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十話 ペンは弁当を手渡す

 皐月の料理によっていつもよりも満足感のある食事を終えて風呂から出たときのこと。

 料理をしたとはいえ使った食器は少なく、皿洗いは数分で終わったのだが、未だに皐月は台所に立っていた。


「どうした皐月」

「あっ…なんでもありません」


 それだけ言って皐月は冷蔵庫に何かをいれた。それが何なのかは分からなかったが、特段興味もわかなかったのでスルー。タッパーなんてほとんど使う機会がないものを使ってくれたので気になったのはそこだけだな。

 俺は皐月に風呂に入るように言ってスマホをいじりだした。

 俺はあまりスマホゲームとかをやらない。する時間がないからな。ただネットニュースなんかはよく見るようにしていて、最近では皐月の謎についても調べたりしている。文房具の擬人化などという検索では何一つとして有益な情報はヒットしなかったが。

 さて寝る前に少しニュースを見ようとニュースサイトを開く。そこには特にとりとめのない記事しかない。正直選挙権があってもあまり政治に対して興味がないし、巷で話題のファッションなりスイーツなりにも興味がない。

 ついでにとばかりにまとめサイトにもアクセスした。人気な記事、というところに俺は動きを止めた。


【女子が好きな人に冷たくなる理由三選】


 …ないな。

 冷たい女子ということで頭に皐月の姿が思い浮かんだが、あれは多分長年の付き合いによる程度が距離の取り方なのだと思う。

 確かに分かりやすく俺に冷たい皐月の態度が気にならないと言えばウソになるが、だからと言って俺が好きだからとかそういうのではないと思う。というかあれは元々ペンなのでそういう感情があるのかどうかすら怪しい。

 俺はすぐにスワイプしてそのページが見えないようにした。見えていたら妙に気になってしまうので。


「お風呂出ましたよ…どうしたんですか変な顔して」

「変な顔なんかしてねえよ」

「してましたよ。まるで気になっていたことを的中させられたかのような顔をしてました」


 皐月の洞察力はよく分からない。まるで~と言われてもその顔が全く想像できないが、まあ普通の顔ではないのだろう。

 俺はスマホを片付けて風呂の後処理をするべく立ち上がった。



 翌日、朝起きると、いつもは俺よりも朝起きるのが遅いはずの皐月が俺よりも早く起きていた。

 皐月は仕事の内容的にいつ起きても問題ではない。朝ごはんを食べると脳が活性化するので朝ごはんは食べた方がいいことは自明だが、食べなくてもいいのだ。

 ただ皐月は規則正しく俺と同じくらいの時間に朝ごはんを一緒に食べる。ちゃんと二人分用意するようにしているので最初の頃みたいに俺が食べている分を半分食べられるとかそういうことにはならない。

 ただ、今日のように俺よりも早く起きて何かをしているということは珍しかった。


「おはよう皐月、何してるんだ」

「おはようございます仁さん。秘密です」


 見ると皐月の手元には包まれた箱が置いてあった。なんだ?

 ふと、こういうシチュエーションでは弁当を作ってもらうというものが思い浮かんだが…期待しすぎはいけないので頭の隅に追いやる。


「朝ごはんは作ってしまっているので早く食べましょう」

「お、おう」


 さっさと朝ごはんを手に持って机へと移動する皐月。この時点で俺の頭の中に箱のことなど一切残っていない。

 いつも通り食パンを食べる俺と皐月。夜ご飯はしっかりと料理してもらったが、やはり朝はこれでなくては。安上がりだし、なんだかんだ朝のルーティーンのようになってしまっているのでこれを食べないと一日が始まった気がしないのだ。

 そこまで時間をかけずに朝ごはんを食べ終える。少々口内の水分がなくなってしまうのが問題ではあるが、お茶を一杯飲むことで解決する。

 今日も今日とて大学ということで俺が朝の準備を終えて家を出ようとすると皐月に呼び止められた。


「仁さん…」

「どうした?」

「えっと…」


 振り返るとすぐそこに皐月が立っていた。その手には先ほどの包まれた箱を持っている。

 本当に?期待してもいいのか?


「…弁当を作ったのでどうぞ」

「まじか」


 まじで弁当だった。顔には出さないようにしつつもとても嬉しい。

 俺は昼もコンビニで買ったおにぎりか学食の何かを食べているので家から何か持っていくということがない。

 朝にかわいい少女から弁当を貰うなんて夢のような体験だが、そもそも家に突然擬人化した女の子が現れる時点で夢みたいなものなので今更だと思いなおし精神を落ち着かせる。


「朝準備していたのはこれか?」

「実は昨日の夜から…」


 珍しく少し恥ずかしそうにしながら言う皐月。今朝は珍しいことばかりだな。

 どうやら昨日のおかずを少し残して保存したり冷凍食品をなんとかして弁当にいれたようだ。流石に全部手作りみたいな真似は料理初心者には期待していないのでその点では何も言うまい。

 黙りこくってしまった皐月から弁当を受け取りリュックに入れると俺は家を出た。出る時には「いってらっしゃい」と言ってもらったが、その声はいつもよりも小さかった。

 かく言う俺もなんだか恋人みたいなやり取りに家を出たあとに気恥ずかしくなってしまった。あまり慣れないことはするもんじゃないな。

良き…と思ったら評価や感想をお願いします。作者はここの文言を変えることを諦めました

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