28匹目
つづきー
「ひゅぐひゅぐ、ひゅぐふゅぐ……きゅきゅ?」
きなこは、基本的に手足を格納している。
飯を食っているときも、だ。
……手足がないのがデフォルトで、生やすのは疲れる……のか?
「きゅっきゅちゃーん」
本日の夕食……白身魚のムニエルと付け合わせのカリフラワーサラダを綺麗に平らげたきなこは、上機嫌で鳴く。
うーん。マジ不思議な生き物。きゅっきゅちゃん。
好き嫌いなく食べるのは良いことだ。母さんも上機嫌である。
ついでに俺も、好き嫌いがない。前世から引き継いだ良いところの一つである。
もう一つ言えば、かあさんは青魚が苦手。
そして父さんは超絶偏食家である。生ものダメ、魚ダメ、野菜も葉っぱ物は嫌い。
まぁ、父さんの要望は大体却下である。栄養のバランスが崩壊するから。
……母さんが青魚苦手だから、鯖が食卓に並ばないのが、少々悲しいんだよなぁ……。俺は魚では特に鯖が好きなのだ。
-八番街-の食文化は、ポチなど一部のゲテ……もとい、不思議な見た目の食べ物を除けば和食に近い。
完全に和食、と言い難いのは……食材が食材だから、だろうか?
ここ、異世界だからな?
国もアルヴェリア-八番街-。日本じゃない。
異世界の食品を使用しているのに、ここまで和食っぽいのが出ると……(ムニエルは違うけど)……なんか、異世界転生の実感が薄れる。
……ま、きなこがここが異世界だと全身で教えてくれるけど。
おやつにわらび餅やら磯辺焼きやら食ってるくせに、まだ大人と同じ量を平らげたのだから……いったいその小さな体のどこに収まってるのだ?
……まぁ、俺も同じだけ食ってさらにポチ食ってるから……人(?)のこといえねーけど。
俺はスキルの影響です。めっちゃ燃費悪いの。
「よく食べるよねぇ……」
もそもそと米を飲み込んでから呟く。
短粒種……ジャポニカ種……つか、うるち米。
日本(前世)でおなじみの米。
「きゅきゅ? ……きゅっきゅ……ちゃ?」
きなこが怪訝そうに頭を傾げている。
おい、それ「お前が言うか?」って思ってるだろ。
「あんまりにおいしそうに食べるから……あげすぎちゃったかしら?」
片頬に手を当てた母さんが小首を傾げて呟く。
それにきなこは「きゅきゅちゃー……」と鳴いたが……それはどんな感情なんだ?
ひとしきり皆がご飯を食べ終わると、母さんが食器を集めて台所に向かう。
後片付けをするためだ。
それに倣って俺も食器を台所へ運んだ。……ま、洗うのは母さんなんだけど。
父さんは残ったきなこと顔を見合わせている。
「きゅきゅちゃー?」
「きゅ、きゅ……ちゃー?」
!?
きなこの鳴き声を真似る父さんを見てしまった。
危うく持っていた皿を落とすところだった。
え、なにそれ? なにそれ!?
俺も混ざりたい!
が、俺が行ったらたぶん父さんきなこを構うのを止めるぞ。
くそっ、俺は遠くからあの景色を見ているだけしかできねーのか!?
「きゅきゅちゃー! きゅっちゃー! きゅきゅきゅきゅきゅきゅ!」
テンションが荒ぶったらしいきなこ。
めっちゃ跳ねてめっちゃ鳴いている。
「きゅ……すまん、流石に何言ってるかわからないな……」
「きゅきゅん……」
まぁ、そらそうだよな。俺もわからんし。
きなこは手を伸ばして父さんの肩をテシテシ叩いている。
それ、慰めなのか?
「きゅっきゅちゃー……きゅっきゅちゃん」
「慰めてくれているのかな? 優しい子なんだね」
優しい子なのは認めるけど、父さんそのやさしさ俺にもくれよ。
たまにキャッチボールしてくれるけど、そういう面白おかしい……じゃないな、おちゃめな一面みせてくれないじゃない。
あれだ。
父さんは、俺に「カッコいい父親」の姿を見せたいらしい。
威厳ある、カッコいい父親として見られたいらしい。
だから俺の前ではかっこつけるし、気張ってっしまう。
疲れないかねぇ……と、心配になるほど。
んー……期待に沿えなくて申し訳ないんだけど……
俺は同年齢の子供とは、やっぱりどこか違う。
ああいう、純粋さは既にないと自覚してしまっている。
前世のときから……つっても生きたのは十数年だけど。
大人がそこまで良いものでないことも知ってしまっている。
夢を与えようとして頑張ってるなら……無意味かもしれないのは、残念に感じる。
……ま、父さんが"ああいう大人"ではないことも、この7年生きててわかってはいるけれども。
寧ろ、かなりいい人なんだよなぁ……。
社会で揉まれない? 周り、ちゃんとフォローしてくれる人いる?
仕事に押しつぶされてない? 大丈夫? って心配になるほど。
ま、俺から言えることないんだけどね。
例え言っても、きっと困ったような顔で言うのだろう。
「そんなこと、心配しなくていい」って。
つづくー