64匹目
両親に、きなこのことを話した。
スキルとか、そこらへんは濁して。
嘘を混ぜながら、説明することに罪悪感を感じつつ。
その場所に、ユウキもいた。
というか、大部分の説明はユウキがしてくれた。
見た目から、ユウキのことを不審がるかなと不安を覚えたがユウキがサテライト経由で名刺を見せると、両親は納得してくれていた。
え、それで納得するもん?
「きなこちゃんと、ハルトのこと、よろしくお願いします」
父さんが頭を下げている。
それにユウキは苦笑して両手を振っている。
そんな光景を見つつ、俺はずっときなこを撫でていた。
応急処置のお陰か、きなこは目覚めないまでも呼吸は安定していた。
部屋に戻って、荷物をまとめる。
きなこのベット、タオルケット……それにきなこそっくりのぬいぐるみとサメのぬいぐるみ、それに……
「食器は俺が用意するからいいぜ」
「じゃぁ、きなこのものはこれくらいか」
「お前の下着とか服とか、あと勉強道具かな。転送するから、多少多くても大丈夫だぜ」
「悪い」
短く礼を言い、俺は自分の分の準備をする。
ボストンバックを引っ張ってきて下着やら服を詰める。
「準備できた」
「おっけ、じゃ、外に出てから飛ぶか」
「ん」
ボストンバックを持ってもらい、勉強道具は自分で背負う。
そして両親に声を掛けてから、外に出た。
「しばらく、世話になる」
「手取り足取り教えてやんよぉ」
楽しそうにそう宣言して、ユウキは魔法陣を起動させた。
光が全てをさらっていく。
† † †
光が収まった後、見えたのは殺風景な部屋だった。
ワンルームマンションの一室のような。
「ここは?」
「セーフハウス……っていうか、転移魔法のポイント立ててる退避場所だな」
当然俺専用。
そういってユウキは魔法陣から離れる。
部屋の中には何もなかった。
生活感の全くない部屋。
「家賃はちゃんと払ってるぜ。……ということで、移動な」
とユウキがドアを開けて外に出る。
俺は慌てて追いかけた。
外に出ると喧騒が聞こえる。
商業区……歓楽街の近くだったらしい。
「こっからちょっと歩かにゃいけんのだ」
ユウキがそう言って歩き出す。
俺は黙ってついていくだけだ。
歩いた距離は数分だったと思う。
つい最近来た覚えのある建物。
「ただいま~」
とユウキがドアを開ける。
澪夢と、ユウキの家。
しばらく、俺が世話になる場所だ。
「今日はとりあえず寝ようぜ。本格的に動くのは週末でも間に合うし」
「ん」
「部屋は有り余ってるから。布団も用意しててよかったぜ」
あ、ここトイレね。
とユウキが一つ一つ案内してくれる。
「風呂はここ。勝手に沸かして入ってくれていいよ」
そう言ってからキッチンへ向かう。
「なんか飲む?」
「お茶くれ」
喉が渇いていたのでありがたく要求する。
冷蔵庫は綺麗に整理されていた。
コップにお茶を注いでくれる。
麦茶。よく冷えていた。
……おいしい。
ちゃんと、味が感じられるくらいには回復している。
そこにほんのりと安堵できた。
「悪かったな、責めるような言い方して」
「ん?」
唐突に謝ってきたユウキに、俺は眉を顰めた。
責めるような言い方って……
「当然の対応だろ、あんなの」
寧ろ甘いぐらいだ。
ユウキがきゅっきゅちゃんを大事にしてるのはわかっている。
とくにきなこをことさら気にしているのも知っていた。
そんなきなこを、そのつもりはなくても殺しかけているのだ。
責められて当然だし、この対応に温情すら感じる。
ユウキが謝ることなんて何一つないだろうに。
「寧ろ、きなこを助けてくれるから、ありがたいと思ってるぜ?」
本当に。