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学院

喫茶店や飲み屋で書いてることが多かったので全然進まない…

ほんと、積み本の誘惑に負けて自室だと全く書けない自分が悪いんですけどね……

 受付で手続きを済ませて学院に入る。数日前に入学式はあるにはあったが内容的には貴族向けの歓迎パーティーであり、平民は出席義務がないというより空気を読んで参加しないのが慣わしであった。

 そんなわけでリゼルははじめて学院の中を歩く。今日あるのは剣士の授業だ。


「…まぁこうなるか……」


 貴族たちはパーティーで、平民たちは寮が相部屋なので、地元の者たちは元々の交遊関係で、すでにそれぞれグループが形成されておりボッチのリゼルとしてはなかなかに居心地が悪い。

 とはいえ、友人を作りに来たわけではない。

 リゼルは気にせず授業のある運動場を目指した。


「やっやめてください!!」


 と、突然女生徒の悲鳴が聞こえた。

 なんだ?


「んん~? 僕の聞き間違いかなぁ? あのヴァイシュタインに代々仕えている名家の生まれである僕に、平民の君が『やめろ』と、言ったように聞こえたんだけどぉ??」

「きっと聞き間違いだぜ、ゴッシュ。俺たちはいずれあの名門ヴァイシュタインに仕える貴族様だぜ?」

「ははっそうだね。僕の聞き間違いだったね。さっお茶に行こうじゃないか。」

「そ、そんな……」

「ちょっ放して!私たち勉強しに来たの!やっ……!」


 どうやら野次馬の向こうでは平民の女生徒2人が同じく2人の貴族子息にナンパされているようだ。

 平民からすれば下院と言えどその学費は高額だ。親が子供のためにその子が生まれた頃から貯えに加えて、足りないぶんは親戚一同を頭を下げて回り、親戚類も期待を込めて僅かばかりの貯えを切り崩してカンパする。そんな話も珍しくない。

 だがどうやらこの貴族子息の家は他の多くの貴族同様にそうではないようだ。下院に通わせるようなできの悪い子供はどうせ出世しない。しきたりや体面から学院には通わせるが寄付金を払うから卒業さえさせてくれれば良い。そんな考えの貴族も少なくないのだ。

 平民なら下院でも学院を卒業したなら人生が変わる。だが、優秀であることが前提として求められる貴族はそうではない。

 どんなに頑張ってたとえ下院の主席として卒業しようとも、授業に全く出ず親の金で卒業しようとも、その後の人生に大差ない。

 その事をこのゴッシュという子息たちは理解してしまっている。


 あわれだな。

 絡んでいるゴッシュたちにも絡まれている娘らにも、それらを取り囲む野次馬たち同様、リゼルもそう思うに留まっていただろう。

 もし、ゴッシュらがヴァイシュタインの名前を出していなかったのなら……


「おい!」

「なにを騒いでいるんだ?」


 自身の指輪の材質も忘れてリゼルが声を荒らげた時、恵まれた体躯の少年が人混みを割って現れた。

 あいつは…!?

 その少年を視認するやリゼルは人混みを身を隠し、曲がり角へと移動する。


「フ、フランツ様!?」

「ど、どうして下院なんかに!??」


 ゴッシュたちは慌てた。

 無理もない。現れたのはフランツ・フィーア・ヴァイシュタイン。彼らが得意気にかざした笠であるヴァイシュタイン家の4番目の分家の息子だ。


「聞こえなかったか? 俺はなにがあったのかを聞いているのだ。」

「そ、それは…」

「な、なぁ…」


 フランツの言葉にゴッシュたちは互いに目を合わせて口をつぐむ。


「…なにがあった?」


 フランツは今度は女生徒らに目を向け訊ねる。


「えっとあの、その……」

「そっその人たちが学院をサボってお茶に行こうって誘ってきたんです!」

「そっそうよ!断っても自分たちはヴァイシュタインに仕える貴族だぞってしつこくって!」


 女生徒らは意を決したように答えた。


「本当か?」

「えっと……」

「い、いやぁ…誤解ですよ、誤解。僕たちは学友と親交を深めようと授業の後にお茶でもと誘っただけでして…ねぇ?」

「お、おう。」

「おっと、もうこんな時間ですね。授業が始まりそうだ。申し訳ありませんがお先に失礼させていただきます。」


 フランツの鋭い目に射抜かれると、そそくさと逃げるようにゴッシュたちはその場を離れる。そしてたまたまと思われるがリゼルが身を隠している曲がり角へとやって来た。


「なんでフランツが下院にいるんだよ!?」


 名前も知らない片割れの子息がそんなことを洩らす。

 当のフランツはまだ人集りの中で感謝や称賛の言葉を浴びているようだが、こっちの方が気になる。

 リゼルはそっと彼らの側へ移動した。


「…そういえば、フランツは生まれつき持っていた下級料理人のクラスが普通料理人へと進化してしまったと噂で聞きましたね。」

「はぁ? 料理人は貴族病だろ?」


 生産系のクラスを忌避する貴族でも料理人は受け入れられる珍しいクラスだ。

 といっても歓迎されるわけではない。ただ単に過去に戴冠後に料理人のクラスを取得してしまった王もいるなど、食に関わる料理人というクラスは王族であれ貴族であれ人間である以上避けがたい。

 そのため美食家を名乗る貴族たちの「きちんとした物を食べている貴族が食に関わる料理人のクラスを取得してしまうのは仕方がないことだ」という言い訳じみた意見から、貴族病とも呼ばれているのだ。

