表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

冒険者ギルド

 屋敷を出て数日。リゼルはアレクシアという街に到着し、門番の衛兵から入市の審査を受けていた。


「じゃ、手をかざして。」

「はい。」


 門番に促されて水晶玉に手をかざす。この水晶玉にはクラスを鑑定する機能はないが指輪の情報を読み取ることが出来る。


「名前と歳を教えて。」

「リゼル、15です。」

「…ふーん。」


 小さな町の場合、水晶玉で読み取った情報と手配書の束を見比べる必要があるが、アレクシアはそれなりに大きな街で用意されている水晶玉も高性能なものだ。お陰で手配されたりしていないかは即座に確認され、比較的スムーズに審査は進んだ。


「で、目的は。」

「仕事を探しに。」

「ふーん。じゃ、入市税は銀貨5枚だよ。役場は市長の館の前だから住むことになったらきちんと報告に行ってくれ。ああ、あと教会は東地区にあるから。まあ少し小高い場所にあるしでっけぇ鐘楼が目立つからすぐにわかると思うけど…」

「教会?」


 リゼルは巾着から銀貨を取り出し訊ねる。


「この街では屋外で寝泊まりすることはご法度だよ。教会が無料の宿泊所を開放してるから仕事が決まるまでは厄介になりな。」

「なるほど、っと。そういえば冒険者ギルドはどこにあるんですか?」

「冒険者ギルドなら大通りを進んで3つ目の交差点のとこだよ。

 次の人どうぞー。」

「ありがとう。」


 やる気無さそうに手を振る門番をあとにしてリゼルはアレクシアの街に入るのだった。



 3つ目の交差点と言っていたな。

 男の言葉を思い出しつつリゼルはにぎわうアレクシアの喧騒を楽しみながら冒険者ギルドを目指す。

 リゼルが冒険者ギルドを目指すのはもちろん冒険者になるためだ。

 リゼルは剣士として名をあげたい。ならば剣士として名を上げれそうな職は主に3つ。

 1つは騎士団。

 だが騎士団は通称上院と呼ばれる主に上級クラスを持つ者を対象にした学院の卒業生か貴族しか採用しないため、クラスレスと呼ばれるその職に適したクラスを持たない者でありさらには平民となったリゼルでは入団することが出来ない。

 一応戦果をあげてただの平民から騎士に取り上げられたという話はないわけではないが、今この国は戦争状態にはない。他種族を見下しており当然他国と仲が良いわけではないが、まれに国境沿いで諍いがある程度。平民を動員する必要があるほどの大規模な衝突には至っていない。

 2つ目は先程の門番のような衛兵。

 だが国や領主から雇われる衛兵は収入がとても安定している。そのため平民に人気の職場であり、クラスレスは採用試験すら受けられない。

 そして3つ目が冒険者だ。

 冒険者は主にゴールドバッチ、シルバーバッチ、ブロンズバッチの3階級に分かれている。冒険者でよく言われる一攫千金の夢が現実化するのは最上位のゴールドバッチになってからだ。シルバーバッチなら家庭を持て、ブロンズバッチでも独り身なら十分食べていけると言われるが、それでもモンスターなどと戦う以上常に生命の危険と隣り合わせだ。

 ゴールドバッチになれるような上位のクラスの者なら収入面では騎士の方が安定してよく、そうでなくとも戦闘系のクラスを持つ者なら安全面で衛兵の方が上、なので多くの者は衛兵や騎士を目指しわざわざ冒険者になろうとする者はそう多くはない。

 そのくせ冒険者は街の雑用など便利屋的な側面も持つ。なので人手不足の解消からクラスレスの者にも門戸が開かれているのだ。



「…ここか。」


 周囲の建物と比べ大きな建物なのですぐにわかった。リゼルは武骨ながら重厚な扉を開けて中に入る。

 …こうなっているのか。

 中は広いホールのような広間にテーブルが雑に並べられ、壁には大きな依頼ボードが何枚も並び、依頼の受付カウンターの横には配膳口、大きな酒樽が幾つも積んであるところを見ると飯屋というよりは酒場も併設してある感じだろうか。

 猥雑ながら陰鬱さはなく活気に溢れ、嫌な感じはなく不思議と居心地がいい。

 っと…

 思わず乾いた喉をきゅっと潤わせたくなるがその前にやることをやらないいけない。

 リゼルは空いていた受付カウンターへと向かう。


「冒険者登録をしたいんですが?」

「あっはい、すぐいきまーす。」


 奥で書類をまとめていた受付嬢が可愛らしい声と共にぱたぱた走ってくる。


「お待たせしました。ではこちらに必要事項の記入をお願いします。あっあとで指輪にも登録しますので嘘書いてもわかっちゃいますよ。」

「なるほど。」


 名前、年齢、所持クラス、などなど… リゼルはさらさらと記入する。


「書けました。」

「はい、確認しますね…って…… 高級鍛冶士!?しかもそれのみ!!?」


 受付嬢はリゼルから受け取ったそれを見て驚きの声をあげた。

 無理もないのかもしれない。15歳の時、つまり一般的に生まれつきに持っているクラスは下級か普通がほとんどだ。上級のクラスですら100人に1人、高級ともなると何万人に1人と言われる。


「…えっと……ここ冒険者ギルドですよ?職人ギルドと間違えていませんか??」

「いや、冒険者になりたいんですが…」

「そんなもったいない!!」


 受付嬢はカウンターから乗りだし息を荒らげて捲し立てる。


「いいですか?高級ですよ?しかもそれのみで空きがあるんですよ!?」

「あ、ああ…」


 近い!顔が近いですお姉さん!!

