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リゼル対フランツ

「では、リゼル対フランツ・フィーア・ヴァイシュタイン。はじめ!!」


 ジャンの合図でフランツとの模擬戦は始まった。


 …さて……

 リゼルはロッソとの戦いと同じように少し間合いをあけて構える。というのもフランツはロッソ同様、リゼルより背が高く手にした剣もリゼルの物より長い。そのため近距離戦ではリゼルの攻撃は届かないがフランツの攻撃は届く、そんな間合いでの戦いになりかねないからだ。

 もちろんさらに距離をとられ中距離戦となればソードストライクがある。現にロッソはそれを選択した。

 だが溜めが長めのソードストライクならかわせる。ロッソは中距離を一方的に攻撃のできる距離と考えていたようだが、実際は互いの攻撃が当たらない距離。

 さっきはあえてその距離を保つことでリゼルは攻撃を誘発し、疲弊させて勝利したのだ。


 …とはいえ、さっきの戦いは見られていたし、何よりジャンが説明してしまった……フランツはどう動くのか…

 ジャンが喋っているのはリゼルにも聞こえていたが別段どうとも思っていない。そもそもがリゼルも教わった技術であり、誰かが知っていようが誰に知られようが、それはおかしなことではないからだ。

 重要なのはこの技術に対して相手がどんな手段に出るかであり、自分はそれをどう乗り越えるかだ。


 しばらくの膠着。


「なんか…」「うん、地味……」


 そんな生徒たちの会話が聞こえる。

 …うっさいな……


「はぁ… これだから平民は、わかっていないですね。」


 彼らの会話にゴッシュが口を挟んだ。


「いいですかぁ? 間合いの競り合いとはいわば軍隊がどこに布陣するのかと同じことなんですよぉ? それを軽んじて最良の選択がとれなければ、それだけで敗北が決定しかねないことなんですよぉ?」

「… はぁ……?」


 しかし生徒たちはどこかウザそうに、気の抜けた生返事をする。


「ははっ、そんな説明しても通じねぇよ。こいつらにとっては軍隊の布陣なんて命じられた場所で止まるだけなもんだぜ?」

「ムカッ、じゃあ今何が行われているのか、僕たちにもわかるように説明してくださいよ!」


 会話に入ってきたロッソに生徒の1人が突っかかるようにいう。


「まずフランツ様の方が間合いに優れているのはわかるよな? フランツ様が普通に間合いを詰めたらフランツ様は攻撃が届くがリゼルは届かない距離にしかならない。で、リゼルは当然これを拒否してる。リゼルの方が脚捌きは上だからな、フランツ様は攻めあぐねているってわけだ。」

「へぇー、それでここからどうなると思いますか?」


 ロッソの以外にもまともな解説。

 なんとなくの質問であろう生徒の声に今度はゴッシュが答える。


「おほんっ! それはもちろんフランツ様が果敢にも前へ詰めての勝利でしょうね。」

「はっ、なにバカ言ってんだ。強引な突破で姿勢を崩して隙が生まれるのをリゼルは待ってんだぜ? 当然フランツ様が距離をとってソードストライクでの勝利に決まってんだろ。」

「おやおやぁ? ソードストライクがかわされるのはさっきロッソ君が無様に実演してくれたじゃないですかぁ?」

「なにを!!」

「なんです?」


 喧々諤々。


「いや、あの……」

「勇敢に前に活路を切り開いてこそ剣士の戦いでしょ!?」

「冷静に間合いを生かして立ち回るのが剣士の戦いだろ!?」


 慌てて間に入ろうとした生徒に2人は問い質すように詰め寄った。


「えっと、あのその…… そうだ! リゼル君から、お二人はフランツ様のことは仰いましたがリゼル君からはどう動くのでしょうか?」


 「ああ…」と小さく返事をし、2人は少し寂しそうな顔で言葉を選ぶ。


「ない、な。」「…ないですね。」

「え?」

「負け惜しみにしか聞こえないでしょうが、実際に手合わせして、戦いを横から見て、説明を聞いて… ジャン教官は「そこそこ」と言いましたが、私にはどれだけの努力の末の技術なのか想像も出来ません。」「ああ、」

「なら、なぜ?」

「無いんですよ、リゼルには… 決定力というものが全く無いんです。だから一見主導権を握っているようで実は相手依存なんです。そしてそれは手の内が知れてしまっている今では致命的なことなのですよ。」


 うっせぇな、その通りだよちくしょう!


