4,プロローグはもう終わりです!
さて、3話しかない上に1ヵ月近く放置してる作品に対して40もの評価をしやがり下さる物好きで奇特で控えめに言って神な皆様方。
お久しぶりです、そうです乙夜です。
最近精神へのダイレクトアタックが止まらなくって眼の光が消えつつある乙夜の、現実逃避です。
私がこれからやらなければいけないことは何だろう。
のんびりと馬車に揺られながら、考える。
私の目標は、王子様に幸せになってもらうこと。
具体的には、ヒロインと結婚してもらうこと。
皆にとって、それが一番の幸せだからね。
ただ、それをするためには私が婚約破棄されなきゃいけない。
でも、王子様の恋愛事情だけで婚約破棄をすることはできない。
私が、何かをやらかさないと、婚約を破棄する口実が作れなくて、ヒロインと王子様が結婚できなくなってしまう。
それはダメ。
だから、私が何かやらかせばいいんだ!
と、そこまで考えたけど、そこで悩むことになった。
「何をすれば王子様の妻として相応しくないと思ってもらえるのかな……」
ゲームだと、ディーナは目に余るほどヒロインに嫌がらせをしたということで罪になったわけだけど……。
私はゲームで出てきたヒロインを思い浮かべる。
え、あんな可愛い子を虐める!?
むりむり!
私にはできない、そんなこと!
むしろあんな可愛い子が目をうるうるさせてたら、思わず抱きしめてしまいそう。
でも、じゃあどうすれば……。
そんなこんなでしばらく悩み、やがてひとつの結論を思いついた。
「無能アピールをして、王様に見限ってもらおう!」
王子様の妻ってことは、ゆくゆくは王妃。
つまり、ある程度有能でないと務まらない、はず。
そこで私が、貴族の仕組みを理解していないような発言や、空気を読まない発言を繰り返せば。
王様とか、王子様が、私では婚約者に相応しくないと判断してくれる、はず!!
ふっふっふ、我ながら完璧な作戦だ!
……ひとりでドヤ顔をしていたら、お父様に怪訝そうな顔をされました。
そうだった、馬車の中にいるんだった……。恥ずかしい。
ま、まあ、とりあえず方針は決まったね!
そうと決まれば、入学式のスピーチも、ちょっとやらかしちゃおう!
大きくやらかすのはちょっと私の羞恥心の問題で無理なので、ちょっとずつ、ね。
可哀そうな子って思われたいわけじゃないからね。
「ディー、さっきから何を考えているんだい?随分と顔が忙しいようだけど」
「ふふっ、見てて飽きないわね」
は、恥ずかしい!!
…………本当に、それで良いのかな。何か忘れているような……。
***
「本日は、厳しい試験を無事通過し、見事この高校に進学なされた皆様を、祝福するとともに歓迎する会となっております――――」
ゲームで聞いた通りのセリフから、入学式は始まった。
司会を務めているのは、生徒会の方。
純白のアーミーセーターを基に作られたジャケットに、金の刺繡が施されている、綺麗だけど凄くお金のかかっていそうな制服。
「――――ではまず、学校代表である生徒会長より、新入生の皆様への祝辞を行います。ルーカス君」
「――はい」
そういって立ち上がり、前の壇上に登っていったのは、銀髪の美男子、ルーカス=デイト。
キリッとした美貌の上、いつも無表情なことから、氷の王子という別名を持ち、数多くのファンを持っていたゲームの中のキャラだ。
すでにファンがいるのか、壇上にルーカスが上がると黄色い悲鳴があがったけど、ルーカスが咳ばらいをするとすぐに収まった。
「――初めまして、私は麗怜大学園の生徒会長を務める、ルーカス=デイトです。本日は、この晴れた良き日に、新たな仲間がこの学園に入学することを祝うとともに、これからの学園での生活について、幾点かお話ししようと思います」
緊張など欠片もしていなそうな顔色で、淡々と告げるその姿に、周りで多くの女子が見惚れているのが見えた。
あの美貌で、生徒会長、さらには公爵家。
これだけそろえば、ほとんどの女子は落ちること間違いない。
……まあ、私はあんまり興味ないけど。
というのも、あの人、実はめちゃくちゃなドSなのだ。
ゲームでもよく出てきては、ヒロインを虐めて楽しんでいたので、ヒロイン正義!な私からすると、ちょっと苦手な相手だった。
まあ、身分が低いからって陰湿に虐める女子たちよりは全然良いけどね!
