79匹目
「で、アレ……っていっても俺記憶がないんだけど、制御できるもんなの?」
きなこがバックンされてから今までの記憶が一切ない。
一体どんなことをしたのか……
「してもらわなきゃ困る。……ま、過去の実績からして制御できる類のものなはずだぜ。実際お前が初めてでもないしなぁ……」
あ、そういえば過去にも御印持ちは居たって言ってたか。
つか、聞いてみると栄光の御印をもつ人間は100年に一人くらいは出てくるらしい。
なら、ユウキが関わっている御印持ちも一人、二人どころではないのだろう。
ふむ。俺みたいにスキルに慣れてないやつに出会ったことも……
「ま、さすがに制御できてない時に出会ったやつ、お前が初めてだけどなー」
マジかよ。
「んまぁ、予想外に稼いでるし今日はこの辺で帰るか」
と、きなこが俺の足元によって来る。
「きゅ」
触手をにゅっと伸ばして宝石のいっぱい詰まった鞄もどきを差し出してきた。
次はリュックサックもってこないとな。
「これ、売ったら金になるかね?」
俺はきなこから鞄を受け取り、中身をユウキへ見せる。
ちらっと中身を覗き込んだユウキだったが、ふと苦笑をにじませる。
「それを売るなんてとんでもない」
「どこのネタだそれ」
「ネタ挟まないと死んじゃうんですー」
むっとむくれて鞄もどきを強奪するユウキ。
それからきなこへ目を向けて「ここまで加工したの? お前」と声をかける。
きなこは「きゅふっ」と変な鳴き声を上げた。
「魔物の魔力を、魔石に変換したやつね。これ。これをさらに加工したらきなこの薬になる」
そういって鞄もどきから2つ3つ石を取り出す。
それを片手でころころと転がしながらユウキは口を開く。
「ここまで凝縮するのも結構手間なんだぞー? きなこ、がんばったなー」
「きゅっきゅちゃーん」
自信満々に胸を張るきなこ。
「お前の努力、売ろうとしてごめんな?」
ときなこを抱えて謝れば、きなこは首を傾げていた。
「きゅ?」
「お前は努力家だな、きなこ」
頭やらあごやらうりうりと撫でてやればとても喜ぶ。
「きゅっきゅきゅ」
そんなきなこと俺を見てユウキが目を和ませた。
それから小首をかしげる。
「ま、昼飯食いに帰ろうか」
そういってどこからともなく杖を引っこ抜いた。
白銀のその杖は、ユウキの身長よりも長い。長槍のようだったが、杖らしい。
くるりと回すと魔法陣が展開する。
ユウキは基本詠唱をしない。
魔術の神様なので、声に出さなくてもいいらしい。
そこらへんの理屈は……魔術師ではない俺にはよくわからない。
ものの数秒で術式をくみ上げたらしいユウキは、ふと何かを思い出したらしかった。
俺に向けてにぱっと笑みを浮かべる。
「あ、明日は筋肉痛で死ぬほど痛いと思うから覚悟しろー?」
にっこりと笑うユウキへ顔を向け、俺は何とも言えない表情を浮かべて口を紡ぐ。
いや、まぁ。普段とは全く次元の違う動き方をしているので、そりゃ、体も痛くなるだろうけどさぁ……
今言うこと? それ。