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スタートライン

さぁ皆さんご一緒にっ!

せーのっ




どうしてこうなった!!!

「…はぁ……」


 学院からの帰り道、リゼルは商店街へと少し寄り道していた。

 懐にはフランツから渡された金貨が1枚。リゼルが使っていた鉄剣はだいたい銀貨80枚ほどなので、買い直すのに問題はない。


「…すみません、お邪魔しました。」


 しかしため息をついただけで結局何も買わず、リゼルは武器屋を後にする。既に何店か巡っているが、眺め、ため息をつき、結局何も買わずに帰る、その繰り返しだ。


「…はぁ……」


 また、ため息をついてリゼルはフランツとの戦いを思い返す。


 もしもあの時、あのタイミングでなかったのなら……


 フランツに突撃したあの時だ。たまたま、偶然、現実ではフランツがヘビィスラッシュを溜めるのと被り、完璧に迎撃されてしまった。


 もしも…


 あのタイミングでさえなければ、リゼルの詰めはフランツに気づかれず、その後のリゼルの攻撃はフランツには回避もクイックスラッシュでの迎撃も間に合ってはいなかった。


 もしも……


 きっとリゼルはフランツに勝っていた。フランツもそれがわかっているから負けたつもりでいるのだろう。


 …もしも……


 だがもうばれてしまった。奇襲は二度は通用しない。


 …もし、も………


 もしもなんてない。

 あるのは『こうなって欲しかった。』そんな虚しい願望と、『そうはならなかった。』そんな悲しい現実があるだけだ。


「…はぁ…… あっ。」


 考え事をしてぼぉっと歩いていたせいだろうか? ふと気がつけば武器屋の集まっていたエリアをすっかり通り抜け、周囲の店は飲食店ばかりに変わっていた。


 …来た道を引き返すか…… いや、


「もう帰ろう…」


 鉄剣は買っていない。だが果たして鉄剣を買うことに意味があるのか? そんな葛藤さえある。

 もっと良い剣。例えばダンジョン産の鉱石で世界最高レベルの硬さを誇るアダマンタイト製の剣を使えばリゼルでもフランツのヘビィスラッシュを受け止められるかもしれない。

 もちろんそんな高価な物を買う金などない。だがそれ以上にそんな高価な物を自分に使いこなせるだろうか? アダマンタイトは硬さと引き換えにとても重い。果たして自分がまともに振れるだろうか? 魔力を通しづらいアダマンタイトだが何年、何十年もの歳月使えば持ち主の魔力にだけは馴染むという性質を持つ。果たして剣士も魔法使い系もクラスがない自分にその性質が活かせるだろうか?

 そもそも自分が剣士を目指して何か意味が、何か成せることがあるのだろうか?


 ドンッ

「きゃっ」


 また考え事をしながら歩いていたせいで、今度は人にぶつかってしまった。


「すっすみませんっ!」

「いえっこちらこそふらふらと…って……? あっあなたは前にリサさんと一緒にいたクラスレスのっ!」

「あっえっとたしか…ルイス、さん?」

「はい。」


 そこには元クラスレス冒険者のルイスが天使のような笑みを浮かべていた。






「ひどいんですよ!リサさん、全然お店に来てくれないんです!!」

「…はぁ。」


 軽く自己紹介をした後、リゼルは街角にある公園のベンチに座りルイスと少し世間話をしていた。


「まあ、リサさんも恩に着せないところと言いますか、嫌われるのを厭わないといいますか、…むしろ嫌われたがっている?? 感じなところありますけど、私にとっては恩人なんですよ? たいしたこと出来なくてもお礼くらいしたいじゃないですか!」

「…はぁ。」

「でもお店にも来てくれないし、ギルドに行ってもなぜか避けられてる感じなんですよ!」

「いや、なんでなんででしょうね…?」


 共通の知人がリサくらいしかいないしで彼女の話になったのだが…なぜか愚痴を聞かされている。


 …俺はいったいなにをしているんだ……


「じーっ……」

「うぉっ!!」


 眼前でルイスの澄んだ瞳が覗き込んでいた。


「悩みごとですか? お兄さんが相談にのりますよ??」

「いや、えっと…… 大したことじゃないんで…」


 男性って自覚はあったのか…


「大したことじゃないなら良いじゃないですか? 悩みごとは誰かに説明しようと言葉にすることで、案外少し自分の中の整理がついたりするものですよ?」

「えっと、じゃあ… 実は今日、学院の授業で模擬戦をしたんですよ。その時自分の剣が折られてしまいまして…」


 リゼルは語り出す。


「えっ?剣が…? あのっ、私相談にのりますとか前にも応援してますとか言いましたが、その、私もエリザさんに借金をしている身でして…お金の相談は……」

「あっいえ、お金の方は相手が貴族で弁済もしてくれたんで問題はないんですよ。ただ…」

「ただ…?」


 ただ… なんだろう?

