59匹目
俺の住んでいる区画は、人間が多く住んでいる。
俺の通っている学校も、一時は人間ばかりだったこともあるそうな。
だが、最近この辺りで人間の子供を見かけることはほとんどない。
学校でも、クラスで俺一人だし、な。
そういう感じで。
この公園も、かつては子供で賑わっていただろうに今は閑散と寂れていた。
まぁ、穴場。
居心地良いのでイワナガヒメ様の駄菓子屋と並んでお気に入りスポットである。
「ということでー、公園に来ましたー」
「きゅっきゅちゃーん」
俺の腕の中できなこは触手を伸ばして「ばんざーい」をする。
が、言うほど興奮してないね?
まぁ、興味の惹かれる遊具はないか。
つか、公園にどんなイメージを持っていたのだろうか。
期待外れと思われたのは……ちょっと悲しい。
「きゅっきゅちゃん?」
触手を泳がして首を傾げるきなこ。
「きゅきゅ?」
とりあえず、地面におろしてやる。
体が地面についちゃうし、つちまみれになるけど……
まぁ、きゅっきゅちゃん牧場でもそうだったし、いいか。
まぁ今更であると言えなくもない。
きなこは周囲をきょろきょろしていた。
そしてブランコの方へ向かっていく。
触手を使って器用に上り……
「きゅっきゅ?」
まぁ、漕げないよね。そりゃ。
「ブランコ、揺らして遊ぶんだよ」
「きゅっきゅちゃん」
とりあえず、落ちないように押してやる。
行って帰ってを繰り返すブランコの上できなこは「きゅっきゅ」と鳴いた。
怖がっている様子はない。
うんむ、楽しそうで何より。
「もうちょい勢いつけるから、鎖もって」
「きゅきゅ?」
「これ」
一度止めてから、俺は鎖を指す。
きなこが鎖を触手で持ったことを確認してからさっきより高く座板をもって離した。
「きゅきゅー!」
あ、めっちゃ笑ってる。
目を開いて金色の光を零し、興奮気味にきなこが鳴いた。
こういうスリルはお好き、と。
きゅっきゅきゅっきゅ鳴いて楽しんでいるのきなこを見て、すこし加虐心がくすぐられる。
ちょっと、怖い目に合わせたい。
「きーなこ」
「きゅきゅ?」
「俺も乗るからちょっとスペース開けて」
きなこに中央にいるよう言ってから俺は座椅子に足を掛ける。
ブランコ、勢いよく漕ぐならやっぱ……達漕ぎだよな?
……。
「きゅっきゅぅうううううう!!!」
だぁああああああああっ
結論を言えば失敗だった!
限界まで高く漕いでみたが……きなこは楽しそうに笑っている。
180度とはいかないけど結構角度が開いているはずだが?!
つか、俺が手を放して射出されそう……。
予想外だった。
きなこはもっとビビりだと思っていたのだが……
めっちゃきゅっきゅきゅっきゅ鳴いてる。
明らかに楽しんでいる様子だった。
くっそう……。
これ、可能なら遊園地連れていきたい。
ジェットコースターとか乗せたい……が、流石にきゅっきゅちゃんは無理かな。
動物を連れ込んで良い遊園地なんてあったかな……つか、遊具で遊ばせてくれる遊園地……なかった気がする。
澪夢に聞いてみるか。
「きゅっきゅー! ……きゅふ」
俺が漕ぐのをやめたので、緩やかに勢いを緩めるブランコ。
それに気づいてきなこはため息を吐く。
もっと刺激が欲しいか。
ある程度勢いが収まったところできなこは飛び降りた。
危ないぞ、きなこ。射出されて前の鉄柵にぶつかったら大事故必死だぞ。
が、きなこはうまく地面に着地してまた移動する。
今度はうんていに近づいていった。
結構高い、山型うんていだ。
一番高いところは2メートル近く。それが6メートルほど。
どう、攻略するんだろうか。
俺はきなこの後ろ姿を眺めていた。
たぶん、遊び方は知らないはずである。
きなこはうんていをふんふんとみると、触手を伸ばした。
そして
「きゅっきゅちゃーん」
うんていの、支柱を上り、頂上まで登ってから鳴く。
あいあむちゃんぴおーん……ってか。
それからうんていの隙間からするりと落ち……触手をひっかけて宙ぶらりんになる。
触手の力だけでうんていから吊られる状態だが、本人は焦っていない。
まぁ、わざとやってるしな。
そしてそれからきなこは片手を離して、中央から端へ渡り始める。
おぉ、正当な使い方!
