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ギルドマスター

「ギルドマスター、お話が!!」

「リサくんか。いったいどうしたんだい?」


 アレクシアの冒険者ギルドマスター、エリザ・エイトワースは突然の侵入者に驚いた風もなく凛と答えた。


 ばんっと力強く羊皮紙がテーブルに置かれる。


「このっ、子に…奨学金っ、出せませんか?」


 階段を走って駆け上がったのだろう。リサと呼ばれた受付嬢は息を切らせ少し途切れ途切れに捲し立てる。

 上気した頬に浮かぶ珠のような汗、まるで朝露に濡れた桃のような若々しい健康美… にも関わらず少し乱れた着衣から否応なしに漂う成人した女性の色香… いやぁ眼福眼福…

 エリザは澄ました顔でそんなことをそんなことを考える。クールな美女として外見を取り繕っているエリザだが中身は割りと残念である。


「あの?ギルドマスター??」

「おっとすまない。」


 「こんな格好で…君も期待していたのだろ?」と押し倒し一通り事に及んで満足するも、「何を言っているんですか、私はやっと熱が入ってきたところですよ?」と逆に押し倒されて足腰たたなくされる妄想をしていたとは思えないほどエリザは自然に羊皮紙に目を通す。


「…これは職人ギルドの管轄だろ?」


 そこに書かれているリゼルのクラスを見たエリザは思わず声をあげた。


「いえ、何故か冒険者になりたいそうなんですよ。」

「これで?」


 エリザとしてはさっぱり理解出来ない。

 なぜなら冒険者になりたがる者の多くは一攫千金を夢見ているからだ。だが高級鍛冶士のクラスを持っているのならそれで十分大金を稼げるし、もしマスタークラスになれれば作る武器は国宝級、それこそ並みの冒険者の考える一攫千金など剣の1つ2つで稼げてしまう。


「なんか剣士に憧れているみたいなんですよ。」

「…なるほど……」


 それならばわかる。金や名声より強さに憧れてとでも言うのだろうか? そういう理由で冒険者になろうとする少年も多くはないがまったくいないわけではない。

 だが残念ながらそういった少年たちは長続きしないものだ。

 実力を知ってやめていくならまだいいが時に彼らは無茶をして長生き出来ない。


「…正直その理由では冒険者にしたくはないな。」

「でも彼、ここで冒険者になれないなら他領に行こうとしてますよ? せっかくの高級鍛冶士に他領へ行かれるのはギルドとしても損失が大きくないですか?」


 他領にはクラスレスでも簡単に冒険者として登録する地域もある。もっとも、優しさというよりはクラスレスをただの使い捨て程度にしか考えていないからであるが…


「確かに高級鍛冶士を失うのは痛いな。とはいえ奨学金は優秀な者のために用意されたものだ。下院には出せんよ。」

「でもどうせ上院卒業したらほとんどは騎士団に引き抜かれちゃうじゃないですか?」

「それでも騎士団が色をつけて還してくれるからギルドは損はしとらんよ。」


 冒険者ギルドの資金も無限にあるものではない。そのためギルドの奨学金には貸与であって貴族の奨学金のような給付ではない。

 上院の卒業生であればすぐにシルバーバッチから始めさせれる実力があるが下院の卒業生となるとブロンズバッチからだ。ブロンズバッチで受けられる依頼の収入では生活はできても返済のことを考えると厳しく、現状冒険者ギルドは下院の生徒に対する奨学金をおこなってはいない。


「完全に学費だけならなんとかなりませんか?」

「学費だけ?」


 このクラスなら普通は強制的に貴族から奨学金を与えられて卒業後は御抱えになるものだ。そうでないということはてっきり何らかの事情で他領からこの街へ逃げてきたものだとばかり思っていたが…


「この子はこの街の子なのかい? それとも生活費くらいならなんとかなる余裕があるとかか?」

「いえ、財布見て金がぁ…ってなってたんでそんなことはないと思いますよ?」

「じゃあどうするんだい?」


 教会を頼れば宿泊費はなんとかなるが食費はどうにもならない。教会では炊き出しなんかもしてはいるがせいぜい月に数回、なんとか週一を目標としているレベルだ。


「ゲオルグっじゃなかった…知り合いの鍛冶士の家に部屋の空きがあるんで、そこで住み込みで働きながら学院に通ってもらえばいいと思いまして…」

「ゲオルグって…ああ、たしかリサくんの幼馴染みで…」


 その名前には聞き覚えがあった。最近力をつけてきた若手鍛冶士の1人だ。といってもそれだけならばギルドマスターであるエリザの印象に残るわけではない。ゲオルグのことを覚えていたのは単に彼が一人前と呼べるようになった今でも下働きをとっておらず、武具の納品や素材の受け取りのため毎日彼自らギルドに顔を出しているからだ。