「いくぞ!」


 ご丁寧に宣言してフランツは後ろへ跳ぶ。

 っ! ソードストライクか?

 だが溜めがわずかに長い。それにフランツの視線はリゼルのすぐ左側に移った。

 ?なにを狙っ…


「ソードストライク!!」


 視線の先、リゼルの左側へとフランツはソードストライクを放つ。

 今までは動きに合わせて避けていた。かわすことを予想して2分の1にかけたのだろうか?

 だがはじめから当たらないならかわす必要は…


「リストライク!!」


 直後に放たれる2発目のソードストライク。普通クラスから使えるアクティブスキルの連撃だ。今度は真っ直ぐリゼルに狙い定め、しかも1発目より速く、着弾のタイミングがかぶって左へは避けられない。


「ちぃっ!」


 必然、リゼルは右へと避けるしかない。

 厄介だ。

 普通クラスで連撃ができることではない。速度を変えて、着弾を合わせるようにソードストライクが放てるほど、フランツはスキルを使いこなせていることだ。


「うおぉぉっっ!!」


 避けた先、今度はフランツ本人が突っ込んでくる。


「くっ…」


 余計なことを考えていたせいか反応が遅れるも、フランツにスキル使用後の硬直があったこと、リゼルの体格が小柄であったことが幸いし、不格好ではあるが転げるようにしてなんとかその切っ先から逃れることができた。


「ふぅ、」


 互いに1つ、息をつく。

 どうする…?

 また同じように突進してくれればカウンターがとれるだろうか? そもそも同じ攻撃パターンをとってくれるだろうか? ソードストライクを誘発して疲れさせるのは有効だろうか? むしろソードストライクを使わせないように少し距離を詰めておいた方がいいのではないだろうか?

 僅かな迷い。

 しかしフランツがそんな僅かな時間も与えてはくれない。


「たあっ!!」


 フランツが再び突っ込んできた。

 カウっ…いや、スキルを溜めながら突っ込んできてやがる!!

 それに気づいたリゼルはとっさに後ろへ飛び退く。


「クイックスラッシュ!!」


 一瞬速く気付けたお陰でなんとかそれをかわす。だが…

 っ!連撃!!

 回避は間に合いそうもない。とはいえいかに高速の剣と言えど振りかぶった先からしか攻撃は来ない。リゼルは慌てて剣を受けに回す。


「リスラッシュ!!」

 キンッ


 互いの剣がぶつかり合う甲高い音が響いた。

 ヤバい……!!

 クイックスラッシュは剣士のスキルではもっとも低威力、そしてリゼルは高級鍛冶士のスキルで筋力に補正がかかっている。おかげでなんとかその剣を受けることが出来た。

 とはいえ速度重視といえどクイックスラッシュはれっきとしたスキルであり、生産系の身体能力向上スキルは戦闘系の半分以下の効果しかない。

 そのためリゼルは受け止めた衝撃で後方に軽く弾き飛ばされた。


 どうする!どうする…!!

 弾かれたおかげで距離が開き、体勢を立て直すくらいの余裕はある。しかしたったそれだけの僅かな時間でどうするのかを決めなければフランツもスキルの硬直から明けてしまう。

 脚捌きで優位を作り、焦れさせ疲れさせて隙をつくのがリゼルの勝ち筋だ。だが優位に立ち回れる距離がない。

 近付けばクイックスラッシュ、離れればソードストライク。スキルを使いこなすフランツにはどちらを選択しても崩されてしまう。

 どうする!!

 攻め手がない以上防戦一方、だがその防戦も受けきれる気がしない。

 …攻め手がない…?いや、ある!!


 リゼルは真っ直ぐフランツを見据えた。


 リゼルに攻め手がないことはリゼル自身わかっていることだ。当然フランツもそう認識しているだろう。

 だからこそ、リゼルから攻めることは最大の奇襲となり得るのではないだろうか?


 リゼルは意を決して間合いを詰める。

 渾身の無拍子。それは対面しているフランツ、いや、端から見ている生徒たちにも意表を突かれて一瞬リゼルが消えたかのように錯覚させるほどであった。

 しかし、タイミングが最悪だった。


 溜めっ…!


 そう。フランツも再び溜めながらの突撃を狙っていた。だがリゼルから前へ出てきたことに驚き脚を止め、結果的に最高の迎撃状態が整ってしまっていたのだ。


 ヤバいっ!!

