プロローグ
急性新作書きたい症
あると思います。
木の根が這い、石の転がる山道を1台の馬車が進んでいる。
人里離れ、山鳥以外それを見るものもないが、奇妙な馬車であった。
さぞ名のある貴族の物とおぼしき立派な造りではあるが扉や窓は外側から堅牢な鍵を付けられ囚人護送車のようでもあり、重々しく口数の少ない護衛に囲まれて霊柩馬車のようでもあった。
俺、リゼル・ドライ・ヴァイシュタインは療養先へと向かう馬車の中、1人悪路に揺られている。
療養とはいうが別に体調が悪いわけではない。
きっかけは1週間前のことだ。
その日俺は両親に連れられて本家のパーティーに参加していた。本家のヴァイシュタイン家は選帝侯家であり剣の名門として代々王族の近衛近習を勤めている。生家のドライ・ヴァイシュタインはその4つある分家の3つめにあたる。生家もそれなりに裕福ではあったが王国でも5本の指に入るとされる本家はレベルが違った。
正直、居心地の悪さすら覚えるほどの本家の豪華さに圧倒されるリゼルだったが、その日のパーティーの目的はその年に12歳になるヴァイシュタイン一門の子供たちのクラスを鑑定するためであった。
クラスとは神によって定められた職業のようなものだ。生まれつき持っている物もあれば、経験を積みひらめき後天的に得ることもある。適したクラスの職についているとレベルが上がりやすくなり、またその職で役にたつスキルを使える。逆にいえばその職のクラスでなければレベルも上がりづらく、スキルも使えない。
クラスの鑑定は一般的には15歳の成人の儀で行うものだ。平民であれば領主の前で、貴族であれば王の御前で執り行う儀式だが、多くの貴族はその前に各自クラスの鑑定を行う。
理由は2つ。
1つはより上位のクラスへと育てるため。
例えば同じ剣士の系統であっても下から下級剣士、普通剣士、上級剣士、高級剣士、剣聖とクラスの中にも優劣が存在する。そして後天的にひらめくのと同じように、経験を積めばより上位のクラスへ変化することもある。
もし下級であれば見栄えを整えるため、上級であっても王の覚えをさらによくするために、よっぽどの貧乏貴族でない限りより上位のクラスを目指して早くから子供に教師をつけて育てるのだ。
そして貴族が早くにクラスの鑑定をするもう1つの理由。それは王や他の貴族の前で恥をかかないようにするためだ。
貴族はその立場上ほとんどの生産系クラスなど、主に平民の職とされるクラスを持つことをよく思っていない。なのでもし子供がそういったクラスであった場合、適当に理由をつけて御前での鑑定を休ませる。
もちろんそんなことをすればその子の貴族としての将来は絶たれる。だが家としては表に出す気がないのでなんの問題もない。
俺がこれから山奥で療養されせられるのもそういった事情だ。
リゼルは高級鍛冶士のクラスを持っていた。
鍛冶士というクラスはヴァイシュタイン家にとって少し特殊な事情を持つクラスだ。というのもこの国を興した初代国王と共に戦いヴァイシュタイン家をひらいたとされる初代当主には、戦争の途中にドワーフの鍛冶士の娘と婚姻を結んだという逸話がある。
しかし当時のことは知らないが今のこの国では人間以外のドワーフやエルフといったいわゆる亜人は差別されている。そのためヴァイシュタイン家では一族の中で鍛冶のクラスを持つ者を亜人汚れと呼び忌み嫌う。
おかげで俺は両親すら罵声を浴びせてくるパーティー会場から馬車に詰め込まれてそのまま療養させられることになったのだ。
突然、ギシッと軋んだ音をたてて馬車が止まった。
「…着いたのか?」
程無くガチャリと鍵が外され扉が開けられる。
「ありがとう。」
俺は開けてくれた使用人に礼を言うが、彼はそれに返事も反応もなくただついてこいといわんばかりの態度で先に歩き出す。
ああ……
彼ら、ここの使用人たちも代々ヴァイシュタイン家に仕えてきた者たちだ。すでに俺が亜人汚れと知っているのだろう。
俺は使用人に連れられて療養先となる館を案内された。そこは何代か前の本家当主が晩年に趣味の狩猟のために建てたという小さな屋敷であった。
小さいとは言うが必要な物は一通り揃っており庶民の家と比べれば十分に広い。
最後に俺は自室となる部屋へと案内された。
「ありがとう。」
俺は再び案内してくれた使用人に礼を言うが、やはり彼は返事も反応もなくただ下がっていた。
結局彼は最後まで独り言のようにしゃべっていただけで俺を見ることはなかった。
「…はぁ……」
ため息を1つ。
俺はこれから15になるまでの3年間、ここで過ごすことになる。
そしてその後は毒酒か銀貨袋かを選ばされる。要するに貴族として病死するか、家名を捨てて生きるかだ。
3年の猶予があるのは15にならないと成人と認められず職につけないから。家名を捨てて生きる選択肢があるのは恩情ではなくただの慣例だ。
分家とはいえ剣の名門に生まれ、高名な剣士の先人の話を聞かされて育てられ、当然のように俺は最強の剣士に憧れた。
「…よし!」
パンと音をたてて俺は両の頬を叩く。
確かに俺は最強の剣士になりたかった、いや、今でもその夢を諦めてはいない。
そう、俺は今でも剣士になりたいがあいにく別にヴァイシュタイン家のリゼルとして名を馳せたかった訳じゃない。あくまでも先人のような高名な剣士に憧れたんだ。別にただのリゼルのままで最強の剣士を目指したっていいじゃないか。
だったら決まっている。俺が選ぶのは銀貨袋だ。
リゼルは木剣を手に取ると屋敷の裏山へと向かうのだった。
数週間後
その日もリゼルの姿は裏山にあった。
「……、236、237、……」
ただただ一心不乱に木剣を振るう。
「……、250。251、……」
俺には剣士のクラスはない。そして俺は下級剣士のクラスしか得ることが出来ない。
クラスには5の原則と呼ばれるものがある。人は複数のクラスを所持することができるが、下級から順にマスターまで1から5の数を割り振った時、所持しているクラスの合計が5を超えることが出来ないというものだ。なのですでに高級鍛冶士のクラスを持つリゼルは新たなクラスを持てたとしても下級のクラスから上へ育つことがない。
「……、263、264、……」
それでも、下級でも剣士のクラスを得るんだ!
