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鍛冶士

さすがに2週連ちゃのお休みは回避できたぁ~

「すみません、遅くなりました。」


 あの後何だかんだでルイスと話し込んでしまい、ゲオルグの工房に帰りついた時にはすっかり日が暮れていた。


「い、いいよいいよ。せ、折角の学院なんだし、と、友達と遊ぶくらいふ、普通だよね。あっ、と、友達は…で出来たよね……?」


 相変わらずキョドりながらではあるがゲオルグは優しく迎えてくれた。

 友達…?

 ゲオルグに言われてふと考え込む。

 ルイスとは親しくなったし友人だよな? いや、でもゲオルグさんが言ってるのは学院の話だし…


「あっ、あっ、いや、その……だっ大丈夫だよ。そっ、その…ぼ、僕にだって凄く素敵な友達出来たし、リ、リゼル君ならきっとすぐに……」


「なーにが友達ですか。あれはたかりと言うんですよ?」


 夕飯を作りに来ていたリサがひょいと顔を出す。


「ゲオルグの親も腕の良い鍛冶士で村でも割りと裕福な部類だったんですが、教会で読み書き習った帰りとかいっつもみんなにお菓子とか奢らされそうになってたんですよ。」

「リッ、リサちゃ…」


 ばらすリサの口を塞ごうとゲオルグは慌てる。


「…なんですか??」


「うっうう、ひっひどいよリサちゃん。ぼっ僕の言ってる凄く素敵な友達ってのは、リッリサちゃんのことなのに……」

「ぅえっ!? あーうー…… っ!?リッリゼルさんっ剣っ剣はどうしたのですか!?」


 照れくさかったのか視線を泳がせたリサが折れてボロ布にくるまれているリゼルの剣に気が付いた。


「あっ実は…


 リゼルは模擬戦で折られたこと、相手から金貨1枚を貰ったことを説明した。


…というわけでゲオルグさん、どこかいいお店知りませんか?」


 普段は職人ギルドの仕事で鍬や調理器具なんかを作っていることの多いゲオルグも、もちろん剣は作れる。ただ、その全てが冒険者からの特注の依頼であり、金貨1枚ではとても足りない仕事だ。


「え、えっとどんな剣が欲しいのかによるかな? い、今までみたいな伝統的な直剣ならワーテル商会が老舗の工房とも繋がりが深くてお薦めだし、サーベルとか変わり種が希望ならトッテリ商会かな?ああ、あとあくまで練習用で使い潰す前提ならキャニオン商会が店の端に見習いの習作なんかを安く置いてるよ。ただその中にミスリル製の物も置いてあったりするけどそれはやめておいた方がいいかな。確かにミスリルは魔力を通しやすくてダンジョン産金属では初心者いや万人向けみたいな印象は強いけど、羽根より軽く鋼より硬い、いや羽根より軽いはさすがに比喩なんだけど、その性質を活かすために極限まで削った薄さによる軽さと切れ味が魅力になってくるんだけど、やっぱり見習いが作った物だと厚くて魅力が活かせていなかったり逆に薄すぎて簡単に折れたり、もちろん質の良いのも混じってたりするよ、ただいかに錆びないダンジョン産金属とはいえ、使っていれば刃が欠けたり丸まったりで研ぎ直しとかのメンテナンスは要るからそう言ったことまで考えるとお店で買うより直接職人に依頼した方が一生物って意味ではいいと思うな。」


「…えっと……??」


 内容以前にゲオルグがこんなにも矢継ぎ早にしゃべれることに混乱する。


「ゲオルグゲオルグ、ちょっと落ち着きなさい。」

「えっ? あっごごめんね。」


「いえ…」


 リゼルは改めてゲオルグの言ったことを思い返してみる。

 ミスリルは折れやすいし魔力を通しやすい性質上相手の魔法攻撃もあまり防げない、受けには向かない武器だ。だがクラスレスの俺も受けには向かないわけだし、受けを捨てるのなら相性がいいんじゃないか……?


「…とはいえ、そもそもいくら習作でも金貨1枚じゃ手が出ませんよ。」


「あっ… あ、あははっ、そっそうだね……」

「それならリゼルさんが自分で作ればよくないですか?」


「「えっ??」」


 なんの気ない風にリサが言った。


「盾にもなるような巨大な大剣を作るわけじゃないですよね?普通の片手剣の材料分のミスリルなら冒険者ギルドで直接買えば金貨1枚でもなんとかなりますし、そのくらいなら融通しますよ?」


「それは…」


 正直、少し心が揺れた。

 リゼルもこれから剣士として、冒険者として生きていこうと決めた以上、いつかはミスリルやアダマンタイトの剣が欲しいとは考えていた。

 だが奨学金を返し、金を貯めて… その『いつか』がいったいいつになるのかは考えないようにしていた。


「折角高級鍛冶士のクラスもあることですし、それに将来的に自分の武器のメンテナンスもリゼルさん自身で出来るようになりますし、その経験が何かの役に立つかもしれませんよ?」


「……」


 リゼルは悩む。

 どうして鍛冶をすることをこれほどまで拒もうとするのか?