 同じような鉄剣を買えばいいのか? …違う。

 もっと良い剣にすればいいのか? …違う。

 …剣士を諦めた方がいいのか? …違う!


 リゼルが言葉を探す沈黙の間、ルイスは静かに待っている。


 …ああ、そうか……


「俺は、夢を、剣士を諦めたくないんです。」


 だからきっとリサではなく、元クラスレスの冒険者で応援してくれると言ってくれたルイスに相談しているんだ。


「諦めたくない、諦めたくないんです。でも敵わなかった。クラス持ちのスキル攻撃にどうしようもなかった。

 どうしたらいいのか考えても、自分じゃどうしようもない。諦めた方が良いんじゃないのかって思ってしまうんです。」


 驚くほど、するすると自分の気持ちが言葉になる。


「…悩めば、いいと思いますよ。」

「えっ?」


 思わずルイスの顔を見る。

 悩めばいいなんて言ったルイスだが、その顔にはバカにしてる風も貶している感じもなく、どこか懐かしそうな様子だった。


「夢を見て、憧れて。でも現実を知って… それでも諦められない。諦めた方がいいんじゃないのかって自分でも葛藤するけど、諦めたくない。諦めたくないから、必死に悩む。きっとそこが私たちクラスレスのスタートラインだと思います。」

「…スタートライン。」

「自分には何が出来ないのか、どう補ったらいいのか。自分には何が出来るのか、どう活かしたらいいのか。悩んで、試して、失敗して。また悩んで、試して、…楽しかったなぁ……」


 ルイスはやはり懐かしそうに空を見上げて語る。


「それで試行錯誤の末に、はじめてうまく行ったときは、嬉しかった。本当に嬉しかった。

 私たちクラスレスはクラス持ちの人たちと違って先人たちが見つけた、作った道がつかえない。だから自分で道を探して、作って歩くしかない。道がないから辛くて迷う。でも道がないから自由で楽しい。

 きっと悩むことが、そのスタートライン…ってこれじゃなんのアドバイスにもなりませんね。」


 自分語りが恥ずかしかったのか、ルイスは小さく照れ笑う。


「くすっ。いえ、そんなことないですよ。」


 年上なのにその仕草があまりにも可愛らしくて、思わずリゼルもつられて笑う。


「あー。年上なのにろくにアドバイスも出来ないのかってバカにしてますね。大丈夫ですよ、お兄さんなんですからきっちりアドバイスして見せますよ。…そうですね……

 …絶対に、絶対に自分と他人を見比べないでください。

 クラスレスの道は真っ直ぐ伸びているわけじゃない。時に蛇行し、時には回り道をしなくちゃいけない時もあると思います。そんな時、真っ直ぐ進むクラス持ちを見て、どれだけ歩いても自分は進んでいないような、むしろ遠ざかっているような錯覚をしちゃうと思います。でも、でもきっとそれはそんな道程に差し掛かっているだけです。夢さえ、目的さえ見失わなければまたきっと前に向かう道になります。だから絶対に自分の道をそれるような、ショートカットをしようとするようなことはしないでください。

 きっと私のように、道を踏み外すと思います。」


 そういって、ルイスは自分の足を擦った。


「…後悔はしていないのですか?」

「えっ?」


 思わず疑問が口に出ていた。


「失言でした。…すみません、忘れてください。」

「後悔はしていないですよ。」


 しかし謝るリゼルにルイスは言う。


「こんなことになってしまって、多くの人に迷惑をかけて、反省はしていますよ。でも後悔はしていません。

 たぶんあそこがあの頃の、見栄っ張りで弱かった私の限界点だったんですよ。やれるだけはやった。そしてその後に恩人と呼べる人々に触れて成長できた。だから私は満足です。

 今の私が前を見て、新しい夢を見て歩いていられるのは、きっとそういうことなんでしょうね。」


 曇りのない笑顔。

 フランツに対してとはまた違う羨ましさをルイスに感じた。


「ああ、あと、そうですね。自分が避けていることにも積極的に挑戦してみてください。

 私も昔はこの女の子みたいな外見が嫌いでこういった服装を避けていました。でも実際に着てみたら、…案外自分は可愛いものが嫌いではないみたいです。

 だからリゼルさんも挑戦してみたら、きっと新しい世界、可能性が見えるかもしれませんよ?」


 いや、それどう反応したらいいの??


「えっと…あっ、はい。」


 リゼルはとりあえずそう返すしかなかった。

別にBLタグとかつけるつもりは全くないです。


ただ、どうしてこうなった!!

なんかルイスがヒロイン的立ち回りしてんぞ??


ヒロインの登場を後回しにしすぎたせいですね。ごめんなさい。

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