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47/83

43匹目

まだまだいくよー

 ユウキが「お前が押せ」とせっつくので、しょうがなくインターホンを鳴らす。

 ……まぁ、ボタンを押したのはきなこだけど。

 ぴん、ぽーん

 とありきたりな音がなって数拍。

 ガラガラと音をたてて引き戸が開いた。

「呆れた、ほんとに来るとはねえ」

 と、家の主が顔を覗かせた。

 長い髪をしていた。ポニーテールに束ねているが、毛先が踝に届くほどだった。

 グレーの髪は毛先に向かって藤色が滲む。

 前髪で片目を隠した彼女は、気だるそうに金色の瞳を半ば伏せていた。

 濃紺の着物を着崩して、銀のショールを腕にひっかけた彼女は中に入るように招いてくれた。


「へぇ。イワナガのやつとは知り合いなのかい」

 ふぅ、と煙管を燻らせてから彼女……チルヒメ様は呟く。

 遊……いや、花魁もかくやな艶やかさと色があった。

 はっきり言おう。

 美人だった。

 流石、コノハナサクヤヒメと同一神という説もあるだけはある。

 サクヤヒメ様とはあったことはないけれども、チルヒメ様はイワナガヒメ様と比べて面影はないように思える。

 あっちはうぇーい系。こっちはダウナー系。

「知り合いなんですか? イワナガヒメ様と」

 同一神なんて説もあるし、交流はあるのだろうっていうか、澪夢が言ってた感じでは知り合いなのだろうと知ってたが、敢えて質問する。

 っていうか、何話せばいいかわかんないんだよね。

「ん? あぁ、同じ国由来の神様だしね、知り合いではあるよ」

 気だるげに答えてチルヒメ様は俺とユウキに麦茶を出してくれる。あと、お茶請けにたい焼き。

 割ってみるとこしあんだった。

「ほい、きなこ。あんこが熱いから気をつけな」

「きゅっきゅちゃん」

 半分をきなこに渡す。

 きなこは触手で器用にたいやきをつかむとあむあむと食べ出す。

 あ、めっちゃうまそう。

 それを興味深そうにチルヒメ様は見ていた。

「もう一匹だそうか?」

 とチルヒメ様が勧めてくれるが、丁重に断っておいた。

そう何匹もタダでもらうのはちょっと気が引ける。

 たいやきは薄皮で、あんこがたっぷり詰まっていた。齧れば皮はパリッとしていてあんこはほどよい甘さをしている。

 何匹でも食べれるやつだ。

「これ、手作りですか?」

「ん、ウチの商品さね」

 一番人気、と肯定してくれる。

「家族に持って帰りたいので4匹ほどいただけませんか。お代は払うので」

「ふむ、帰る時に焼いてあげよう」

「ありがとうございます」

 ……つか、ほんと、ヤバイくらいうまいぞこれ。

「きゅっきゅ」

 ほっぺたにあんこをくっつけてきなこが喜んでいる。

 何しててもかわいいなぁ、きなこは。

 ティッシュで汚れを拭ってやる。

「たいやきの移動販売をなさっていると伺いましたが」

「……あんた、ガキのわりにませてるさね」

 よく、言われるけど。

 ……なにさぁ!? 今回は胸を凝視してねーぞ!?

 と思ったが、チルヒメ様が指してるのは態度や口調のことだったらしい。

 いうほど、意識してないんだが……。

 そんなマセてるかねぇ……。

「あ、こいつ転生者なんだ。俺のクラスメイト」

 とユウキがたい焼きをもしゃりつつ割って入ってくる。

 片手でたい焼きをもち、もう片手で俺の頭をぽしぽし叩くのはやめていただきたい。

「アンタ、学校通ってたさね?!」

 俺が転生者という事実よりそっちのほうが驚きだったか。

「お前もひでぇな?!」

 驚愕とのけ反るチルヒメ様に間髪いれずユウキが叫ぶ。

 ふむ、まぁ。

 今の様子を見るとなんか、学校まともに通ってなさそうに見えるのはわかる。

 まぁ、実際あまり登校してこなかったが。

 しないっていうより、できなかったってのが実情だがな。

「あんま来れなかったのは間違いじゃないのでは?」

 意地悪半分つっこんどいてやる。

「あ、いや……まぁ。そうなんだけどさぁ……」 

 俺の言葉に、ユウキが困った風に後頭部を掻く。

 青味の強い髪が蛍光灯の光に濡れて輝きながら揺れるのが、綺麗だ。

 ……ほんと、腹立つな容姿だ。女装の癖に。

「やっぱり不登校児さね?」

 納得、とチルヒメ様が頷いた。

「病弱だったんです~。通いたくても通えなかったの」

 イッーと歯を見せ威嚇する様はどうみてもお子さまだ。

 そんなユウキを半目で一瞥してからきなこを見る。

 きなこはたい焼きを完食して可愛らしくゲップをしていた。けぷっ。

 ふむ。

「残り、たべる?」

 数口齧っちゃったけど。ときなこに残りも勧めてみるが、きなこは「きゅきゅ」と鳴きつつ遠慮を示した。

 思慮深いなぁ……。

 初対面でのアフォさがほんと、夢のようだ。

 ……夢だったのかもしれない。


きゅっきゅちゃん!

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