71匹目
結局きなこはあの後目覚めず、ユウキも部屋から出てこなかった。
澪夢と二人で夕食をすまし、澪夢は後は任せたと言わんばかりに消える。
本体(?)の方に戻ったのかな……。
そう思いつつきなこと一緒に布団にはいった。
そして目を開けたらもう朝だった。
……早い。
少し不機嫌を胸に残しつつきなこを探すと……
「きゅっちゃぁ……」
起きてた。
まぁ、ずっと寝っぱなしだったしね……。
布団のなかに潜り込んでごそごそしている。
きなこの体っぽいのが俺のお腹辺りを掠めて少しこそばい。
なにしてんのさ?
「きなこー?」
布団を捲ってきなこを探す。
「きゅっちゃ」
バレた。
ときなこは俺を見た。
お目目が開いている。
けど、いつもみたいにピカピカ光ってない。
おや。
ピカピカしないときもあるのね。
「きゅっきゅっ」
きなこが布団から抜け出して触手を出した。
にゅるーんと伸ばした触手で俺の使っていた枕を抱き抱える。
あ、二度寝する気だな?
「その前に、朝飯食べようぜ?」
「きゅきゅっ。きゅっちゃん」
ご飯の一言できなこの眠気は吹き飛んだようだ。
意気揚々と布団から抜け出し、そして
「きゅきゅっ!?」
ここが俺の家じゃないことに気づいたらしい。
めっちゃショック受けてる。
そしてきなこが俺を見た。
お目目閉じてる。つり目になってる。
「お前の療養のためにユウキの家にお邪魔してるのー」
抱き抱えながら一言で説明してやる。
それに納得したのかどうなのか。
「きゅっふん」
と息を吐いてきなこは俺の腕に収まった。
リビングにいくと澪夢がソファーで珈琲を飲んでいる。
おや、戻ってきてる。
俺の気配に気づいてちらりと一瞥された。
マグカップから口は離さない。
何も言う気はないらしい。
「おはよ」
「きゅっきゅ」
にゅっときなこが触手を伸ばして澪夢に挨拶をした。
それに澪夢が目を瞬かせる。
おや、これは……驚いてる?
「はい、おはようございます」
「澪夢、何に驚いた?」
「え? あぁ、まぁ……きなこさん、ずいぶん器用なようで?」
うん?
「器用?」
器用、って、何が?
俺は意味がわからなくて首をかしげる。
それにきなこも真似をしてか首をかしげた。
「手、出したり首かしげたり……えらく、進化してますね……」
え、それ、進化なの?
意外……と俺こそ瞬いた。
「きなこ、これ誉められてる?」
「きゅっきゅちゃ? きゅっきゅ?」
きなこと一緒に首をかしげてみる。
どうだろう? きなこがすごいのは知ってたけど。
「誉めてますよ。一応」
「やった、誉められてるって」
「きゅっきゅちゃ!」
きなこの頭をうりうりしてやる。
きなこも喜んでいた。
「そーいえばユウキは?」
「ここにいるー」
朝飯くったら学校へ送ってもらわねば、と思いつつ声をかければ背後からユウキの声。
すんげぇ疲労にまみれた声だった。
おまけに眠そう。
振り向けば、ユウキがダイニングテーブルの上で延びていた。
目元のくまが濃い。
「おはよ。完徹?」
「完徹完徹。ま、間に合ったからオールオッケー」
といいつつ俺に近づいてきて、きなこの目の前で手を開く。
その手の上には、淡い青を滲ませた、円を複雑に絡ませた球状のガラス細工……の、ようなものが転がっている。
「きゅ?」
きなこが触手を伸ばしてその球体をつんつんとつついた。
「きなこにあげる」
「きゅきゅ?」
きなこが球体を受け取った。
しばらく眺めたり触手で弄んだりしていたが、唐突に
「きゅ」
ぺろんちょす。
とひと舐め。
「え、舐めていいもの?」
「きゅっきゅちゃぁ~」
くは~。と、きなこが全身をさざ波のように震えさせながら声をあげる。
え、これ舐めたらダメなやつでは?
だが、ユウキはまったく慌てない。
それどころかきなこのあごあたりをうりうりしている。
「ん、まぁ。薬のようなもんだ」
「きゅきゅっ」
癖になったのかきなこはまた球体をぺろんちょすしては小刻みに震える。
「きゅっきゅちゃぁ~」
「麻薬っぽいな。反応が」
「ある意味そうかも。高濃度の魔力結晶だし」
「え」
サラリと吐き出されたユウキの言葉に、反応したのは澪夢。
俺は首をかしげるだけ。
言ってる意味も、その重要性もわかんないし?




