を作るはずないし、そんでもって母でもないんだろ?ならそれはもう彼女しかいない!」
「彼女じゃないって」
そう、彼女ではないのだ。同居している女の子ではあるがそういう関係では一切ないので彼女なのかという質問には逡巡することなく否と答えることができるのだ。
俺とて嘘をつきたいわけではないので「同居している女の子なのか」という答えにはイエスと言うつもりだが、まあ普通に考えてそんな質問が出てくるはずがない。勿論自分から言うつもりもない。
「いつか教えてもらうからね…」
「お前こそ彼女作って弁当もらえばいいだろ」
坂本は陽キャなのだ。明るい性格だし、顔も悪くはないので彼女を作ろうと思えば作れる側の人間だと思うのだが…
「そんな私欲のための彼女はダメに決まっているだろう!もっと…こう…純愛でないと!」
そういえばこいつ純愛好きだったな。小説研究会に入っている坂本は、専ら恋愛小説を多く読んでいるとか聞いたことがある。
小説のような完璧イチャイチャカップルというのはそうそう生まれるものではないだろうけど、坂本が言う通り本気の恋愛じゃないといけないということには賛成だ。俺とて適当に彼女を作ってすぐ捨てるようなクズ男は嫌いである。
「坂本はまだ好きって相手はいないんだろ?」
「そうだね。それこそ運命の相手みたいな人がいれば僕だって彼女を作ろうと躍起になるよ」
モソモソしたパンをモソモソしながら食べる坂本。その姿にどこか哀愁すか感じるのは気のせいだろうか。
「というか俺が自分で作った可能性はなんで切り捨てるんだ」
「そりゃ最初の冷凍食品が多く入っていた弁当を見たときは無理して作ったのかと思ったさ。君の家に炊飯器があるのは知っているから米でも貰ったのかと思ってね。でもこの一週間にどんどん内容が豪華になっていく。そんなの恋人修行中の彼女しかいない!」
そうか、こいつのちょっと妄想的な考えが原因で彼女ができないのか。なんかちょっとわかったような気がする。
どうやら傍から見ても弁当は豪華になっていっているらしい。味はそこまで変わらないが、安定していると言い換えることができる。皐月の料理スキルは日に日に上がっているということがなんとなく分かって少しほっこりする。
「一口くらいおくれよ」
「えぇ…じゃあほら」
爪楊枝に刺さっている唐揚げを差し出す。見るからに冷凍食品だと分かるが、別に指定がなかったのでこれでもいいだろう。
「…そんな冷凍食品を貰ったところで嬉しくないんだが?君も分かっててやっているだろう。その卵焼きとかを寄越せと僕は言っているんだ」
「仕方ねえな…」
分かっていたからこそ差し出した唐揚げを元の場所に戻す。
そして俺はなけなしの卵焼きを一切れあげた。俺にとって食料というのは死活問題なのでそんなにあげたくはないが、あげないと後でネチネチ言われそうなので一切れ妥協することにした。
「…とてつもなく美味しいというわけではないけど、いい味付けだね」
「文句言うならくれって言うな。俺の大切な食料だぞ」
俺は卵焼きを自分の口に運ぶ。確かにとてつもなく美味しいというわけではない。しかし味付けは俺好みなので全然満足である。むしろ作ってもらっておいて文句をつける権限は俺にはない。
モソモソパンを食べる坂本を横目に見つつ、俺は皐月に感謝をささげるのであった。
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