 まあ、それを理由だと思っているのは歴史や民心を知らない貴族で、王族やまともな貴族が料理人を容認しているのは戴冠後に取得してしまった王の方に理由があるのだが…


「知りませんよ。でも奥座敷に仕舞われてないあたりそういうことかもしれませんね。」

「はぁ~っ…けちクセェな。ヴァイシュタインなら上院にねじ込む金くらいあるだろうに…」

「まったくです。」


 残念だったな。うちらはあくまで分家だ。そんなことに金を使うくらいなら側室の1人や2人増やして優秀な子供を作れと本家に叱られるんだよ。


「あーあ、どうせ俺らは騎士の下っ端か衛兵の分隊長が関の山だってのに…」

「フランツがいるならサボれませんね…」

「だりぃ…」


 ゴッシュたちは口々に愚痴を言う。

 たいしたことはわからなかったがなんとなくの事情はわかった。

 リゼルは静かに踵を返す。しかし…


「ん? …んん~?? ロッソくん見てくださいよ、なんだか見たことある顔だなと思ったらゴマすりドライのリゼルくんじゃあないですか?」

「おっ? マジだ。亜人汚れがなにやってんだ? おい!ちょっとこっちこい!」


 ちっ、気づかれたか…

 だが、リゼルはあえて無視をする。


「無視すんなよ!」


 片割れにガシッと肩を掴まれた。

…はぁ。


「申し訳ございません。なんのお話なのか皆目見当もつきません。なにか勘違いをなされておられるのではないでしょうか?」

「はぁ?なにしらばくれてんだよ?」

「誤魔化そうったって無駄ですよ? あなた亜人汚れで勘当されたリゼル・ドライ・ヴァイシュタインですね? なんでここにいるんですか?」


 ちっ、


「…黙れ……」

「あん?」

「おやおやぁ?わかってますかぁ? あなたはもう金指輪のリゼル・ドライ・ヴァイシュタインじゃないんですよぉ? 亜人汚れで銅指輪のたぁだぁのぉ!リゼルくんなんですよぉ??」

「ははっそうだぜ? 今のお前はただの平民、そして俺たちは貴族様さっ!」


 いちいち癪にさわるしゃべり方をするな、馬鹿どもが!

 幸い今はまだ周囲はフランツに気をとられてこちらに気づいてはいない。


「まぁあ? 僕たちは優しいですしぃ?土下座で謝るのなら許してあげないでもなっ…」

 だん!


 リゼルはゴッシュの胸ぐらを掴むと暗がりの壁に叩きつける。


「っ! なにをするのですか! ロッソくん!この無礼者を…」

「いいから黙れ馬鹿。」

「ひぃっ…」


 リゼルに睨まれ、ゴッシュは声にならない悲鳴をあげた。


「いいか? リゼル・ドライ・ヴァイシュタインは不運にも成人の儀の前に御隠れになられた。つまり俺とは赤の他人だ。

 つうかなに声も潜めずヴァイシュタインだの亜人汚れだのとかぬかしてんだ? ヴァイシュタインに亜人の血が混じるわけがないだろ? 変な誤解がこの学院から広まったらどうするつもりなんだ? お前ら、一族郎党巻き込んで噂にならない不可解な失踪を遂げたいのか?」

「あわっ、あわあわわ…」


 考えてもいなかったのか。

 ゴッシュたちは青ざめた顔でおろおろと取り乱す。


「安心しろ。みんなフランツに夢中でこっちに気付いてねぇよ。」

「は、はい…」


 そうでないなら平民のリゼルが貴族相手にこんなしゃべり方もしていない。

 リゼルはゴッシュの胸ぐらから手を離す。


「というわけで、私のような下賎の身に関わらず、そしてヴァイシュタインの名を汚すことのないよう勉学に励まれますことをお願い申し上げます。」

「あ、ああ…」

「はいぃ…」


 こうして、平民に気圧されたあわれな貴族を残し、リゼルは再び運動場を目指すのだった。




 …あれは……?


 人々に囲まれて苦笑いを浮かべるフランツはその人壁の向こうに忘れもしない姿を見つける。


 あれは…リゼル・ドライ・ヴァイシュタイン!!

どうでもいい設定

料理人のクラスに目覚めてしまった王様の話

昔、緑色を好みよくその色のマントを身に付けていたことから『緑の王』と呼ばれる王さまがいました。

王が統治していた時代にたまたま農家のマスタークラスを持つ者が表れたので、緑の王はその者に命じて大規模な農地や品種の改良など農業改革を行わせました。

しかし農業改革はリスクが付き物、王は積極的に視察に赴き、農民たちの機嫌をとっていました。その一貫として、献上させた野菜で生で食べられるものは王自ら切り分けてみんなで食べるというアピールをしていました。(友好アピールと同時に相手に毒味をさせるため。)そして結果として料理人のクラスに目覚めてしまいました。


神様がクラスを与えてくれると考えてる世界なため、当然マスタークラス(特に人々に(教会的に)貢献した者)は宗教的に神の使徒として扱われます。

そんなわけで緑の王に仕えたマスタークラスの農家は使徒で、その説話は人口の大半である農民が喜ぶ物なので教会関係者はよく使い、結果緑の王は今でも民衆の尊敬を集める王さまです。

具体的には不作が続いて農民のヘイトが高まった時に領主や国王は緑のマントを着て緑の王にまつわる故事を絡めた演説を行うほどです。

なので緑の王が取得してしまった料理人のクラスを無碍にできない感じです。

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