72匹目
「まさか一晩精製してたんです?」
「まぁ、俺もよくここまで純度あげれたと思う」
「ハルトさん。貴方わかってないと思いますけど……これ、売れば豪邸建てられますよ」
あ?
「うらないでねー。めっちゃ苦労したから」
疲労困憊。
表情で表したユウキが半笑いを浮かべた。
きなこは奪われないようにか、触手でガッチリ球体を絡めている。
いや、奪わないし。
「え、そんな高価なもん……何も返せないよ?」
「きなこの治療のためだし? つか、まぁ。澪夢の言うとおりめっちゃ高く売れるし、なにかと危険だからあんまり外で出させないようにね……」
そういってからソファーにしなだれかかる。
「マジ疲れた……ハルト、準備できたら呼んで」
ふぅ、と息を吐いてユウキが目を閉じる。
寝てはないようだけど……。
「朝御飯、用意しますか」
と澪夢がキッチンへと行った。
俺は……
きなこを見下ろす。
きなこは球体をぺろぺろ舐めていた。
淡い青と透明なガラスのような材質。
細い円が無数に絡み合って球体を作っているようなデザイン。
よく見ると、透明なガラスの管の中、青い液体がゆっくりと流れているように見える。
めっちゃきれいなんだけど。
高級なインテリアとか、芸術品といわれても納得。
でもこれが薬……。
「きなこ、おいしい?」
「きゅっきゅ~」
めっちゃ気に入ってる。
ぺろんちょすしてはさざ波のように体を震わせている様は……うん、がんギマってるとしか言いようがない。
「まぁ、ほどほどにしとけよ? 薬だってとりすぎは毒なんだから」
「きゅ?」
顔をあげてきなこが俺を見た。
相変わらずのし掛かるように球体を抱えている。
離す気はないようだ。
それに苦笑ににた笑みを浮かべて俺はきなこをテーブルに下ろした。
澪夢がトーストとサラダを出してくれる。
俺と、きなこの分。
「きなこさんも食べるでしょう?」
「きゅっきゅー! きゅきゅ」
トーストを見てテンションを爆上げにしたきなこだったが、すぐにふすっと息をはく。
ん?
きなこは球体をどうしようか悩んでいるようだった。
離したくないけど、ごはん食べたいってところか……。
「きゅっきゅぅ」
ごはんと球体を交互に見ては鳴くきなこ。
「いや、離せば? 誰もとらないって」
「きゅ? きゅきゅー」
しかし球体から手を離さないきなこ。
納得はしてない模様。
ふむ。
俺はきなこの分からトーストを1枚つまみ、きなこの口許へ持っていってやる。
「今回だけだぞー」
「きゅー!」
……これぞ餌付け。
俺の手からトーストを喜んで食べるきなこを眺めつつ、もう片方の手で俺の分のトーストを食べ始めた。
いつもより少し時間がかかったが朝御飯を食べ終わり、それからきなこをベッドに戻し、学校へいく準備を整えてからユウキに声をかけた。
ユウキは数拍してから目を開ける。
「あ、準備オッケー?」
ふあぁ、と欠伸を噛み殺してユウキが首をかしげる。
それに頷いて、きなこを見た。
「学校いってくるね」
「きゅー」
片手を上げてきなこが答える。
うん、やっぱきなこが起きてるのはいいな。
きなこが反応を返してくれるのはとても嬉しい。
勉強がんばるぞーってなるな。
学校の前に転送してもらって、授業をうけ、終わったらユウキに迎えに来てもらい、一緒に帰る。
学校からユウキの家まで、転移魔法で一っ飛び。
5分とかからないのはすげぇと思う。
「おじゃましまー」
「たでーも」
ユウキとともに玄関をくぐれば、きなこがのそのそとお出迎えしてくれた。
起きてたらしい。
「きなこ」
「きゅー」
まだ飛び付く元気はないらしい。
が、のそのそと近づいてくる。
寂しかったのかな?
抱き上げると、ふすっと息を吐くきなこ。
うーん、疲れているのかなー。
「無理しなくていいんだよ?」
「きゅー」
わかってるのかどうなのか。
返事は生返事である。
腕に収まって蕩けているきなこの体をもちもちといじりながらリビングへ行くとソファーに澪夢が座っている。
膝の上にサテライトを乗せて、ウィンドウと睨めっこしていた。
かなり集中しているのか俺たちが帰ってきたことに気づいていない様子。
……いや、どうでもいいから放置してるのかも?
澪夢は、表情筋が仕事していないと、言っていいほど表にでる感情は淡い。
こうして微動だにせず座っているとお人形のようだ。
そして、これまたお人形のような、妖狐型のサテライトが時折手を動かしてウィンドウを展開したり移動させたりしている。
絵になるねー。
「邪魔したら殺されるから、そっとしとくか……」
ボソッとつぶやいてユウキがキッチンへ向かっていく。
「物騒な……」
まぁ、やりそうだとは思う。
こう、数日だが一緒に暮らして分かったことだが、澪夢は思っている以上に武闘派というか、暴力的だ。
なんというか、暴力で解決できるなら抵抗なくやってのけるタイプ。
まぁ、腕力で全て解決できると思っているわけではないし、弱者に力でどうこうするタイプでもない……はずである。そこは信じたい。
まぁ、ユウキとかには容赦ないけどな。
ユウキを目線で追ってから、さて俺はどうするかと首を傾げた。
きなこは俺の腕の中でぷうぷうと鼻提灯を膨らませていた。
一緒に昼寝も一興か。
なんとなく、きなこの寝ている姿を見ていると俺も眠たくなったのだ。