 もしクイックスラッシュなら今からリゼルが攻撃したとしてもフランツの剣の方が先に届く。しかしフランツの溜めはまだ続いており、リゼルは剣を受けには回す余裕があった。

 今ならまだなんとか回避も間に合う。だが…

 連撃のクイックスラッシュなら1撃を受けきれば、2撃目は別方向にしか振れない。さっきは後方回避の途中だったから弾き飛ばされたが前方に突撃している今なら受け止められる。

 もしヘビィスラッシュなら確実に受け止められはしないだろうが、いなせさえすれば返しの剣で…


 俺が勝つ!!!


 リゼルは地に脚を着け、剣を力強く握りしめた。


「ヘビィスラッシュ!!!」


 そして振り下ろされるフランツの剛剣。リゼルはその軌道をそらすよう斜めに立てた剣で受け…


 受け、られない!!


 その剛剣の威力は凄まじく、その軌跡は真っ直ぐリゼルへと迫る。


 ヤバいっ!!


 リゼルはさらに剣に力を込め、なんとか止めようとあがく。

 が、しかし…


 ぐにっ


 武器性能向上(剣)のスキルで剣の硬さ粘りが増すスキル持ちと違い、クラスレスのリゼルの剣はただの鉄剣でしかない。

 走馬灯のようにただゆっくりフランツの剣が迫り来る視界にリゼルは自身の剣が曲がっていくのが見えた。

 そして…


 びきっ


 無情にも剣にはヒビが入り…


 ぼきっ


 折れた。


「あっ…」


 防ぐものはもうなにもなく、ただフランツの剣が迫る。

 体重は落とし、両足はベタ脚。動こうにも動けない。


 …


 迫り来る剣。


 …


 避けられない。


 …


 ……


 ………死………




 それを意識した瞬間、リゼルはぐいんと後ろへ引っ張られ、眼前をフランツの剣が通過した。


 …いき、てる……??


「こっんの!バカどもがぁ!!!」


 ジャンの怒声が響く。寸でのところでジャンがリゼルを引っ張り救出したのだ。


「殺しあいじゃねぇんだぞ!!!」

「「す、すみません……」」


 ジャンはフランツを向く。


「フランツっ! 寸止めって言ったよな!!」

「すみません、つい、熱くなってしまい……」

「つい、じゃねぇよバカ者!!」

「…はい。」


 …そうか、フランツも本気になってくれていたのか……

 殺されかけたが別にフランツを責める気はない。

 攻撃を受けると決めた時にリゼルは命をかけたつもりだったし、なによりもし返しの一撃が出来ていたのならリゼルだって寸止めのことを忘れていた。


「それからリゼル! お前最後の攻撃、避けられたよな?」

「…はい……」


 今度はリゼルに説教が飛ぶ。視界の端でフランツが驚きの表情を浮かべているのが見えた。


「なんで受けようとした? 受けられると思ったか?クラス持ちの攻撃なめんな! 自分はクラスレスだってことをもっと自覚しろ!死ぬ気出したって本当に死ぬぞ!!」

「……はい。」


 クラスレスの自覚、か……


「お前らは授業終わるまで外周を走って反省してろ!!

 次っ模擬戦やりたい奴は…」






 授業が終わり、走り疲れたリゼルは折れてしまった自身の剣を眺めていた。

 …どうしよう……

 それは剣を買い直す金がないことに対してか、それともフランツに敵わなかったことに対してか…


「おい。」


 その声に振り替えると後ろにはフランツが立っていた。


「…何か用で御座いますか?」

「気味の悪い喋り方をするな。…今は同じ学友だ。対等に口を聞くことを許す。

 それより…」


 フランツはピンッと小石くらいのものを投げて寄越す。

 リゼルはぱしっとそれを受け取った。

 それは1枚の金貨だった。


「折ってしまったからな。それで新しい剣を買うといい。」

「おい!」

「釣りは詫び賃だ、好きにしろ。」


 だがフランツは踵を返して歩き出す。


 しかしその足は数歩で止まった。


「次は、…次は俺が勝つ!!」


 それだけ言うと再び歩きだし、フランツは帰っていく。


 …ちくしょう……


 施しを受けたことではない。

 フランツに勝てなかったことでもない。

 フランツが負けたつもりでいることでもない。


 ただ…


 ただ……


 ただ、その言葉を迷いなく口に出せることが…


 ただ、羨ましかった……

技名とかが……ダセェ



誰かセンスをください

あとタイトル、…しっくりこないなぁ

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