1,転生(?)
何となく書きたくなったので書きます!
超スローペースです!
亀の歩み以下ですが、もしよかったら見守ってやってください!
「お嬢様!起きてください!」
――んん、眩しい。
「お嬢様、もう朝ですよ!」
――――もうちょっとぐらい、寝かせて……。
「駄目です!お嬢様、今日は入学式があるんですよ!」
そんな声と同時に、私を包んでいた温かいものが取り払われる。
あぁ……。
「そんな切なそうな声出しても駄目です!初日から遅刻するおつもりですか!」
朝の冷気のお陰で、目が覚めていった。
―――――?
私、こんな豪華なベッドで寝てたっけ?
あれ、待って、目の前で仁王立ちしているかわいらしいメイドさん、誰?
まず、私の部屋、こんな大きくない筈―――――。
「ようやく目覚めましたね、お嬢様!」
―――――お嬢様!?
一気に目が覚めた。
ベッドを跳び下りて、傍に立てかけられていた全身鏡を覗き込む。
「あっ、何てはしたない事を!」
メイドが何か言っていたような気がするけれど、私の意識は鏡にしか向けられていなかった。
染みひとつ無い透き通る肌に、光を反射してキラキラと輝く長い金髪。
ぷっくりと柔らかそうな唇と、少し釣り目がちな翡翠の目は、今は間抜けに大きく開かれていた。
完璧に調和のとれた、まるで人形のような綺麗な少女が、そこにいた。
でも、これ鏡ってことは、映っているのは私ってことで。
待って欲しい。まず私はお嬢様なんて呼ばれるような身分じゃない。
ごく普通の日本人。
両親はもう先立ってしまったけれど、可愛い弟がいる、初音七紬って名前の高校生……の筈なんだけど、今鏡の中にいるのは、見慣れた私の顔じゃないのは確か。
私はこんなに綺麗じゃない。……自分で言ってて悲しいけど。
鏡の中の綺麗な女の子の瞳がちょっと悲しそうに翳った。
――――誰?
混乱が続く。
でもなんだか、この子何処かで見たことがあるような……。
「ディーナ様、如何なされたのですか?」
訝し気にメイドが声を掛けてくる。
待って、ディーナ?
ディーナ……ディーナ……ディー……ディー!?
思い出した!
この子、ディーナだ!
私がハマっていた恋愛ゲーム~君の瞳を~に出てくる悪役令嬢で、主人公に好かれたヒロインに嫉妬心から様々な嫌がらせをした挙句、最後は王子様に断罪されて平民に身をやつすことになった、あのゲームでのラスボス的な存在。
――――え、待って。
そのディーナは今、鏡の中で私の思うとおりに動いている。
嘘、だよね?いや、夢かな?
目覚めるところから始まる夢なんて初めてだけど、きっとそうだよね!
まさか、ね。私がディーナになっちゃっているなんてことは……無い、よね?
夢だと思おう。そう思えば、大好きなキャラとして動けるのが幸せに感じるし!
……久しぶりにキミヒトを思い出したし、なり切って楽しんでも、バチは当たらないよね?
「ディーナ様!入学式に遅れてしまいますから、準備を!」
「あら、そうね。カリーナ、頼めるかしら?」
先程から私の隣にいるこの子は、カリーナ。ディーナが生まれた時からずっと世話をしているメイドで、とても優秀な人材だ。ちなみに、いつまでも若い姿なのを疑問に思った人から歳を聞かれると、恐ろしいオーラを笑顔で放ち、無言で圧をかける。
カリーナのことを思い出しながら、取りあえず会話を、と思ったら、なんだかすんなりとお嬢様言葉が口から出てきた。
そうそう、ディーナってこんな口調だったなぁ……。
「勿論です。では、お着換えの手伝いをしますので、こちらへどうぞ」
私は半ば現実逃避しながら、大人しくカリーナと朝の準備をするのだった。
まあ、私は殆どされるがままなんだけど。
化粧やら着替えやら、全部カリーナがやってくれるからね!
***
「おはよう、ディー」
「おはようございます、お父様、お母様」
準備が済んだら、次は無駄に広い自分の部屋を出て、一階に降りる。
そこにはこれまた大きなリビングがあって、そこに笑顔のお父様とお母様がいた。
お父様もお母様も20代と見間違うほど若い。実際は30後半の筈なんだけど。
そして、とっても顔が良い。
お父様はクールな感じの、如何にも仕事が出来そうなイケメン。
お母様は、優しそうな雰囲気で、支えてあげたくなるような柔らかい顔でふんわりと笑う癒し系美人。
……リアルだなぁ。私、ディーナの両親の顔なんて覚えてなかったはずなんだけどなぁ……。
段々と迫ってくる現実から逃げながら、おめかしをした両親に挨拶をする。
ちなみに、ディーはディーナの愛称だ。
「今日はお前の晴れ舞台だ、しっかりと心構えをしておきなさい」
「楽しみで楽しみで、私あまり眠れなかったのよ。ディーはよく眠れた?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「――寝坊しそうな程眠っておられましたものね」
ボソッと隣で呟くカリーナはスルー。だまらっしゃいっ!
「サラ、体は大丈夫なのか?」
「ええ、むしろ元気が有り余ってしょうがないくらいだわ」
ちょっと病弱なお母様が眠れなかったと言ったので、心配したお父様が体調を訊きましたが、お母様はとっても素敵な笑顔でそう言われました。
――――あれ……?
なんか今、頭の中が変になったような……。
私じゃない何かが居るみたいな、ちょっとくすぐったい感じ。
全く気持ち悪さはないけれど……いったいどうしたのかしら。
「貴方こそ、はしゃぎすぎてお身体を壊さないようになさって?」
「勿論だろう。可愛いディーの晴れ舞台に、体調を崩すなんて愚行を犯すものか!」
クールそうなお父様は……親バカでした。
でも、ありとあらゆるところから、私が愛されていることが伝わってくる。
それは、とても暖かくて、気持ちよかった。
周りにいるメイドも暖かい笑みを浮かべていて、ここが私の居場所なんだなと思える。
「皆様、ご歓談の途中申し訳ありませんが、料理が冷めてしまいますのでお早めにお食事を」
「ああ、すまん」
「そうね、頂きましょうか」
メイド長の一言で、私たちの朝食が始まった。
他の家ではメイドが家主の会話に首を突っ込むことなど許されないのだけど、我が家はそこいら辺緩いから、普通にお父様とメイドがお話してたりする。
――――他の家?私、他の家の食事時がどうなっているかなんて知らない筈なんだけど……。
でも、我が家が普通より家主と下働きの距離が近い、ということははっきりとわかる。
それが常識として頭の中にある。
何だろう、不思議な感じ。
―――ちなみに、恋愛ゲームだからね。
食べ物は、思いっきり現代日本の料理がずらりと並んでおります。
時代設定自体は中世ヨーロッパみたいな感じなんだけどなぁ……。
まあ、恋愛ゲームだからね!そこら辺に無駄にこだわる必要もないでしょうし。
そんなこんなで見慣れた料理を口に運びながら、私はこの後のイベントのことを考え始めるのだった。
現実を直視できないディーナちゃん。
そういうときってありますよね……(白目)。
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