「た、だ、の! 幼馴染みですから!」

「あ、ああ…そうなんだね。」


 リサはそのことをよく同僚からからかわれているようできつめに釘を刺す。なのでエリザはそれ以上は触れることを避けた。

 それより奨学金の件だ。学院はどこの街にもあるというわけではなくそれなりに大きな街にしかない。そのためほとんどの生徒に住む場所がなく奨学金として学費と一緒に寮費も出していたわけだが、リサの言う通り下働きしながらなら学費だけで済む。学院は多くのことを教えており様々なコースがあるが、別にギルドとしては冒険者のコースと何か1つ戦闘系クラスのコースを納めてくれれば十分だ。なのでその2つに絞ってもらえば下働きをする時間も確保出来る…と思う。

 それにクラスレスの冒険者はヴァイシュタイン領ではほとんどいない。おかげで少ないとはいえ多少はある街の中での雑用依頼は滞りがちなのが現状だ。今は依頼失敗を続ける冒険者や規則違反を起こした冒険者へのペナルティとして行わせているが、本来そんなことはないほうが望ましい。そのためそういった街中での依頼を受けてくれるクラスレス冒険者の確保はギルドとしてもプラスとなる。


「…今回はゲオルグのところでいいとしてもその後はどうする? 職人ギルドや商人ギルドが協力してくれなければなんともならんぞ?協力は得られると思うか?」

「それは大丈夫だと思いますよ。」


 ギルドマスターとして、やるのなら今回だけの特例ではなくテストケースだとしても次に繋がらなければ承認は出来ない。

 そう考えたエリザにリサは明るく答えた。


「商人にしろ職人にしろ、下働きを使うならいずれ昇進や独立をさせなければなりません。在学中の1年という短期間とはいえ、それを考えなくてもいい下働きは必ず利を感じる者がいるはずです。」

「なるほど…」


 確かにそうだ。むしろ協力者に対して奨学生が足りないすらあり得る。

 リサは否定しているがゲオルグがわざわざ彼女に会いに来ているのは間違いない。彼女が頼めば彼は断ることはないだろう。

 そうなると…


「…この子を通してくれないか?少し、直接話がしたいんだ。」

「わかりました!」


 エリザの言葉にリサは再び勢いよくぱたぱたと階段を駆け下りるのだった。





 話もわからずギルドマスターに会うことになったリゼルは少し緊張した面持ちで立っている。

 じぃー…

 エリザの澄んだ青い瞳がリゼルを品定めするように見つめている。

 普通であれば高い立場の人間であるギルドマスターに呼び出されたら緊張するものだ。だが元とはいえ有力貴族のリゼルはそこにはあまり緊張していない。しかし状況もわからず美人に見つめられていることにリゼルは緊張していた。

 いったいなんなんだろう??

 そんなことを考えているリゼルをほおっておきエリザは、身長は成人したてらしくこれからといったところ…体格は男らしいがっちりしたものではなくどちらか言えば少女のような細さ、いや違うしっかり鍛えて絞った細さだな、顔立ちは…… なんてことを考えている。


「…あの…?」


 真剣な眼でなめ回すような視線に耐えかねてリゼルは声をだす。

 顔立ちは、幼さが残るなかにどこか気品のようなものがある。これは優しく性の手解きをするも少年の目覚めた性の暴走に逆に蹂躙されてしまうシュチュ…いや、目付きにどこかひねくれた感じもある。ひねくれた少年を徹底的に調教して従順にする…くっ、どちらもありありのありだ……

 しかし真剣な眼差しでそんなことを考え出してしまったエリザの耳にはちっとも届かない。


「あの!」

「…はっ!」


 少し強めたリゼルの声にエリザはなんとか帰ってくる。


「いや、すまない。たしか剣士を目指しているんだったかな? きちんと鍛えられたいい身体だ、背は少し低いが…若いしじきに伸びてくるだろう。」

「…はぁ、ありがとうございます?」


 ほめられたがなんだかよくわからず、少し間抜けた声がでる。


「さて、単刀直入に言うよ。君に下院の学費を奨学金として出そうと思っているのだが受けてみないか?」

「えっ!?」


 驚くリゼルにエリザは理由を説明した。

 それは、これまでは上院の生徒にしか奨学金を出していなかったこと、しかし貸与であるせいか冒険者となることを強制出来ずほとんどの者が卒業後は騎士団に引き抜かれいたこと、下院の生徒に対しコースを絞ってもらいかつ住み込みの職場を斡旋することで奨学金を返済可能な範囲に収められないか実験したいとのこと、そして高級鍛冶士のリゼルを他領に出したくないことだった。


