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十一話 ペンは今更羞恥する

「ただいまー」

「おかえりなさい」


 既にもう馴染みとなった挨拶をして家に帰ってくる。今日も今日とてバイトを終えて帰ってきているので心身共に疲労しており今すぐにでも寝たい気分である。

 いつもならばここで俺が皐月に買ってきたご飯を渡して夕食の時間となるわけだが、今日からは違う。


「帰る時間がいつも同じで助かります。ご飯はちょうどできましたよ」


 皐月が台所に立っている。やはりエプロンを着せたいな。例え相手にその気がなくとも、帰ったらエプロン姿の女子が料理を作って待ってくれてるなんて夢みたいなものだろう?

 それはともかく、俺はリュックを置いて食卓へ。どうやら早速レシピを教わったらしく、今日は味噌汁があった。名も知らない夫婦よ、あなたたちは神か。


「弁当箱はそこに置いておいてください。洗いますので」


 いつも通り冷たい口調でありがたいことを言ってくれる。

 しかしながら俺は皐月に仕事を押し付けるのはどうなのかとも思っている。昨今では家で働かない夫に嫌気がさしてイライラする主婦も多いと聞くし、皿洗いくらいは俺だってできる。こういうところで少しでもポイントを稼いで皐月との距離を縮めたいとも思っている。


「皿洗いくらいは…」

「ご飯を食べ終わったら仁さんは先に風呂に入るじゃないですか。その間に洗っちゃうのでお構いなく」


 ごもっとも。

 女子が入ったあとの風呂というのが俺にとってとても気になるところだったので、風呂には基本的に俺が先に入っている。その間皐月は暇になるので皿洗いでも仕事でもいくらでもできるだろう。

 …好意に甘えるか。


「ほら、早く座ってください」

「はいよ」


 味付けは違うらしいが、ラインナップとしては味噌汁が加わった以外変化はない。勿論男子学生からすれば味噌汁が加わるというのはとてつもなく大きな違いではあるのだが…腹にたまるかと言われると味噌汁はなぁ…


「「いただきます」」


 二人で手を合わせてからご飯を食べ始めた。

 なんというか…これからこういう光景が日常的になると思うと心が落ち着かなくなるな。だってこんなんカップル通り越して夫婦だろもう。

 顔色一つ変えずに食事をする皐月。それを眺めながら食べているとふと顔を上げたのでちょっと驚いてしまった。気に障っただろうか。


「弁当は…どうでしたか?」

「ん?ああ、美味しかったよ。坂本…友人に揶揄われたけどな」


 いつもは静かに食事をしている皐月が珍しく話題を出したと思ったら、弁当のことだった。

 冷凍食品やら残りやらをいれた簡単な弁当ではあったが、正直に言おう。めっちゃ美味かった。

 ご飯そのものが美味しいというわけではないのだろうけど、弁当があるという事実が俺にいつも以上の感動を与えたのだろう。

 ただ俺が大学に弁当を持ってくるなど初めてだったので当然の如く坂本に揶揄われた。

 とうとう彼女ができただの、心配した親と住み始めただの色々と憶測を言われたが、俺も皐月の出自について説明するわけにはいかなかったので黙秘権を行使することとなった。

 多分明日も揶揄われるだろう。

 美味しかったという感想に安堵したかのように見えた皐月だったが、その次の揶揄われたという表現には疑問に思うことがあったようだ。


「なぜ弁当を持ってくると揶揄われるのですか?確かに大学に弁当を持ってきていたのは少ないような記憶がありますが…」

「最初から弁当を持ってきてるやつなら何も思われないだろうけどさ。今まで食堂やらコンビニ弁当やらで昼食を済ませてきたやつが急に弁当を持ってきたら何かあったのかと思うのは当然だろ?」


 実際俺も食べている間に何で俺は弁当を食べているのだろうと疑問に思ってしまった。

 今日の朝、皐月が弁当を渡してくるまで俺は弁当があることを知らなかったわけで、更には弁当を渡されたのが出かける直前だったため何も考えずに取り敢えずリュックに入れてしまったのは一つの失敗だっただろう。


「朝に言わなかったんだが…今朝のやり取りはどうかと思うぞ?」

「今朝のやり取りですか…」


 味噌汁を飲みながら思い返している様子の皐月。

 そして突然彼女の動きが止まった。しかも少し顔が赤くなっていっている。


「…私とあなたはそういう関係ではありませんからね」

「んなことは分かってるよ」


 味噌汁を置き顔を真っ赤にした皐月がそう注意してきた。俺も掘り下げるつもりはないので肯定しておく。

 一体皐月が何を指して「そういう関係」と言ったのかは定かではないが、朝に俺が抱いた感想とそう大差はないだろう。今朝、皐月は少し恥ずかしそうにしていたが…あの時点では思い至らなかったのだろうか。

 ただ懸念として、ここで俺が言ったことで明日からは弁当を作ってもらえないかもしれない。それは少し残念…いや、大いに残念なのだけど…


「そ、そんな顔しなくてもちゃんと明日も作りますから。台所に置いておきますよ」


 焦った様子でそう付け足してくれた皐月。それなら俺も一安心。

 いつも冷静だと言うのに今日は恥ずかしがったり焦ったり色々と知らない皐月の一面を見れて少し楽しかったな。

 そしてやはり新婚みたいな感想になってしまうのは…恥ずかしいものでしかないな。

自分も皐月の弁当が食べたい!と思った人は評価や感想をお願いします。作者は不定期投稿すぎる事実に少し恥じています

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