78匹目
「あ、起きた?」
すんごく気まずそうな声が降ってきた。
瞬きをする。
あれ、えーと?
「きゅきゅー! きゅっきゅきゅー!」
傍らでめっちゃ怒ったきなこの声がした。
あ、よかった。きなこ無事だったのな。
いつのまにかユウキが傍らに座っている。
青い髪をポニーテールにし、魔法少女っぽい濃紺のワンピースを着た……つまりは今朝と同じ姿。
だが、その所々がほつれていたり、破けていたりする。
素材集めしてたんだっけ? 向こうも向こうで大変な戦いをしていたようだなぁ……。
「いや、まさかお前……あんなところまできてボス屠っちゃうとは……さすが御印持ちだな……止まるのに苦労した……」
……ん?
そういえば、今気づいたが、なんで俺縛られて地面に転がされてるんだ?
「あえ?」
縄でぐるぐる巻きである。
そしてあの森ではなく、最初いた林に場所が移動している。
ユウキは切り株に腰を掛けて、膝の上にきなこを乗せているらしかった。
「えーと、どうなってんの? これ」
「聞きたい?」
にっこりと、ユウキが笑う。
「この森から出ることないだろうなぁ、と、思てったのに。まさか隣の森に凸ってるとは……ゲーム的な説明すればあそこ、中級者向けっていうか。プロ北っていうか」
「おい、メタいぞ。それめっちゃメタい」
やってるゲームバレるから。てかユウキもやってたのか?
「冒険者初日で行く場所じゃないんだけどね。普通なら死を覚悟すべき場所」
「敵、あいつ以外居なかったけどな?」
「スライム型が一掃した後だったんだろうな?」
「え、スライムそんな物騒なの」
「俺も多少苦労する」
音符付きでユウキがけろりと言ってのけるけど。
いや、魔術の神が多少でも苦労するって、マジ?
そんなのが初心者推奨フィールドの近くにいるの?
つか、ゲームじゃないんだから、そのスライム……
「ご明察。たまにここら辺も出てくるぞ」
ばちこーん、とウィンク一つ。
初心者推奨狩場ってなんだろう。
「さて、正気に戻ったし縄をほどいてやろう」
「ワーイ、ヤッター。……縛られるくらい暴れてたの? 俺」
「……きゅ」
きなこがそっぽを向いた。
まるで恐ろしいものから視線を外そうとするような態度。
えぇ……その反応傷つくぅ……。
「俺が危惧したこと、少しわかってくれた?」
魔法で編んだ縄だったらしい。
勝手に解けて光となって、空中に溶けていく縄を見つつ、ユウキの声を聞く。
ん、まぁ……
なんとなく。
こう、簡単にプッツンくるとは思ってなかったし。
制御できない自分が、己の実力以上の敵を屠って、きなこを怯えさせているという事実が、なんというか……きつい。
例えるなら爆弾、か。
安全機構のない、いつ爆発してもおかしくない爆弾……。
……
よく制御させようと考えたな!?
いや、一応俺-八番街-の住民だもんなぁ……なんかあったときが怖いか。
そら制御してもらわないと困る立場だもんなぁ……
……がんばろ。
そこまで思考して俺は一つ頷いた。