「…色々と矛盾しているように感じるのですが…?」

「? そうかな?」

「ええ。」


 クラスレスでも奨学金を受けられないかと検討している一方、高級鍛冶士を繋ぎ止める意味もあり、応援されているのか諦めさせたいのかわからない。

 それに職人側から見ても、将来的に競合を増やさないための下働き限定のはずなのに高級鍛冶士だから繋ぎ止めるのはやはり矛盾を感じる。


「矛盾してようがどちらに転ぼうとギルドに得しかないからね。それなら君の選ぶ道を喜んで応援するさ。」


 リゼルの問いにエリザは笑って答えた。


「…もし、鍛冶士の道を選んだとして、職人ギルドはいいのですか?」

「ああ、私たちだっていつも高級鍛冶士を増やすようお願いしているからね。もし文句を言ってきたとしてもそれならそちらで代わりの高級鍛冶士を早急に用意してくださいという話さ。君だって剣士を目指しているのなら高級鍛冶士の重要性は理解しているのだろ?」

「ええ、それはまあ…」


 鍛冶士のクラスが習得するスキルは『筋力増強』『炎耐性』『作業効率化(鍛冶)』『品質向上(鍛冶)』『貴金属加工』である。

 この内『炎耐性』はきちんと水分をとったり休憩をはさむことでカバーできるし、『筋力増強』『品質向上(鍛冶)』も本人の熟練度でカバーできる。『作業効率化(鍛冶)』は1人では対策出来ずとも人数を集めればいいだけの話だ。

 しかし問題は『貴金属加工』だ。上級以上が獲得するこのスキルは上級鍛冶士でミスリル、高級鍛冶士でアダマンタイト、聖鍛冶士でオリハルコンといった具合に、ダンジョンから採掘される特殊な金属の加工を可能にする。

 魔力を内包し特異な性質を持つそれらの金属は強力な武具の素材となる。一般的にはあまり馴染みのない素材ではあるがダンジョンの深部に生息するようなより強力なモンスターに挑もうとする冒険者にとってはとても重要な素材なのだ。


「さて、それよりお金の話もしておかないとね。下院の学費は金貨3枚。一応冒険者になるのなら利息は取らないつもりなんで、卒業後3年かけて月々銀貨10枚の30回払い、返済猶予が6ヶ月分で6回といった感じかな? そんな感じで返してもらおうと思っているよ。ただこの件は実験なんでね、返済が厳しいようならその時は遠慮なく相談してほしいな。」


 今はまだピンとこないだろうけどね。とエリザは笑顔で言う。

 実際リゼルもピンときていない。一応政治学や経済学は叩き込まれてはいるがそれは領運営という大きな規模の話で、平民1人辺りの収入はこのくらいで1家庭だとそのくらい、税はあのくらいとれて何か起こればどのくらい補償が必要かなんてことはわかるが、正直細かい家計についてはさっぱりだ。

 ただ、下院に入学できるのはとてもありがたい。

 まずリゼルは剣士として圧倒的に実践が足りていない。これまでは1人であくまでイメージ相手に木剣を振っていただけだ。これを学院で安全に経験が積めるというのは大きなプラスだ。

 もう1つは冒険者としての知識を得られることだ。

 都市部で生まれ育った者には例えば薬草の見分け方、動物の解体方法、安全な野営手段など馴染みがなく、当然リゼルも知らない。そのため学院の冒険者コースではそういった知識を教えており、リゼルとしても知っておきたいことだ。

 とはいえ…


「…条件を追加してもいいですか?」

「なんだい。」

「もし冒険者以外の職についた際は利子が発生し、返済は銀貨10枚の36回払いとする。」

「おや? 君に得がない気がするが?」

「ただし、返済猶予は1年分12回とする。」

「…なるほど。」


 ギルドにとっても銀貨が60枚増えるだけで返済が3年で終わるか4年かかるか変わるのは次の奨学生に関わる大きな問題だ。

 狙いとしてはギルドがリゼルを鍛冶士にしようとするのを妨害するところにある。


「ひねくれてるなぁ… うん。いいよ、契約といこうか。」

「はい。よろしくお願いします。」

キャラの外見の描写やってねぇなぁってことでギルマスをこんな性格にしましたが…尺とるな…カットしなきゃ……

外見描写どこ行った!!?

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