 立派な剣士となるためにそんな回り道をしている余裕はないから… いや……

 確かにヴァイシュタインは鍛冶士を、剣士を支える重要な職業として保護し、腕の良い職人には敬意を払っていた。

 だがそれは佯狂者と同じ、尊敬はするが成りたくはない、そんな考えがあり、それはリゼルにも染み付いていた。


 …避けていることにも積極的に挑戦してみろ、か……


 それは今日、ルイスに勧められたことだ。


「リッリサちゃ… ごっごめんね、リッリゼルく…」

「お願いします!」


「「へぇっ??」」


 俺はもうヴァイシュタインじゃないんだ。


 前のような、指輪の材質とかそんなネガティブな気持ちじゃない。自由にポジションにそう思える。


「お願いします。俺に剣の作り方を教えてください。」


「「……」」


 今朝までもはまるで真逆のリゼルの発言、これが根負けしての嫌々ながらならまだ理解できたであろうが、そうではない真面目に真剣なリゼルの顔立ちに2人は言葉を失った。


「あの…?」


「はっ!? リゼルさん、ついに鍛冶士として生きる決心を持ってくれたんですね。」


「ないです。」


 感涙を流さんばかりのオーバーなリサを軽く流す。


「せっかく高級鍛冶士があるのなら自分でメンテナンスが出来た方が良いのは確かにそうですし。剣がどうやって作られているのか、そんな剣への理解を深めることで剣士として成長出来ると思うんです。

 …その、こんな理由では… ダメですか?」


 はっきり言って自分のためでしかなく、教える側のゲオルグにはなんのメリットもない話だ。


「い、いや、そっその… ぼっ僕なんかぜっぜんぜんダメダメで、ひっ人に教えることなんかでっ出来ないから、やめっ止めといた方がい、いいと思うんだよ。」


「…はぁ、教えたげなさいよゲオルグ。」


 ぶんぶんと頭を振るゲオルグにリサは言う。


「あんた腕はいいんだし、職人ギルドからもそろそろ弟子を育てて親方になれって言われてるんでしょ? 良い機会じゃない、教えたげなさいよ。」


「リッリサちゃ…」


「お願いします。」


 リゼルは真っ直ぐにゲオルグの目を見て頭を下げる。


「そっその、そ、そんな、その… えっと……たっ頼りないと思うけど、よっよろしくお願い、します……」


「はーい、決まり。それじゃあ晩御飯にしますんでリゼルさんも手を洗ってきてくださいな。」


「あっはい。」




 リゼルが手を洗いに水場へと去ったあと。


「リッリサちゃっ…!」


「…なによ。」


「あっあの、その… あっありがとっ!」


「…なにがよ?」


 リサは少し鬱陶しそうに聞く。


「そっその…むっ昔助けてくれていたこともだけど…そっその…きょっ今日も僕のこと考えてくれたんだよね。だっだからその…あ、ありがとう…」


「…はぁ、あんたには高級鍛冶士のクラスがあるんだから誰かのためになるのも、きちんと実力が認められてあんたが幸せになるのも当たり前のことよ。…あたしが感謝されるようなことはなにもないわ。」


 事もなさげにリサは言い、踵を返す。。


 なら、ならどうしてそんなにその背中は小さく見えるのだろう。どうしてその背中が小さく震えているように見えるのだろう。


「リッリサちゃっ… そっその、リサちゃんのお父さんはリサちゃんをそんなに苦しめたくは…」

「父さんじゃない!!!」


 ゲオルグの勇気を振り絞ったその言葉はリサの強い拒絶に遮られた。


「…あの人は…… 父さんじゃない。」


「リサちゃ……」


「ごめん… あたし、帰る……」


「リサちゃん!!!」


 1歩、2歩… ゲオルグはリサの背を追う。でも……


 それでも、その悲しみに寄り添う言葉が浮かばず、ゲオルグの脚は止まるのだった。

読みやすさのために改行増やしてみたんですが……どうですかね?

改行増やせば読みやすくなるのは知ってたんですが、この作品には合わない気がして……



あと最後の部分、『でも』だと軽いんだけど『しかし』だと堅くて無駄に悩みました。…英語なら『but』の一言なのが恨めしい……

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