 別に生まれつきクラスが1つしかないことは珍しい話ではない。確かに一番多いのが生まれつき持っているクラスが2つなのだが、次に多いのが1つか3つ持ちで、だいたい4人に1人は生まれつきクラスを1つ持っているだけだ。

 だが、それが高級クラスのみとなると話は変わる。生まれつきの高級クラス持ちでも半数以上は何か別の下級クラスもあり、5の原則からマスタークラスに至ることはない。

 生まれつきのマスタークラス持ちはおとぎ話か伝説のような存在で、現実的に最もマスタークラスになれるのがリゼルのような高級クラスしか持っていないパターンなのだ。


「ああ、じゃないですよ!高級で空きがあるってことはマスタークラスを目指せるってことじゃないですか!わかってますか!?」

「わかってる。」


 リゼルは乗り出した受付嬢を押し戻しつつ言う。

 別に鍛冶士という職業を嫌っているわけではない。それは元のヴァイシュタイン家でもそうだ。剣の名門として優れた剣を作る鍛冶士は尊敬を集め、資金援助や税の優遇処置、質の良い素材が手に入りやすくする手配など様々な特典を与えて庇護下においていた。あくまでヴァイシュタイン家は一門から鍛冶士のクラス持ちが現れるのを不名誉と嫌っていただけだ。


「それでも、俺は剣士として冒険者になりたいんだ。」


 一瞬きょとんとした受付嬢だったがリゼルの真剣な眼に小さくため息をついた。


「はぁ…なーんで、冒険者なんて危険で安定性のない職業につきたいかは知りませんが、これは受理できません。」

「…えっ?」

「ヴァイシュタイン領ではクラスレスの場合、戦闘系の学院を卒業していないと冒険者として登録出来ないんですよ。」

「…あっ……」


 しまった…

 ヴァイシュタイン領は王国の中央に近い位置にあり治安はいい。だが、鉱山や大規模な森林などの資源に乏しく、人足などクラスレスの冒険者が安全に出来る仕事がない。

 ではヴァイシュタイン領の冒険者は何をして暮らしているのか? それはダンジョンである。ダンジョンとは魔力が異常に溜まりモンスターが大量に発生する不思議な空間だ。ヴァイシュタイン領にはこのダンジョンがいくつもあり、冒険者たちはそこでモンスターを狩ったりダンジョン固有の薬草や鉱物の採取で生計をたてている。

 そのためヴァイシュタイン領では冒険者は危険なダンジョン内での仕事が基本、クラスレスの者でも学院で戦闘技能を身に付けないと冒険者になれないのだ。

 完璧に忘れてた……

 リゼルは頭を抱える。

 もちろん自領のルールであり、リゼルも知っていた。だが一応フォローするのなら、彼がそれを聞いたのは3年以上も前のことでしかも当時は冒険者になる気はまったくなかったのだ。

 やっちまった…


「あの、アレクシアにも戦闘系の下院はありますし、ここで入学の申し込みをすることも可能ですが… どうします?」


 受付嬢がそんなことを言っているがリゼルの耳には入ってない。

 ちなみに下院とは下級クラスやクラスレスを対象にした学院のことだ。上院と比べれば学費は安いが当然今のリゼルには到底払える額ではない。

 となると他領に行きたいが…巾着の中身を考えるとさっき入市税を払ったのが痛すぎる。

 …他領に行くとなると関所を越えなくてはいけない、まずそこで通行税。次に行った先での入市税、それから冒険者の登録料となると……

 完全に食費が足らない。しかしそれさえ目をつむればなんとかぎり足りているとも言える。


「…他領に行くか……」


 リゼルは無意識にぼそっとつぶやく。


「えっ!? あっそれは、あの… そうだ!ちょっとギルドマスターに相談してきますから待っていてくださいね。」

「え? いや、そこまでしてもらわなくても…」

「いやいや、絶対に待っててくださいね? なんならエールもつけちゃいますから!

 へいおっちゃん!こちらのお兄さんにエールとなんかツマミをお願い!!」


 厨房から「あいよー」と少ししゃがれた声がした。


「え? いや、ほんとそこまでしてもらわなくても……」


 しかし受付嬢はリゼルをほっとき2階へぱたぱた走っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