50匹目
つづき
「きゅっきゅちゃ……きゅっきゅちゃ?」
きなこが不思議そうにガラス玉を触手で突く。
ふしふし、と匂いを嗅いで、首を傾げ……そろそろと移動する。
木の棚に触手の力だけで這い上がり、覗く。
瓶詰されたお菓子が気になるのかじーっと見ている。
「飼ったんだ」
ごそごそと駄菓子屋店内を探検するきなこを眺めていたイワナガヒメ様は、そう口に出した。
「おかげさまで、生きる目標もできました」
ありがとうございます、と拝みつつお礼を言っておく。
それにイワナガヒメ様は「大げさな」と呆れぎみな苦笑を零す。
それからきなこから視線を外し、呟いた。
「てーか、すげぇ人と知り合いになったのね。アンタ」
その視線の先……にいるユウキは、きなこの傍で「うっわ、懐かしいなこれ……」と呟いている。
駄菓子、久々に見るのか?
まぁ、スーパーでは取り揃えてない駄菓子もまま置いてあるけど、ここ。
まぁ、神様なら、ユウキがどんな存在がわかるのか。
知名度低いらしいけど。
アレでも、創造神だもんなぁ……分裂した後らしいけど。
「ははは。きゅっきゅちゃん牧場の、創設者だそうな」
「あ、そうなの?」
まぁ、それ以上に元クラスメイトだけど……そこらへん言うと転生者であることも説明しなきゃならんのは面倒だ。
「これ、こっちの世界でも発売してるんだな?」
とユウキが満面の笑みでひもについた飴を指す。
その他にもぐるぐると渦を巻いたグミとか、棒付きマシュマロ、練るヨーグルトなんかを抱えている。
「買うの?」
「食う食う。イワナガヒメ、いくら?」
ご機嫌で清算しだすユウキ。
マイペースだ。
「きなこー、一緒に食べよーぜー」
「きゅ? きゅっきゅちゃーん!」
「ちょ、人の家族勝手に餌付けしないでくれます?!」
「きゅっきゅちゃ?! きゅっきゅちゃぁ……」
きなこ、食い意地は張っているようだ。
ユウキからおやつをもらえないかもしれないと悟ると悲しそうに鳴きだす。
雨雲……っていうか、土砂降りのエモーションを浮かべるきなこ。
そこまで落ち込まんでも。
俺はきなこ棒を購入して、きなこを膝にのせてからきなこ棒を渡してやる。
「他人から軽率におやつをもらうのはよしなさい。せめて俺か母さんの許可もらうよーに」
「きゅっきゅちゃん」
勢いよく鳴いてからきなこ棒を受け取るきなこ。
食べようとしている瞬間、ふと思いついたので、あることを教えてやることにした。
「ついでにきなこ、お前が食べようとしてるお菓子の原材料こそきなこだからな」
「きゅっ!?」
不意に名前の由来を知ってしまったきなこ。
ショックだったらしくそのまま固まる。
驚きのあまり目も開いていた。
石像のように固まるきなこは……かわいいな。
「……何も食うときに言わんでも……」
もそもそとスナック菓子を口に放りこみながらユウキが呟くが、まぁ、だって面白い反応するだろうから……。
雪花庵で食べたわらび餅にもかかってたけど、教えるの忘れてたしなぁ……
きなこが盗み食いするからだ。
まだまだいくね。