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妹はimmortal!?  作者: かふぇ
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第一話 妹はimmortal!?

色んなアニメ、色んなラノベ……物語が始まるのはいつも春。なんだかそんな気がしてならないが、俺の物語が劇的に動き始めたのも、春だった。


 新学期も始まって間もない4月のこと、俺こと富士透は、今日も妹の美代が作る夕飯を美味しく頂く。

「いっただきまーす!」

「召し上がれ〜」

 両親は健在だがどうやら忙しいらしく、妹が高校入学したこの春から、揃って海外へ出張している。

「うん!この肉じゃがうめえな!」

「でしょ〜?お母さんに作り方教えて貰っといて良かった〜」

美代は得意げに胸を張り、自分もその肉じゃがを口に運ぶ。

「にしても美代がもう高校生とはな〜。ちょっと前までこんなに小さかったのに」

「ちょっと!バカにしてるでしょ!そんなの肉じゃがのじゃがいもより小さいじゃんか!!」

俺が箸の先で作った"こんなに"を指差しながら、髪の毛を逆立てて騒ぐ美代。

「大きくなったら可愛げもなくなっちまったな」

「べーだバカ兄貴!……せっかく頑張って同じ高校入ったのに……」

「ん?なんか言ったか?」

「う、ううん!なんでもない!それより、冷める前に食べちゃってよね!」

「へーい」

 とまあこんな具合に、兄妹仲は非常に良好。俺たちのこんな平和な日常は、まあ当分、美代に彼氏でもできない限り続くものだと思っていた。


「じゃあおやすみ、お兄ちゃん」

妹はそう言って、俺の返事を待たずにリビングを後にする。

「おう、おやすみー!」

俺は扉の向こうにも聞こえるように、大きめの声で返事をした。

「やっぱ疲れるのかな……飯作るのって」

 皿洗いや掃除など、できる範囲で家事を手伝っているとは言え、毎日早起きしてお弁当、夜も真っ直ぐ帰ってきて夕飯作り……負担をかけすぎているだろうか。リビングを出て行く妹の背中を思い出し、そんなことを思う。

「ま、俺も今日は寝るとするか」

 一人で考えても仕方ない、明日美代に直接聞けばいいか。そう思って俺は自室に戻り、眠りに就く。


……


「キャーーーーーーーーー!!」

家中に響き渡る悲鳴を目覚ましに、俺は飛び起きる。何事だ?部屋は真っ暗だから、まだ夜だろう。俺は悲鳴の出どころへと急いだ。

「美代っ!」

勢いをそのままにドアを開け放つと、そこには見知らぬ人影がある。体格は熊のように大きく、丸太のような腕、岩石のような拳には刃物が握られている。

「チッ……大きな声出しやがって。まあ、一人づつ片付けるっつう当初の予定は遂行できそうだから良しとするか」

「お前!美代を、妹をどうした!!」

「妹ォ?ああ、そこに転がってるさ。"もう動かなくなった人間も妹と呼べるなら"な!」

ベッドの脇に横たわる人間大の影を見て、俺は心の何かがプツンと切れるのを感じた。

「このォ……!!腐れ外道がァアアア!!!」

「おっと……こんな見た目してるんだ。力量差くらい分かってもらわにゃ困る」

殴りかかった俺の腕は、その巨腕にパッと抑えられる。大男がスッと息を吸い込むと、次の瞬間俺の体はふわりと宙に浮かんだ。

「フンッ!!」

「うああああッ!!」

背中に走る強い衝撃。ぼやけた視界では、腕を振り下ろした大男が闇夜に目を光らせている。

「くそッ……美代の部屋が……めちゃくちゃになっちまう」

「おっとォ……部屋の心配なんかしてる場合か坊っちゃん」

月明かりを反射して鈍く光るナイフは、近くで改めて見ると人を殺すのに十分な大きさだ。

「俺は……飯も作れないばかりか、妹を守ることさえ……」

「オゥッ!」

何もかもを諦めたその時、大男は突然膝から崩れる。

「お兄ちゃんは、私が守る─────」

大男の背中越しに見えた、暗闇に溶け入る黒髪を靡かせる女性。

「美……代……?」

「お前ッ!確かに殺したはずだぞ!!」

「お兄ちゃん!こっち!」

予想外の事態に動揺する大男をよそに、美代は俺の手を引いて部屋を出る。

「おい美代!一体何がどうなってるんだ?」

「今そんなこと話してる場合じゃな……」

俺と美代の間を、一本のナイフが通り過ぎる。

「チッ、外したか」

「お兄ちゃん!」

あまりの出来事に呆気にとられていると、美代は俺の腕を引っ張る。

「次が来る前に早く!あの位置なら階段の下までは投げられないから!」

次って……あいつが持っていたナイフは一本だっただろ……?

