44匹目
つづくんだな
要らないとされたので遠慮なくたい焼きを食う。
ん。ほんとうまい。冷めてもうまいぞこれ。
ここの移動たい焼き見かけたら買おう。
これは母さんや父さんにも食べてもらわなければ。
母さんもそうだが、父さんも実は甘党だったりする。
俺の前じゃカッコつけてブラックを飲んでいるが、ほんとうは砂糖マシマシのカフェオレが好きなことを俺は知っている。
ので、このたい焼きもきっとお気に召すだろう。
「しっかし、だ。きゅっきゅちゃんを飼うやつがほんとに出てきたんだねぇ」
「こいつは特別だぜ?」
ん?
チルヒメ様が関心したように呟いた言葉に、ユウキは苦笑とともに返すが。
俺が特別?
言いぶりに違和感を感じて俺はユウキを見る。
ユウキは苦笑していた。
……俺が特別、ねぇ?
特別扱いされていたのか。
そんな意識は全くなかったが。
……まぁ、門外不出っぽい囲われ方してたもんなぁ、きゅっきゅちゃん。
のわりにあっさり飼うとこまで漕ぎつけたんだから、まぁ、おかしいっちゃおかしい話か。
あんまり特別扱いは好きな方ではない。
が、この扱いでなければきなことこんな関係にはなれなかったはずだし、甘んじるしかないか。
……でも釈然としねーなー。
「きなこ、だったさね?」
「きゅっきゅ?」
チルヒメ様に呼ばれたきなこが反応してチルヒメを見た。
釣り目気味なお目目がぱっちりと開く。
あれ、興奮してる?
きらきらと輝く金色の瞳は、蜂蜜のような、琥珀のような。
それ以外の、綺麗な宝石のような……いまいち形容できない美しさがある。
普段みることがままないから、惜しいと思う。
……まぁ、普段の閉じた釣り目もかわいいんだがな。
しかし疑問なのは、これ、閉じてる時でも見えてるのか?
や、普段糸目状態でも齟齬なく生活してるから見えてる素振りではあるのだけれども。
「ふむ、いい子さね。別に緊張しなくていいさな」
「きゅっふん」
チルヒメ様の言葉に目を閉じたきなこ。
あ、興奮じゃなくて緊張だったか。
緊張しても目を開くのな。学習学習……。
「大事にされてるのが良く分かる。よかったさね?」
「きゅっきゅちゃん」
とてもうれしそうにきなこが鳴いた。
そういわれると、とてもうれしい。
俺はちょっと気恥ずかしくなって鼻先を掻いた。
それにユウキが嫌な笑顔を浮かべていたが無視することにする。
家帰ったらきなこを風呂に入れてやろう。
きなこはチルヒメ様の近くに寄って、触手を伸ばしていた。
そんなきなこにチルヒメ様は握手をしている。
ハネズさんは苦手だがチルヒメ様はイケる、と……。
あ、必要以上に構ってくる奴苦手だな?
普段の母さんはいいけど、かわいがりモードに入った母さんに苦手意識もたないといいけど……。
母さんはかわいいものに目がない。
母さんの自室は、かわいいものであふれている。
かわいいものに囲まれて生きるのが生きがいらしい。
そんな母さんだから、少し……危惧してたのだが、初対面では我慢出来たらしい。
のだが、いつ我慢限界になるかが……怖かったりする。
きなこ、母さんは普段はいい人なんだ。
少しかわいいのに目がなくって。
少し、もちもちしたものに目がないだけで。
……俺がきなこ……つかきゅっきゅちゃんに対して感じるこの気持ちは、もしかしたら母さんから受け継いだ血かもしれない。
今、ふと、そう、直感した。
「おーい、ハルトくーん?」
「ほえ?」
「トリップってるところ悪いけど、そろそろ帰るぞ」
「え、あれ?」
深く思考していたらしい。
いつの間にか時計の針が結構進んでいた。
きなこは完全にチルヒメと打ち解けている。
チルヒメ様の膝の上に乗せてもらって寛いでいた。
……あれ、いつの間に?
「帰るなら少し待ちな。持ち帰り用のたい焼き包むさね」
ときなこを降ろしてチルヒメ様が立ち上がる。
奥へ退くチルヒメ様の後をきなこが当然というようについて言った。
……止められないならいいか。
後姿を見送って、俺はさてどうするか、と部屋を見渡した。
居間だ。
12畳ほどの部屋の中心にローテーブルが置いてあって、俺とユウキは座布団の上、隣り合って座っている。
フローリングだが、カーペットが敷いてある。
壁は白い壁紙が貼られ、天井は生成り色。
茶箪笥が置いてあったり、テレビを置いたテレビ台の下には雑誌が数冊立ててある。
全体的にこざっぱりとしていた。
生活感がないわけではないけど、殺風景と言えないほどでもない。
居間からはキッチンに出る引き戸とは別に廊下へ出る扉がある。
廊下を挟んで向かいには和室。それ以外にも部屋があるような雰囲気がした。
……が、探検するわけにもいかない。
ユウキを見れば、ユウキも暇そうに天井を見上げていた。
まだまだまだまだ