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52匹目

つづくねぇ

「そういえばこの子、スライムなんだよね? 猫っぽい見た目だけど骨あんの?」


 きなこの胴体を抱え上げてイワナガヒメ様がいう。

 自重ですこし伸びるきなこ。

「きゅちゃぁ……」

 あ、チーズみたいに蕩けた。

 イワナガヒメ様が持ったところから下が伸びて地面につく。

「……骨あるの?」

 なかなか不思議な挙動にイワナガヒメ様は眉を顰める。

 それにユウキは「んー、一応あるけど……頭とか」

 あ、あるんだ。

 だが、とユウキは続ける。

「骨っていうかなぁ……それに準じたものっていうか……そんな硬くない。骨格っていうか、形を保つ何がしらかはスライムだったころからあったよ」

「きゅ」

「解剖したらわかりやすいんだけどなぁ。お前を真っ二つにする訳にいかないしなぁ」

 きなこを見てユウキがいたずらっぽく笑う。

 それにきなこは怯えて、全身を震わせた。

「きゅきゅきゅちゃぁ……」

 イワナガヒメ様が手を離したので、きなこはいそいそとユウキから離れるためイワナガヒメ様の陰に隠れる。

「ユウキはSか」

「怯えるきなこかわいいよな」

 半目で呻けば、楽しそうにユウキが笑う。

「まぁ、本気でするって思ってないだろー? きなこやーい」

 ちょいちょい手招きしながらきなこへ呼びかけるユウキ。

 きなこは「きゅちゃ」と変な鳴き声で応えたが、近づく様子はなかった。

「……疑ってるのでは?」

「あるぇ~?」

 お前と俺の仲はその程度だったか。

 とユウキが首を傾げた。


 ……え、そんな深い仲だったの?


「ユウキときなこって、そんな関係?」

「え、いや……浮気じゃないぞぅ?」

 興味本位で問えばユウキは若干焦ったように手を振る。

 浮気ってあーたー……

 神様は何でもありって知ってるけど、そんな趣味もおありで?

 流石に元クラスメイトとしてドン引きなんだけど。


 まぁ、二百億年生きてて? 神様やってたら性癖もねじ曲がりますか?

 ……他の長寿種族に失礼だな。

 こいつの頭がおかしいだけ……そういうことだろう。


「すんげぇ貶された気がする」

 半目でユウキが俺を睨む。

 うーん、考えバレテーラ。

 俺は曖昧に笑むことで濁そうと頑張ることにした。

 ユウキは暫く俺を睨んでいたが、盛大にため息をつく。

 どうやら諦めてくれたようだ。

 

「ま、実際絡むのはここ数日が初めてなんだけどな。きなこのこと知らなかったわけじゃないってだけで」

 なー、きなこ?

 とユウキがきなこに笑みを浮かべる。

 きなこはユウキへと触手だけ伸ばした。

「あとこいつがえだまめと仲良かったからなぁ……」

 触手を握って軽くシェイクしながら呟くユウキ。

 えだまめ?

「俺が飼ってたきゅっきゅちゃん」

「チョコ食わせまくったり、分裂体産ませたりした?」

「……否定しねーけど、言い方」

 もちもちとした小さな四角い駄菓子を口に放り込んでユウキは呻く。

 それからそのお菓子を一粒とってきなこの口の中に放り込む。

 ってこら。

「だから勝手に餌付けすんなし」

「きゅっ……きゅっきゅー」

 お気に召したのか、おいしそうに咀嚼するきなこ。

 あー……もう。

「甘いものばっか食べてたら、そういうおくちになるでしょーがぁ」

 しっかし、飴餅系もイケるのか。

 時々上げるのはありかもしれん。

 ……まぁ、昨日の和菓子しかり今日のたい焼き然り食い過ぎである。

 ちょっとは節制も教えていかなければ。

「きなこもきなこだぞー。そんないっぱい食べちゃってさぁ……ぶくぶく太って抱っこできなくなったらどーするんだー」

「きゅっきゅぅ」

 つんつんと頬っぺたを突きながら訴えてやれば、「それは困る」とでもいうようにきなこが呻いた。

 

「言葉もわかるのねぇ」

 ふと、感心したようにイワナガヒメ様が口を開く。

 あ、イワナガヒメ様のこと忘れてた。

「こいつは特に賢いきゅっきゅちゃんだからな」

「きゅっきゅちゃーん」

 その場できなこが両腕を伸ばしてガッツポーズ。

 あいあむちゃんぴおーん、ってやつか。

「ふーん。きなこちゃん、賢いんだ」

 うりうりと指先できなこのわき腹を突くイワナガヒメ様。

 触り心地の良さにはまってますね?

「きゅっきゅ」

 突かれるタイミングできなこが楽しそうに鳴く。

「スライムには全くそういう知能ないって聞いたけど」

「ふつうのきゅっきゅちゃんも言葉は通じないぜ?」

 こいつが特別。とゆうきもきなこを突くことに参戦する。

 わき腹を両サイドからつんつんつん……

 あー、俺もまざりてぇ……。

 が、長いことやられると疎ましく感じるようだ。

「だっ」

 ばしっとユウキの手を触手でたたき、それからイワナガヒメ様の指をもう片方の触手でつつんで突けなくする。

 扱いの差。

 俺は笑いを噛み殺して内心きなこにサムスアップすることにした。

 ユウキはそんなきなこを目の当たりにして苦い顔をしていた。


 駄菓子屋でだべっていたらそろそろ日没の時間になっていた。

「そろそろ帰るかきなこー」

 と俺がきなこに声を掛ける。

 きなこは「きゅっふん」と変な鳴き方をしてからイワナガヒメ様に手を振った。

 イワナガヒメ様も笑顔で手を振り返してくれる。

 ユウキはさらに駄菓子を買い込んで、紙袋いっぱいの駄菓子を抱える。

「気が向いたらまた買いに来るわ」

「まいどありぃ」

 

 歩いて家まで帰り、家の前でユウキは転移魔法を使って帰っていった。

 俺はそれを見送ってから家の中に入る。


「今日は疲れたなぁ……」

「きゅっきゅちゃん……」

「しばらくはお出かけできないから、また来週だな」

「きゅっふん」


 少し残念そうに聞こえるのは、俺のきのせいか?

 まぁ、この三日間めっちゃ楽しかったしなぁ……。


「ただいまー」

「きゅっきゅちゃーん」

 改めて帰ってきて、靴を脱ぐ。

 洗面所で手を洗って、うがい。

 きなこも真似してか、触手を生やしてばちゃばちゃ手を洗う。

 それから水を含んでがらがらがら……

 器用だな。


 手をタオルで拭き、きなこもタオルで拭いたことを確認してから俺はきなこを抱えてリビングへ戻る。


「おや」

 珍しく父さんがリビングのソファーに座っていた。

 ……というか、寝こけている。

 疲れてんのかねぇ……そっとしといてやろう。

 音を立てないようにキッチンへ行ったが、母さんの姿が見えない。

 ベランダで洗濯物を取り込んでいるのか、買い物へ出かけているのか……

 前者だろうな。


まだまだだ

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