リゼルはそのために1日千本の素振りを自分に課していた。
しかしいくら努力しようと、使用人たちは応援するどころか亜人汚れであるリゼルを視界にいれようとすらしなかった。
だがその日はリゼルに声をかける者が現れる。
「ふむ… ずいぶんと無駄なことをしておるようじゃな?」
無駄なことだって!!
突然の声についかっとなり振り向くと鹿の背に座った小柄な老人がそこにはいた。
「??」
「ふぉっふぉっふぉっ、仙人に会うのは初めてかね?」
「あ、ああ…」
「まあ、ワシとて人に会うのは何十年ぶりになるかわからんからの。」
仙人と名乗った老人は確かに人ならざる者の気配を漂わせていた。
だが…
「それがどうした! それより無駄なこととはどういう意味だ! 俺は、俺には剣士のクラスがないからやるだけ無駄だとでも言いたいのか!!」
「いいや、そうではない。」
「じゃあなんなんだ!」
使用人には無視をされ続け、1人で鍛練を続けても空を掴むように強くなっているという実感がない。そんな募った苛立ちもついに爆発させるようにリゼルは老人に詰め寄る。
「自分の振るう剣筋が正しいものなのか?完璧なものなのか?そこを問い続けて剣を振るい続け、究極の剣筋を求めるのが剣の道であろう? 回数を定めてただそれをこなすことを求めることにいったいなんの意味がある。」
「っ……」
「そんなもの正しい九九を知らずに算術の計算に励むのと変わらぬ。何万門解こうが間違いを重ねるだけ、賢くはならんよ。」
「それは…」
それはリゼルには考えたこともない問いだった。
「…じゃっじゃあ究極の剣筋とはどんなものだった言うんだ!!」
「…ふむ。」
老人はひょいと鹿から飛び降りるとリゼルの前でおもむろに杖を剣のように中段で構える。
「あいにくワシとて道半ば、究極と呼ぶには程遠いものではあるが…」
ピタッ
「…え?」
ひゅんと振られた老人の杖がリゼルの眼前に突きつけられていた。
…いったい何をしたんだ……?
冷や汗が頬を伝う。
思い返せば確かに老人は杖を振った。だがリゼルはその先が眼前に突きつけられるまで気づくことすらできなかった。
わからない……
それは流れるような美しい剣筋だった。だが実はゆっくりでただ見とれていただけとも、速すぎて走馬灯のように見ていただけともとれるほど、速かったのか遅かったのか、そもそも時間は流れていたのかすらわからないほどのただ老人の動きだけが流れた剣筋であった。
「…今のは、いったい……」
「ただの無拍子じゃよ。」
「無拍子…? そういったスキルがあるのか……?」
「いいや、ただの技術じゃ。」
究極と思われる老人の剣筋に今までの世界観すら壊されたようなリゼルだが、老人はその剣筋に納得がいっていないのか、少し素っ気なく答えた。
…あれが、スキルではなく技術……
「あっあのっ、俺っ、いやっ私に。どうかその技術を御教授いただけないでしょうか?」
リゼルは地に伏せ教えを乞う。
「…あいにくじゃがワシは仙人じゃ。俗世を離れて生きており人にものを教えるような立場ではない。」
「そんなっ! どうか、どうかお願いします!!」
「とはいえ、道に迷うた若人にそれを示すくらいは許されるじゃろう。
無拍子とは動き出しの予備動作をなくすことじゃ。ほれ、馬車が動き出す時まず馬が動いてから馬車が動くじゃろ?」
「はい。」
「剣を振るう時も同じようにまず剣を振るおうとする動きがおうてから実際に剣を振るう動きとなるじゃろう。その一拍が相手に考える余裕を与え、対応する隙となってしまうのじゃ。
無拍子とはその一拍をなくすことじゃよ。」
動き出しの動きをなくす…
「えっと、つまりどうすれば…?」
「そこは自分で考えい。」
頭をコツンと杖で叩かれた。
「さて、ワシはそろそろいくかの。
努力とは目的に合いその者に合った形であっても必ずし夢に届くとは限らぬものじゃ、じゃが無理は確実にその夢もその者も破壊する。無理せず励むのじゃぞ?」
そういうと老人は再び鹿の背に座ると山の奥へと進んでいく。
「あっ、ありがとうございます!!」
「なに、ワシはワシの思う剣の道を語っただけじゃ。あとはヌシが勝手に自分の道を進めばよい。」
ヒラヒラと手を振る老人の背が木々に隠れて見えなくなるまで、リゼルは深々と頭を下げるのだった。
本編に書くかわからない設定。
お金は
白金貨1枚=大金貨10枚
大金貨1枚=金貨10枚
金貨1枚=大銀貨10枚
大銀貨1枚=銀貨1枚
銀貨1枚=銅貨10枚
銅貨1枚=小銅貨10枚
※大銀貨以上は市民の間では流通していない。大銀貨も給料でもらうことがあってもそのまま箪笥貯金的な感じで使いはしない。感じでしたいなぁ……