端まで戻ると今度は反対の端まで、背面で渡り始める。
器用な……。
数週してから飛び降りる。
ぽてり、と地面に降りたきなこは、俺の目の前に来ると
「ふすっ」
と息を吐いた。
……勝ち誇ってます?
……。
まぁ、流石に……背面でうんていを渡るのは無理だなぁ……
きなこすげぇと感心していると、きなこは鉄棒へと向かっていく。
どうするんだろう、と眺めていると……
きなこは鉄棒の下にもぐって、鉄棒を見上げた。
低いのと高いのと、その中間という3つの高さがある鉄棒。
その真ん中にきなこはいた。
……届くの?
あ、まぁ、触手なら余裕か。
下手したら3メートル近く伸びるしなぁ……
……そういえば体も伸ばせたな。
「……きゅっきゅー……」
そして触手を伸ばし……鉄棒を握り……
「きゅっ……きゅっ……」
体を引き寄せたり、戻したり……つまり、懸垂し始めた。
が、数回やって首を傾げる。
あ、そういうのじゃないと気づいたな。
だから俺も鉄棒に近づき……お手本を見せることにした。
「よっ……」
まぁ、前回りだけどね。
逆上がり……前世ではできなかったんだよなぁ……
今回はできるだろうか。
えーと……こうだっけ?
勢いをつけて足を蹴り上げ、腕を鉄棒に引き寄せてぐるりと回る。
前世だったら足が上まで上がらず落ちていたわけだけど……
世界が一周した。お。
地面に着地。
……やろうと思えばできるもんだなぁ?
「きなこ! 俺はじめ……」
うれしくってきなこに話しかけようとしたら……
きなこはそれすらマスターして、さらに進化させていた。
触手で鉄棒を握り、ぐるんぐるんと回転している。
大車輪。
そういう技だった。
かなりの速度でぐるんぐるんと回っている。
その間きなこはめっちゃ楽しそうだった。
「きゅっきゅー! きゅっきゅちゃぁああああん!」
……
自信なくすわー。
最後、きなこは触手を格納し、くるくると3回転ほどしてから地面へ着地した。
すちゃっ
華麗な着地だった。
それから俺を見上げて「ん?」と首を傾げる。
『なんか言いまして?』
そういう顔だった。
……もう、いいや。
「……駄菓子屋行くか……」
ちょっとおやつ買って、川に移動しよう。
「きゅきゅん?」
俺のことを見つめてきなこが首を傾げた。
そんなきなこに俺も首を傾げ返す。
「駄菓子屋行っておやつ買い込む? それとも、もうちょっと遊ぶ?」
「きゅっきゅちゃ! ……きゅきゅちゃぁ」
愚問、移動だ! とでもいうように俺に飛びつこうとするきなこ。
しかしすぐにやめる。
自分の体が土まみれであることが気になったらしい。
俺は苦笑し、それからきなこを抱きかかえる。
「家帰ったら風呂だな」
「きゅっきゅっちゃ!」
ま、その前に近くの水道でハンカチを絞ってざっくりきなこの体をぬぐってやった。
多少はこれで綺麗になっただろう。
俺も手を洗っておく。
「じゃ、いくか」
「きゅきゅっ」
にょいんっと触手を伸ばして「あいっ!」と手を挙げるきなこ。
そんなきなこの頭を撫でて俺は歩き出す。
とりあえず、駄菓子屋へGO、だ。
実を言えば、俺も腹が減ったのだ。