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24/83

21匹目

つづきー

 その店は、入り組んだ路地の先にひっそりとあった。

 その店に看板はなく、勝手口のような扉があるだけ。

 ユウキが遠慮なく扉を開けた先。


 その店は、確かにあった。


 和風……いや、古民家を改築した店らしかった。

 扉を潜ってまず見えるのは、こじんまりとした平屋の古い建物。

 その縁側の隅には蚊取り線香。

 縁側の左側、屋根が飛び出した場所があって、その前に……あれ、何て言うんだろ……

 ほら、あの……お茶屋さんとか……時代劇とかで出てくる、四角い長椅子に赤い絨毯? 布で覆ってる……床机? 縁台? それが2台。

 平行にならんでいて、野立傘が風情を醸している。

 辺りには俺とユウキいがい誰もいなくて……店員も見当たらない。

「お休み?」

「いんや、ここは常連しかこない食べる専用の場所でな、普段は……大通りに面したテイクアウト専用の方に店員も行ってるわけ」

 といいつつ、ユウキは縁側に近づいて腰かける。

 それから中に向かって声を掛けていた。

 俺もならって縁側に腰を掛け、隣にきなこをそっと下ろす。

 きなこは「きゅきゅ?」と首を傾げた。

 ウィスカーパットをふすふすと動かし、回りの臭いを嗅いでいる。

 それから再び俺を見た。

「きゅきゅん!」

 なにか、自信満々に声を掛けてくるきなこ。

 まじごめん。なにいってるかわかんない……。

 俺がきなこの頭を撫でて誤魔化していると、ぱたぱたと足音が聞こえた。

「はーい。いらっしゃーい。……っていうか、ユウキが来るなんて珍しいよね?」

 と、店の奥から少女の声。

 そして、現れたその姿は……

「狐?」

「うわ、ショタだ! ユウキまさか目覚めたの?! ヘンタイ!」

「いっきなり風評被害! ショタじゃねーよ。前世の同級生じゃいっ」

 俺が首を傾げている間に少女がきゃあきゃあ騒いでユウキが焦り混じりに叫ぶ。

 きなこがフスッと息を吐いた。

 それはため息かい? それとも失笑かい?

 少し勘繰りたくなる。


 で、改めて見た店員さんは……

 白銀の、癖のない長髪を太ももの半ばまで伸ばし、腰辺りで玉の髪飾りで纏めていた。

 矢絣の着物に袴、その上に白いエプロンを着ている。

 アイスブルーの瞳はクリクリと大きく、髪の毛と同じ色の眉毛は細い。

 薄い桃色の唇はリップかグロスか塗っているのかツヤツヤとしているけれど、どちらかと言えば薄化粧で……でも華やか。ユウキとはまた違った美人さん。大和撫子か?

 しかし一番印象に残るのは、その頭上にある二等辺三角形の……狐耳と、背後で揺らめく大きな尻尾。

 髪の毛と同じ色のその耳と尻尾は……艶やかに輝いていて、大変魅力的である。


 ……俺ってケモナーだっけ……前世ではそこまで動物が好き……という訳でもなかったはずなんだけど……今世からの業なのか、前世では自覚してなかっただけなのか……。


「前世からの友達、ねぇ……君、人間の知り合いいたんだ?」

「……病弱だったけど、一応学校通ってたぞ……」

 目元を片手で覆いつつ呻くユウキ。

 声が疲れきっている。

「わぁ、マジで? 意外……」

 なんて、店員さんが目を見開いて驚いていた。

 あ、瞳孔が縦だぁ……。

 人間のそれというよりは完全に獣。

 ……。

 しっかし、妖狐……かぁ……。

 そういえば、妖狐って獣人のくくりに入るんだっけ?

 お稲荷様は神霊……神族だけど、妖狐はどうだったかなぁ……あとでユウキに聞いてみるか。

 神様のことは神様に聞けばいいだろう。たぶん。


 しばし雑談を交わしていた店員さんとユウキだが、ユウキが俺にメニューを渡してくる。

 メニューには写真を交えてたくさんの飲み物、食べ物が並んでいる。

 うーん……悩むな。


「この、雪華庵ぱふぇってなんでこんな種類あるんだ?」

 雪華庵ぱふぇから始まり、特選・雪華庵ぱふぇまで30種類くらい列挙している。

 いや、多すぎだろう。

「それ、澪夢(大食い)専用メニュー。常人には食いきれんよ」

 すんげぇルビを聞いた。

「そんな食べるの? 澪夢」

「……いや、アイツ食いだめ出きるから……」

 鬼火にちょこちょーっと。

 とユウキは言う。

 なんじゃそら。

 つか、鬼火?

「澪夢って、いったい何者?」

「さぁ? 元人間、現神族だけど……ぶっちゃけ神って曖昧なもんでなぁ……厳密に種族ってわけじゃねーし……。神になるまえも、神格はなかったから神じゃないけど、他に当てはまる種族なかったから……ほんと謎。鬼火って言っても鬼でもねーしな。そもそもDNAの仕組みが違いすぎる」

「え、DNA?」

「……鬼は生物だぞ」

 まじっすか。

 ファンタジーな世界だが現実だし、生物も生物じゃないのも種族としてたくさんいるからよくわからなくなる。

 例えば神は生物じゃない。

 そもそも肉体ないしね。

 ……いや、目の前のユウキも、その本体は精神体なわけで……。肉体は所詮この世界……つか星で暮らすのに便利な器程度なんだよなぁ……。

 特にユウキは魂の保護というスキルを持っているらしいので、基本死なないし滅ぶことすら怪しいらしい。チートばっかだね。

 そもそもスキル自体がチートみたいなもんだけど。そのなかでも規格外ってのが……。

 創造神の特権らしい。


つづくー

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