「危ない!」

俺の予想とは裏腹に、すぐに二本目のナイフが飛んでくる。とっさに閉じた目を開くと、目の前には血だらけで、ナイフで貫かれた美代の手があった。

「勘のいい嬢ちゃんじゃねえか。そりゃ、一本しかないナイフをあんな雑に投げちまうわけないよな」

「み、美代!!」

「大丈…夫ッ!」

美代は手に刺さったナイフを勢いよく抜き、大男に向かって投げた。

「フン、活きの良いガキだ」

男は手に持った数本のナイフでそれを薙ぎ払う。

「分かったでしょお兄ちゃん!危ないから早く家の外に出るよ!」

「あ、ああ。とりあえず外に出なきゃいけないのは分かった」

いまいち状況を飲み込み切れていないが、必死になって階段を下りる。幸い階段を下りればすぐに玄関だ。でもその後は?俺だけならまだしも、妹の体力であの大男から逃げられるのか?いや、俺だけでも逃げ切れるかどうか……。余計な考えが脳内を逡巡する。とにかく今は、外に!そして遂に玄関を押し開けると、そこには重装備の警備隊が待機していた。

「良かった……これで助かったよ、お兄ちゃん……」後ろでそう呟く美代はバタリと倒れた。後ろ……まさか。恐る恐るその背中に目をやると、そこには何本ものナイフが突き刺さっている。

「お前は助かった。俺もここでおしまいだ。でも、妹さんだけは助からなかったようだな」

男はその大きな顔をにやりと歪めた。

「お前ェッ!!」

「止まりなさい!」

警備隊が叫ぶ。そうか、もう俺の出る幕じゃないんだな。

次皿強(つぐさら つよし)、ご同行願う」

「ケっ」

男は一瞥すると、両手を頭の上に上げて大人しく連行されていった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

俺は男を車に乗せてそそくさと帰ろうとする警備員を呼び止めた。

「妹が!背中に何本もナイフを刺されて!何とかしてください!!」

「え?妹さん?そこのお嬢さんのことなら元気そうにしてるけど……」

「いや確かにそこに倒れて……」

「そうだよ、お兄ちゃん♪ナイフって何のこと?」

……。

嘘……だろ?確かに、さっきまで倒れていた妹はピンピンしている。服こそ血に濡れているが、それ以外はいつも通りだ。

「それじゃあ警備員さん、ありがとうございました!」

「いえいえ。また事件があればすぐに電話して下さいね。あとお兄さんだけど、随分とショックを受けてしまっているようだからくれぐれも安静にね」

え、俺がおかしいやつ扱いされたのか?

「お、おい!ちょ……」

警備隊と大男を乗せたパトカーは夜の帳に消えた。

「さ、お兄ちゃん。明日も学校なんだし、早く寝ないとね!」

そう言って俺は家の中に押し込められ、大男は無事確保されたのだった。


「さて、説明してもらおうか」

俺はリビングで妹と向き合う。

「うーんと……実は私……不死身なんだよね。ほら、名前も富士美代、ふじみよ……妹だけにimmortal、なんちゃって」

「つまらんシャレを言ってる場合じゃないだろ!そんな話信じられるか!」

「でも……見たでしょ?私の手にナイフが刺さったの。それがホラ」

パッと見せてきた妹の手には、確かに傷一つない。

「不死身というか、傷の治りがすごく早くて、結果死なないみたいな?」

「みたいな?じゃなああい!!そんなに言うんなら今ここで証拠を見せてくれよ!」

俺は首を傾けて可愛子ぶる妹を問い詰める。

「ええ……嫌だよ。痛いもん」

どうやら痛覚は残っているらしい。だとしたらさっきの背中、相当痛かったんじゃないだろうか。

「そ、そうか。悪いな、急に捲し立てたりして。じゃあ、あの大男はなんだったんだ?」

俺は今夜の2つ目の謎に話題を変えた。

「うーん?ただの強盗じゃないかな?ほら、警備隊の人に"次皿強"って呼ばれてたでしょ。次と皿を縦に重ねて、逆から読んだら強盗、でしょ?」

「でしょ?って、そんな小学生用の謎解きみたいな理由があるか」

「えへへ、私ああいうの得意だからさ」

「はあ、まあいい。二人とも無事だったんだからな。それにしても、あの警備隊はどうしたんだ?」

「ああ、あれは私が呼んだんだよ。生き返った後も死んだフリをして、警察の人に電話したってわけ」

美代はなんてことないように事の顛末を話す。これで一応の疑問は全て解消できたが……

「俺の妹、immortalなのか……」


かくして、俺たちの物語は動き始めたのだ。


……


「Code:Sが捕まったようですが」

「予想外、だな。あの家の娘、相当手強い能力を持っていると見ていいだろう」

「次はどうされますか?」

「フン、適当にCode:Tで様子を見るとするか」

「かしこまりました」

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