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67匹目

 いつも通り起きたら見知らぬ部屋で一瞬焦った。

 が、昨日からきなこを療養させるためにユウキ(と澪夢)の家に来ていたことを思いだす。

 とりあえず、布団を軽くたたんで服を着替える。

 リビングに出ると澪夢がマグカップで何かを啜っていた。

 あ、コーヒーか。


「おはよ」

「早いですね。おはようございます」

「……」

 さらっと、相変わらずの敬語だったので、ふと澪夢を見つめてしまう。

「なんですか?」

「澪夢ってさ、誰にでもそういう喋り方するの?」

「ええ、そうですね。基本敬語です。……嫌ですか?」

 こてり、と首をかしげられる。

「別に。そういうわけじゃないんだけど」

 寧ろ、澪夢が敬語じゃないところって見たことあったか?

 そういうものって理解だったので、敬語じゃないのが逆に想像できない。

 が、まぁ、俺明らかに年下だし、もうちょっと砕けた感じでも……と思わないまでもない。

「この世界に堕ちた時、私、孤児だったわけでして」

 と、唐突に澪夢が語り出す。

 なんだ?

「当時暦もない、それこそ神代の時代だったわけでして……過酷な環境で生き延びるには、その村の奴隷になるしかなかったんですよ」

「?」

 奴隷?

 この世界でもあったのか……。

 ほんと、異世界感ないな……。

 いや、人の考え方なんて多少環境が変わっても、条件が増えた程度では変わらないのかもしれない。

「その時からですね、こういう話し方。敬語じゃないと……打たれますから」

「……復讐するほど嫌だったんだよな」

 竜神を屠って村を日照りで滅ぼしたと言っていたのは、この前聞いたところだ。

 が、澪夢は苦笑で手を左右に振る。

「……別に、奴隷だったことが嫌だった……訳じゃないんですよ」

「え?」

「私が嫌だったのは……命を軽んじられたことは悲しかったですけどね。……それよりも、あの龍神野郎が『見た目が気に食わない』って生贄として殺された私に向かってチェンジを出したことですし」

 ……えぇ~。

 龍神さん、そりゃないよぉ……。

「死に損じゃないですか。だから、龍神を八つ裂きにしただけで。結果として村も滅びましたけど? そこは最早どっちでもいいです」

「……」

 神って、ほんと理不尽だけど……澪夢も大概だよな。

「そもそも、奴隷が嫌ならこんな社畜してませんって」

 朗らかに、はっはっはっと笑っているけど顔が真顔である。

 怖い。

 目が笑ってないのが特に怖い。

「笑うところですよ?」

笑うことを止めた澪夢が首をかしげて言ってくる。

「強制されましても」

「それもそうですね。……朝ごはん食べます?」

「いただきます」

「和食or洋食」

「食パンあるなら、それで」

「コーヒー……は、まだ早いか。牛乳で?」

「はよー……」

 と割って声がする。

 ユウキだった。

 長い青の髪を揺らして眠気眼のままふらふらやってくる。

 ユウキ、朝弱いのな……。

 くあぁ~と欠伸を溢して目を擦りながら近づいてくる。

「……澪夢だ」

 ぼんやりとした目のまま、ユウキが澪夢を見て呟く。

「寝ぼけてますね?」

 そんなユウキに澪夢は半目を返した。

「この時間いるのめずらし~」

 あはは~とユウキが笑い、それから時計を見、数拍。

「……今日平日だよな?」

 目に意思の光を宿らせてユウキが怪訝そうに呻いた。

 あ、覚醒したな。

「おはようございます。平日ですよ?」

「え、いいの? ここにいて」

「……打ちますよ?」

 澪夢が半目で唸った。だがすぐにため息を吐く。

「連日仕事してんですから、たまには定時出社したって大丈夫ですって」

「あ、やっぱ出るんだ……」

 半笑いでユウキが返しつつコーヒーをマグカップに注ぐ。

 おぉ、コーヒーものめるのか。

 と、思ったが、ユウキはおもむろにシュガーポットから砂糖をドバドバといれ、冷蔵庫から牛乳を取り出してダバダバと注ぎ出す。

 ……あれ、もうコーヒーって体してねーよな。

 コーヒーを冒涜してるよな……。

 つか、子供でももう少し……アレ、もはや牛乳だよな……。

 俺の、ユウキがいれたコーヒーフレーバーの牛乳にたいする表情で、澪夢がなにか悟ったらしい。

 どこか諦めにもにた表情を浮かべている。

 ……突っ込まない方が、いいんだろうなぁ……


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