そんなことをぼんやりと考えていたら、挨拶が終わった。
あ、生徒会長のあいさつが終わったってことは……ヤバイ――!
「では、新入生から、答辞。……ディーナ=フィーラー」
あああああ!やっぱり!
のほほんとしてる場合じゃない!
私の番だった!!
***
まったく心の準備をしていなかったところで、私の名前が呼ばれてしまう。
緊張で、頭が真っ白になった。
立ち上がらなきゃ、と思ったのに、体が動いてくれない。
動いて!動かないと思えば思うほど、パニックになって、逆に動けなくなってしまう。
しん……と静まり返ったホールの中、私の心臓がバクバクと音を立てていた。
その時。
お父様が柔らかく背中を押してくださった。
優しい笑みで、お母様も私を見ている。
「ほら、ディー。行ってらっしゃい」
「――――はい」
その瞬間、肩に入っていた力が、すっと抜けた。すとん、と肩が下りてから、自分がどれだけ肩をあげていたかに気づいて内心苦笑する。
強張っていた顔にも、自然な笑顔が自ずと浮かんだ。
それと同時に、引っかかっていたものに気づいた。
方針を変更する。
そう、私が忘れていたものは、面子。
私は公爵家の一人娘なのだ。私が何かをやらかせば、そのしわ寄せは全て両親に行ってしまう。
そんな当たり前のことに、今ようやく気付いた。
だから、方針の変更。
敬愛する両親の笑顔を守る方法を、推しをてぇてぇする方法を!
それらを両立させることこそ、私とディーの、心からの願いなんだ。
清々しい気持ちの私は、ただ、ゆったりと立ち上がる。決して早すぎず遅すぎず。頭を下げず。腰を曲げず。
あくまでも、優雅に、優美に。
そのまま、ディーを意識して背筋を伸ばし、悠々と檀上まで歩く。
「ああ、ディーナ様よ」
「お美しいわ……」
「流石公爵家の娘だな――」
「堂々としてらっしゃるのね」
様々な場所で、様々な人が、私を見ている――。
それでも、その声の中に、悪い声は一つもなかった。
――良かった。
私は、公爵家の娘として、相応しい所作が出来ているんだ。
そう考えると、一層身軽になる。
だから、もっと細かく気を配る。
曲がるときの絶妙なタイミング。
歩く時の指先、髪の毛。
足音から、呼吸音、視線まで、全てを考えながら、全てを最高の状態に持っていきながら、堂々と、ただ歩く。
それだけで、いくつもの席からため息が聞こえた。
――――もう、大丈夫。
ディー、ここからは、私が頑張るから。
心の中でそうつぶやき、私は階段を上がった。
此処から、私の人生が始まるんだ―――――――――――。
目標を一度定めたはいいものの、何処か引っかかる七紬。そう、ただの一般人だった彼女に足りなかったのは、地位ある貴族としての責任感で……。
ディーと七紬の気持ちは、様々なところで入り交じり、溶け合わさっています。
敬愛する両親に、悲しい気持ちをさせるなど言語道断!
ということで、急遽七紬が予定変更したので書き溜めた分全部書き直してきます……。
さよなら、またいつか。
前書きでツンしてました(?)が、読者の皆様。
本当に、ほんっっっとうに、有難うございます!(デレじゃないです、純粋な感謝です。私は断じてツンデレなんかじゃありません)