73匹目
寝たきり生活だったきなこも、週末に近づくにつれ回復してきた。
そして土曜日。
「きゅっきゅちゃーん!」
ユウキの頭の上で「あいあむちゃんぴおん」と叫ぶきなこ。
完 全 復 活。
いや、厳密には完全復活ではない。
とりあえずユウキからもらったお薬やら魔力やらで持ち直しただけだ。
この状態で日常生活をする分には差支えはないのだけれども……
仮に家に戻ったらまたきなこは、仕事で疲れ果てた父さんに対して回復魔法を掛けるだろう。
そうしたらまた、きなこは倒れる。確実に。
なので、今日からは回復魔法を掛けても倒れない体づくりをしようという魂胆である。
つまり、レベリング。
「はーい、あいあむちゃんぴおんあいあむちゃんぴおん。……俺の頭にのるんじゃねぇ!」
べりっときなおを頭から引き離し、俺へとパスしてくる。
「おっと」
うまくキャッチしてやると、きなこがきゅっきゅっと喜んでいた。
……楽しそうで何より。
「ったく、緊張感のないやつら。ここが-街-の外だって忘れんなよ?」
「はーい」「きゅきゅーん」
きなこと同時に返事をして、俺は軽く右手をあげる。
きなこは俺の左腕にすっぽり収まっておとなしくしたまま、左の触手を伸ばしていた。
返事がいちいちやる気がないのは御愛嬌である。
「でもせんせー」
「誰が先生だ、誰が。……何」
「俺手ぶらなんだけどさ、外に出て大丈夫なの?」
朝起きて、そのまま-街-の外へワープでここまでつれてこられた訳なんだけど……。
回りを見渡せど、いまのところ俺たち以外の影はない。
ふむ……。
俺たちは平原に近い、林のなかにいる。
まばらな木々の隙間から太陽が降り注ぎ、柔らかな光で地面を照らしている。
平和。
そして静かだ。
が、こう……確かに。-街-の外、そして自分が丸腰だと実感すると、心もとない感覚がある。
と、唐突にユウキが何かを差し出してきた。
……石?
いや、粘土?
青み帯びた銀色の、拳大ほどある石……っていうか、粘土っぽいものを手に乗せていた。
「それもって、イメージしろー。イメージ通りに生成してくれるから」
「俺、どんな武器が良いかも知らないんだけど」
「スキルが教えてくれるさー」
あぁ、天賦の叡知?
ユウキが投げやりに言う言葉にひとつ頷いて石を見る。
言うほど柔らかくない。
しかし石だと断定できる自信もない。
冷たいかと思えば意外に熱がある。
が、熱いわけでもない。
勝手に生成してくれる、かぁ……。
「どんな武器がいいんだろうね?」
「きゅっちゃぁ」
きなこに問いかければ、きなこはふすっと息を吐く。
私に聞くな。
そう言ってるようだ。
まぁ、そりゃな。
しっかし、何が良いんだろう?
……そういえば俺は魔法系はからっきしとか言ってたなぁ、ユウキが。
なら物理職か。
イメージすればそのままできるというので、俺は一生懸命イメージする。
石が微かに震えた気がした。
思い描いたのは一降りの剣。
いつのまにか思い描くのに必死で目を閉じていたらしい。
目を開けば、手の内には、それがあった。
真っ黒い、剣。
形状はいわゆる直刀……なのだが、刀身が短い。
60cm程度か。
唾はなく、柄からやいばからすべてが黒い。
おぉ、イメージ通り……つか、元の色どこ行った。
くるくると直刀を弄んでいるときなこが感心したように鳴いた。
うん、俺もちょっとビックリ。
かなり手に馴染んでいる感があるのだ。
「お、できたー?」
と、ユウキが近寄ってくる。
が、俺が持ってる剣を見て「へぇ」と言ったあと、また離れていこうとする。
って
「ちょっと」
「ん?」
飛び止められて、ユウキは俺を見た。
こてり、と小首を傾げる。
「何も言わずどっか行かれても。俺、どうすりゃいいかわかんないんだけど?」
正直に言ってやれば、ユウキは数瞬固まった。
それから瞬きしてこてり、と小首をかしげる。
「まぁ、武器できたらあとは敵をサーチアンドデストロイだろ」
けろり、と言ってのけられた。
何を当たり前のことを……と、言外に言ってた。
さーちあんど、ですとろい……ですか。
「言ってもずぶの素人だど。俺」
「この辺は動物とさしてかわんないから。思いっきりいっちゃえ?」
「いっちゃえって。あーた……」
こちとら動物をさばいたこともない7才児だぞ。
「だーいじょうぶ、だーいじょうぶ。遠くからでも見守ってるし、やばくなったらとめるから」
「遠くからって……どこ行くんだよ?」
「素材探し~」
おどけたような声を残してユウキがどこかへ消えていく。
その背中を見送り、俺はきなこを見た。
きなこも俺の顔を見上げている。
……おおう。
「とりあえず、さーちあんどですとろいデストロイしますか……しますか」
「きゅ」
フスッと鼻息一つ、きなこが地面に降りた。
あ、たまには自分で動きたいのかね。




