47匹目
みじかいね。
その庭は、こざっぱりしていた。
いや、殺風景だった。
何せなにもなかったから。
雑草もなく、草花なく、木々もなく。
岩石もなければ灯籠もない。飾りもない。
ただ、手狭な空き地がそこにあった。
え、草一本はえてないのは逆にすげぇ。
そんな庭の中心に立ち、ユウキは先程構築した魔方陣を展開する。
足元、頭上、そしてその間と3つの魔方陣が青白い輝きを漏らしながら浮かんでいた。
「ほい、ハルトこちゃこい」
とユウキが手招きする。
俺はチルヒメ様に一言お礼を言ってから魔方陣に近づいた。
ユウキの隣にたった瞬間、きなこが一声なく。
そして光が爆発的に増して、俺の視界を塗りつぶした。
耳の奥で音が聞こえる。
高い、聞き取りづらい音が。
その音がやんだ時には景色が変わっていた。
「あー、やっぱ複数人数の転移は面倒くさいな」
小さくこぼしてユウキが俺の背中を叩く。
見れば、俺の家の近くだった。
「どっかにポイント仕込んどくかなぁ……」
なんてユウキがぼやいている。
え、ちょくちょく来る気かよ。
ただ、まぁ。
バッサリ切り捨てるのもあれな話だし?
とりあえず、違うことを口に出すことにした。
「暇じゃないんじゃ、なかったのか?」
「んー……暇じゃないのは確かだよ。冒険者してちょこちょこ稼がないと生活できないし、ね。ただまぁ……そこまで貧困でもないから。最悪、娯楽抜きゃ霞食って生きてれるしね」
「食事って言うほど必要でもないのか」
「娯楽だよ。栄養にはなってないな」
さらっと返すユウキ。
……。
「興味本位で聞くけど、人としての機能って、どこまで残ってる?」
「それ聞くか」
脱力された。
ユウキは空を見上げる。
「どれだけ残ってるかなぁ……そもそも、俺、人ってどんなんだったか忘れちゃったし」
そういうユウキの顔は、俺からは見えない。
あえて見せる気はないのだろう。
……失言だったか。
「すまん」
「んー。そう謝られる意味もあんまわからん。つか、かーちゃんにたいやき預けてこいよ」
「ん。ちょっと待ってて」
まだつづく。