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短剣

「なるほど…なぁ……」


 店内にところ狭しと並べられた武器の数々を眺め、リゼルは唸る。

 一応ゲオルグの手伝いで配送に向かった店だが、ゲオルグから面白い店だからゆっくり見学してくるといいよとの許しをもらったので少し見学させてもらっている。


 マンゴーシュか…


 長く伸びた二本の鍔、あるいは鍔から柄頭まで手を覆うようについた籠状のガードが特徴的な短剣だ。もっとも、短剣といっても刃はほとんど無く刺突用に先端が尖っている程度で、故に折れづらい防御用の短剣といえる。


 シャーリ先生との練習を考えると…


 防御用の短剣とはいえマンゴーシュの刀身は割りと細い。真っ正面から受け止める防御ではなく、トロッコのレールの様に相手の攻撃を受け流す、そらす防御だからだ。


 刀身をもっと太く…いや、切っ先から鍔までを三角形にして太くしてやれば…… 重心を手元に残しつつ堅さを増やせるか…? だが単純に重量が増すのは利き手と逆の手で扱うことを考えると……


 そんなことを考えつつ別の武器も見る。


 おっ十手。


 東方から伝わったとされるその武器はそれは短剣というより鈍器ではあるが、ハンマーやメイスのように先端に塊があるわけではなく、金属の棒で鍔もあり形状的には短剣に近い。


 ふーん…


 マンゴーシュでも2本鍔タイプの物に見られるが十手だとより明確に棒状の鍔が直角に曲がって刀身と並行に伸びた物がある。


 …ここで相手の剣を挟んでへし折るのか……


 うまく扱うのは難しそうではあるが面白い工夫だ。

 手を保護するガードと相手の武器を折る鉤。


 1本で両立させるのは…さすがにごちゃごちゃし過ぎるか…… 2本持つのは…折れない様に頑丈さに特化させて、斬りつけるわけでもないから脂で切れ味が落ちるわけでもない防御用の短剣。2本は邪魔だな。


 漠然とではあるが短剣の改良案が浮かんでくる。そして…


 となるとメインの武器はレイピアか…いや……


 自身の戦い方の方針が見つかりつつあるので、自分が作りたい剣のイメージもわいてくる。


 レイピアとマンゴーシュは定番だが、刺突型のレイピアだと戦いが限定される。せっかくミスリルを使うんだ。軽いショートソードでいろいろな戦法がとれた方が……


 とはいえ、まだ決定的な何かはない。

 例えば重心を何処に置くのか? 切っ先に置いて一撃の威力を高めるのか?そうなれば戦い方は受けて受けて、隙を見てデカイ一撃を叩き込む感じとなる。逆に手元に置けば相手の攻撃を受けつつ懐に入り込み、こちらが手数で攻める物となるだろう。


 うーん……


「っと…」


 さすがにゆっくりしすぎたか?


 リゼルは小走りで工房へと帰っていった。





『ごめんなさい……』


 …生前、母は謝ってばかりの人だった。


『ごめんなさい……』


 当時は知らなかったが母は呪術士のクラスを持っていた。だから、職場で、近所で、少しでも不幸なことが起これば全てが母のせいにされた。


『…ごめんね……』


 石持て追われる流浪の日々。母は私にも謝ってばかりだった。

 でも……


『ありがとう、ございます……』


 それが母の最期の言葉だった。

 お金もない、身寄りもない、そんな母をあの人は今際の際まで必死に看病し、母の死後私の養育の約束までしてくれた。

 母の人生は幸せなものではなかっただろう。だけどあの人のおかげで幸せに逝けたのではと願うことが出来る。


 だから憧れてしまった… この人のようになりたいと。

 だから慕ってしまった… 父と呼んで……


 ごめんなさい……


 成人の儀のクラス鑑定で私に呪術士のクラスがあることがわかった。

 そのせいであの人は廃業に追い込まれた。


 ごめんなさい……


 こんなクラスでどう人の為になれというのか?そんな私の葛藤にあの人も答えられなかった。でも、それでも私のせいではないと笑ってくれるあの人の顔が見れなくて、私は家を飛び出した。


 ごめんなさい……


 そんな私に、ゲオルグはついてきてくれた。独りにしないでくれた。

 わかってる。私がそばにいたらゲオルグまで不幸にしてしまう。

 離れるべきだ、離れないと、離れなければはいけない…

 わかっている。わかっているのに……


 ごめんなさい……


 きっと母が私に謝っていたのは呪術士のクラスがあったからではない。一緒にいれば不幸になるとわかっていながら、離れられなかったからだ。


 ごめんなさい……


 私は幸せになることが許されていない。だからせめて皆には自分のクラスを活かして周囲を、そして自分自身を幸せにしてほしい。


 ごめんなさい……


 私は幸せの輪に入ることが許されていない。だから私のことを嫌いになって離れていってほしい。



 夕暮れ過ぎ、冒険者ギルドの仕事を終えて工房に入ると、リゼルがゲオルグから鍛冶を教わっていた。


「… やっほーリゼル君。どう?鍛冶士の仕事も楽しいでしょ?いっそ本当に鍛冶士になっちゃいませんか?」


 ものすごく嫌そうな顔をされた。

 それでも高級鍛冶士で空きもあるのだ。彼にはクラスを活かして幸せになってほしい。


「りっリサちゃ……」

「あーはいはい。」


 止めに入るゲオルグをぞさんに扱い、私は台所へと向かう。

 ちらりと振り返ると泣きそうな、悲しそうなゲオルグの顔が見えた。


 …ごめんなさい……


 私は願ってしまう。



 どうか(嫌だ)私を嫌いになって……(独りにしないで……)

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