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一話 ペンは生まれを書き留める

新規連載です。よろしくお願いします

「ありがとうございましたー」


 夜ご飯の弁当を持ってコンビニを出る。今日は安くなってたチキン南蛮弁当を手に家へと帰る。

 夏目仁、大学二年生、日々のアルバイトでお金を稼ぐ普通の男子学生。俺のことである。

 実家がある畑と田んぼばかりの田舎から上京してきて夢の大学生活…のはずだったのだが、何か特別なイベントが起きるわけでもかわいい幼馴染がいるわけでもない俺を待っていたのはアルバイトでお金を稼ぐだけの毎日だった。


「夜食って寝たら明日に備える。そういや一コマ目からだったな…」


 家に帰りながら今後の予定を確認する。とはいえいつもと変わることもないのだけど。

 明日起きるのは何時にしようかと考えながら家に到着する。さっさとご飯を食べて風呂に入ってしまおう。


「ふぅ…」

「おかえりなさい」

「え?ただいま…え?」


 いつも家には俺一人なのでただいまなんて言わないのだが、突然かけられた声に反応して言ってしまった。現在お隣さんはいないおんぼろアパートであり、そもそも鍵は俺か大家さんしか持っていないはずなので家族がいるとかもあり得ない。誰だ?


「こんばんは」

「うわっ、不法侵入だ!」


 顔をあげるとそこにはかわいらしい少女が…とかときめくよりも先に不法侵入者への警戒をする。アパートの見た目通り俺の部屋にも金目のものなどありはしないので空き巣にとって旨味など一つもないはずなのだが…


「違います。ちゃんとずっとここにいましたよ」

「まさか屋根裏に…?不法滞在者か!」

「違いますって」


 因みにただのアパートなので屋根裏に住める空間など存在しない。住人はネズミかGかどちらかだろう。

 距離を保ちつつ少女の姿を見る。長くて黒い髪と黒のスカート。服の種類など分からないが、着ている服は一部の白のラインを除いてほとんど黒で構成されていた。顔と手以外は全身黒である。ストッキングだけ少しグレーでなのは何かこだわりでもあるのだろうか。

 背丈は大体150cmくらい、多分。俺の家にも背の高い観葉植物を置いておくべきだっただろうか。


「…誰だ」

「私の名前はマテンダです」


 マテンダ…?外国人なのだろうか。随分と日本人のような見た目だけど…それにどこかで聞いたことがあるような…?あっ。


「あなたがいつも使っている…」

「ペンの名前か!」


 俺がいつも大学の講義の書き取りに使っているペン、その型番の名前がマテンダだったはずだ。現物は筆箱の中に入っているので確認することはできないが、軸のところにMatendaと書かれていたような気がする。

 なおペンの名前は英語だけど会社はれっきとした日本の会社である。名前の由来とかは調べていないので分からない。


「なんで俺の使ってるペンを知ってる!?まさかストーカーか!」

「あーもうっ、私はそのペンなんですよ。ペン自身です」


 …はい?


「…病院行くか?お金がないなら、いやまあ俺もないけど…」

「大丈夫です。ちゃんと正気で言っていますって。私自身もあまり信じられないですけど、急に人間の体になっちゃったんです」


 うーむ、全く信用できない言葉だ。先に俺の部屋にいたから筆箱の中身を見て適当なペンの名前を持ってきた可能性もある。見た感じ刃物とかを持っている様子はないし、取り敢えず近づく。ずっとドアの前と部屋の間で会話していたからな。

 まあここで殺されてしまうのなら、こんな少女に殺されるのであれば本望…いやいやそういうわけではなく。


「あー、もう一度自己紹介してもらっていいか?」

「私はマテンダという名前で、私もよく分かりませんが突然人間の体になっちゃったんです。課題終わった後に筆箱にいれないで出かけましたよね?そのおかげで筆箱は無事ですけど…私が、えっと、私の元となったペンはなくなっちゃいました」


 一体いつから日本はファンタジーになったのだろうか。というかファンタジーなら少女が増えるとかよりも剣と魔法の冒険の方が好きなのだが…


「ペンに戻れたりとかは?」

「できないですね」


 そうか…彼女が本当にペンなのだと仮定して、俺に不利益は…特にないな。いや、お金関係が問題か。ただでさえ一人生活で困窮しているというのにもう一人など増えてもお金が足りるわけがない。一人で生活してくれないかな…?


「何考えているかなんとなく分かりますよ。一応私の認識だとここ、というかこの筆箱が私の家なので出ていくとかはあまりしたくないんですけど…」


 そう言ってマテンダは俺の筆箱を持ち上げた。文房具店で買った安めのペン入れだ。

 布製なので落としても壊れたりすることはないが、容量はそこまで多くない。ただ最近の大学ではそこまでペンを使う用途がないので問題はないのだけど。

 筆箱を持ち上げながら悲しそうな顔をするマテンダ。うーん、まあ彼女自身は俺に対して敵意はないみたいだしお金は…俺がもっと稼げば解決する、かも。


「分かった。取り敢えずご飯を食べていいか?腹減ってしまって」

「ええ。私の分はありますか?」

「ないよ。いると分かってたら…いや二人分も買うほど今月余裕ないな」


 親の仕送りが非常に少ないのが悪い。そもそも親も俺と同じでお金には常に困っているのだ。田舎の両親は例にも漏れず農家なのだが、そこまで広い敷地ではないので稼ぎが少ないのである。

 やはり彼女にもバイトか何かをしてもらう方が良いかもしれない。というか大家さんにはなんて説明したらいいんだ?


「でしたら半分こにしましょう」

「え、それは…」

「別に少しお腹にいれれば大丈夫でしょう?私もお腹すくんですよ」


 そう言って俺が持ってた弁当を奪い電子レンジにいれたマテンダ。確かに問答をしていたせいで冷めてしまったな。

 無言でチキン南蛮が温まるのを待つ俺とマテンダ。非常に気まずい。だってペンが少女になったなんて普通信じることなんてできないだろう?とはいえもう夜だしどうしようもないけど。

 待つこと二分、沈黙を破る電子レンジのメロディが部屋に響いた。


「では私が先に食べるので残りをどうぞ」

「あ、ちょ」

「いただきます」


 俺が静止する暇もなく食べ始めるマテンダ。

 え、なんか彼女俺に冷たくね?

登場する文房具の会社と型番は存在しないものです


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