7,ヒロイン様のご登場ですのよ!
国王様のスピーチが終わったあと、身分の高い貴族たちだけの集まりがある。私も勿論出席が必要なので、他の貴族の子が楽しそうに団欒をする中、簡素ながら飾り付けられた別室へと移動し、ちょっとした顔合わせなどをした。
「お手洗いに行って参りますわ」
「ああ」
1時間ほどで解放された私たちは、廊下を歩いて割り振られた教室へ向かう。教室で説明会が始まるまでにまだ時間があったので、トイレを先に済ませておくことにして、私は両親のそばを離れた。
因みに、教室は完全に学力制。
入学試験の成績が高い順にA、B、Cとクラスが割り振られていく。一クラスは大体20人ほどで、身分の関係なく同じように席に着き、同じように生活を共にする、という風に建前づけられている。
まあ、実際ユーラウス様に対していきなり対等に話しかけられるほど肝の座った人がいるかどうかは別のお話。
「――――!」
ぼんやりとゲームの設定を思い出しながらお手洗いへと向かう途中、ふと廊下の奥から声が聞こえた。
どうにも、ヒステリックな声に聞こえる。
その険悪な雰囲気に、背筋を冷たいものが走った。
まさか!
トイレに行きたいのを忘れ、私は声のほうへ急いだ。
ゲームと全然違うイベントばかりだったし、国王様がわざわざ釘を刺してくれていたから、私は心のどこかで高をくくっていたのかもしれない。
虐めなんて、起こらないって。
「――ねぇ、貴女のような男爵風情が、どうやってこの学園に入れたと言うの?」
「え……それは、頑張って勉学を――――」
「嘘つき!まともな家庭教師を雇うお金すらない男爵家程度の娘が、入れるわけないでしょう!」
「どうせ裏金でしょう!いくら積んだのよ」
「う、裏金なんてやってません!そもそもそんなお金ありませんし……」
「はっ、これだから貧乏人は。ならどうせ、体で篭絡でもしたのではなくて?」
吐き気がした。
険しい顔の女子が6,7人で一人の少女を囲い、言葉というナイフを何度も、何度も突き刺す。
気持ち悪かった。
「そっ、そんなこと!」
「あらどうでしょうね。あんたの母親も、お金で身分を買った売女だって噂ですしねぇ」
「お母様はそんな人じゃない!!」
……あぁ、かわいい……。
気持ち悪い少女たちに囲まれて涙目で叫ぶあの可愛い小動物が、私の最推し、メアリ=セントラー。
……って見ている場合じゃなかった。
助けに行かないと。
「あら貴女たち、ごきげんよう。何をなさっておいでで?」
何も聞いていなかったかのように、平然とその場に姿を現せば、途端にメアリをかこっていた女子たちの顔が強張った。
「ディ、ディーナ様がなぜこのような場所に?」
「お手洗いに行こうとしましたら、なんだか騒がしい声が耳に入りまして。何かありましたの?」
すっとぼけてにっこりと微笑んで見せるが、その真意は伝わっているはず。
――今だったら見逃してあげるから、さっさと消えなさい。
「な、何でもありませんわ。あ、っそ、そういえばわたくし用事を思い出しましたの。これにして失礼いたしますわ」
「わ、私もですの」
青い顔をしながら次々と逃げていく彼女たちを、最後まで見届けてから私は、残ったメアリににっこりと微笑みかけた。
「大丈夫かしら、メアリ様?」