4匹目
さて、転生のための準備だー
『表層って言ってるけど、実際はパンドラに一番近いところだから……内側に来てるんだけどね』
「そうなの?」
『ここは、世界の外側だからボクしかいないはずの空間で、ボクそのもの。今は澪夢がいるけどね。だから……割と適当だったり』
「ゆうきは?」
『あれ、ボクだから。というか、互いに高藤優樹の一部だからねぇ……』
なんて、話ながら二人して歩く。
道なんてものはなく、あるのは白い空間。
どこまでも広がる空間は、果てが見えない。
というか、方向感覚なんて全くわからない。
優樹は迷いなく歩いているが、本当にあってるのだろうか。
『まぁ、世界なんて曖昧なものだからねぇ……実際、世界との壁が薄いところに行ってるだけで、距離的に近いとか遠いとか関係ないんだよね』
「ふーん」
歩いているはずなのに進んでいる感覚がない。
俺と優樹以外はまっしろで、何もない。
音すらも、ない。
ただただ、優樹と俺のしゃべる声だけがある。
『いやぁ、こんなに喋るの何年ぶりだろーなぁ』
あははーと朗らかに笑う優樹。
彼は……最近までずっと独りだったらしい。
15才でここにきて、億年というながい年月を、気の遠くなるほどの年月を、独りで……。
「狂うよなぁ……普通」
『そういってくれる人は誰もいなかったよ』
たはは。とそれでも朗らかに笑んで。
優樹は遠くをみる。
『きみ、ほんと優しいよねぇ……キミみたいな人がいるって、もっと早く気づいてたら……変わってたかなぁ……』
なんていう優樹の声は、どこまでも澄んでいて。
寂しさと、後悔が滲んだ声色だった。
『ついたよ』
「ここが表層?」
『さっきの場所でも、まぁ……良かったんだけどね』
「じゃぁ何故移動した」
半目で呻くように問えば、優樹はたははーと笑んだ。目線がめっちゃ泳いでいる。
『ま、理由はいろいろあるんだけど……一番の目的は、キミと歩いてみたかった。ボクの我儘だよ』
「えぇ……そんな理由……」
引きぎみに呻く。
野郎二人で歩いても面白くないでしょ……。
あ、いや、最早枯れ枯れの億年爺にとっては16才の高校生は……ぴちぴちで眩しい?
『喧嘩売ってんのかてめぇ』
半目の奥、輝く瞳は猛禽類の瞳のそれで。
かなり迫力あるっていうか……怖い!!
「じょ、冗談……だよ?」
『まぁ、キミ、スキル結構多いし、魂の質量がボクほどじゃないけど……人間にしては重いからね。壁は薄い方が、何かといいと思うからここまで移動したんだけどね』
「そんなに重いの? 優樹」
『世界とボク、天秤にかけてボクのほうが重い。って説明すれば……規格外っプリはわかってくれる?』
「そんなことあんの?」
『だからこんな世界の外側にいるんですー』
ぶぅぶぅと頬を膨らませてすねる優樹。
ほんと、感情豊かだな。
『戻ったんだよ。……いや、戻してくれる人たちがいた。だからボクはこうして笑ってられる』
「よかったな」
『そだね』
『さて、そろそろかな』
「どうすりゃいいの?」
『眠たくなるから、身を任せたらいい。気づいたら赤子になってるよ』
たはは、と笑いつつ優樹が応える。
「赤ちゃん……想像できねぇなぁ……」
ほんと、想像できない。
前回は……物心つく前だし。こんなはっきり意識なかったような……
だめだ、思い出せん。
『あはは。まぁ、明日になれば嫌でも赤ちゃんさ』
「うぇ……」
『キミが生まれるのは-8番街-。とても日本に似た場所だよ。きっと気に入ると思う。神族のユウキ(ボク)も、澪夢もいるから……会ったらよろしく。多分、嫌でも関わるだろうけど』
「なんで?」
好奇心のままに首を傾げる。
それに優樹はたはは~と笑んだ。
ほんと、気の抜けた笑い方する……。
『人間の不死者はそれだけ奇特ってことさ』
「不老不死、かぁ……」
経験したことないからなぁ……事実死んだし。
『赤ちゃんのまま成長しないってことはないから安心して? ある程度までは成長して、そっから老化しないってだけだから。まぁ、12才くらいで成長が止まる事例もあるけど、基本的には二十歳前後までは成長するはず。ま、楽しみにしとけばいいんじゃないかな?』
「合法ロリかぁ……」
12歳で成長が止まるということに反応して口走る。
それに優樹が目を細めた。
『え、合法ショタになりたいの?』
声音にすんげぇ呆れが滲んでいる。
「いいえ、遠慮しときます。俺はカッコイイい俺になりたい」
『黄金比あるから、さほどブスにはならないんじゃない? ヨカッタネ』
わぁぃ。いたれり……つくせ、り……か?
なんて言ってると眠気が襲ってくる。
さっき……言ってた、あれかぁ……。
「優樹とはこれでサヨナラ?」
『んー、まぁ、そうなるね。ボクは基本……内側に干渉する手立てないし』
「そっかぁ……寂しいなぁ……まぁ、短い間だったけど、ありがとう? はじめての転生だから……ぶっちゃけ混乱してたし?」
『だろうねぇ。普通霊体とかあるなんて信じないし……にしてはさほどパニクってなかったよね』
「……許容量越えてたし……」
何せ死んでからジェットコースター展開だしな。
っていうか……まじ眠気が……
『そろそろかなー。第2の人生楽しんで~。ボクはここから眺めてるよ』
手を振る優樹の姿を最後に納めて、俺の意識は夢の向こうへと旅だった。
新たな世界に転生した!
ここまでで0話目。
まだまだ続く。