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12匹目

つづきー

 改めて柵の近くに寄ると、10匹前後の小さなきゅっきゅちゃんがよってきてくれた。

 どれも30cm程度の、比較的小さなきゅっきゅちゃん。

 そのなかにはさっき脱走しかけてたクリーム色のきゅっきゅちゃんもいたので、そいつにペレットを差し出す。

「きゅっきゅちゃーん! きゅっ……ひゅぐひゅふ……」

 顔を近づけて俺の手のひらにおいたペレットを食べるきゅっきゅちゃん。

 確かに噛まない。

 器用にペレットだけを口のなかに入れている。

 

 か わ い い。

 マジ天使。

 ほんのりと暖かくて、すべすべしててもちもち。

 ときどき当たる舌がざりざりしててこそばゆい。

 幸せって、こういうのをいうんだねぇ……

 なんて思いつつおやつを食べるきゅっきゅちゃんを見る。


「良かったらその子抱いてみるかい」

「マジっすか!?」

 おじさんの提案に俺は食らいつく勢いで振り替える。

 そんな動作にきゅっきゅちゃんはビクッと体を震わせて驚いた。

 あ、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど。

 せっかく近づいてくれたきゅっきゅちゃんも、俺が大声だしたせいか、驚いてどっかいってしまった。

 が、1匹。

 クリーム色のきゅっきゅちゃんが。

 さっき俺の手からペレットを食べてくれたきゅっきゅちゃんが柵の近くで待機していた。

 というか、また柵から脱走しようとしていた。

「きゅーきゅー……」

 顔が挟まってにっちもさっちも行かなくなったようだ。

 かわいそうに……でも自業自得か?

「きゅー、きゅきゅーん」

 顔が挟まったまま、体をじたばたさせている。

 自力で抜け出せないことを悟ったのか、ぽろぽろと涙をだし始めた。

 泣くのか。かわいそうに……だがそんな姿もかわいい。

 おじさんがため息をついてクリーム色のきゅっきゅちゃんを柵から引き抜く。

 きゅぽーん、といいおとがなった。

「きゅっきゅちゃーん!」

 同時に元気のいい声をあげるきゅっきゅちゃん。

 おじさんはそのままきゅっきゅちゃんを離さず俺の元まで戻ってくる。

「優しくね?」

 といいつつ俺にきゅっきゅちゃんを渡した。

 受け取ったきゅっきゅちゃんは、思ったより暖かかった。

 そして暴れるかと思ったが、俺の腕に収まったきゅっきゅちゃんは大人しく俺に抱かれていた。

「きゅっきゅちゃーん……」

 つか、寛いでるな?

「人懐っこい個体みたいですね?」

 と腕の中のきゅっきゅちゃんを覗きつつ澪夢がいう。

「懐かないやつもいるの?」

「大体は懐かないよ」

 と答えるのはおじさん。

 そうか、普通は懐かないのか。……イワナガヒメ嘘ついたな?


 まぁ、大人になったら懐かないきゅっきゅちゃんものびのびと暮らせる最高の牧場を作ってやる。

 と、俺の頭はきゅっきゅちゃんに満たされてるわけだけど……

「ねえ、おじさん」

 俺はきゅっきゅちゃんを柵の中へ返しつつおじさんに尋ねる。

 これが一番最初のハードル。

 これを越えなければ俺のきゅっきゅちゃんで世界を満たす夢は叶えられない。

 ので内心心臓をバクバクさせつつ尋ねる。

「きゅっきゅちゃん、ボクも飼うことできるかな……?」

 その問いに、澪夢が固唾を飲む音が聞こえた。

 あ、初手で夢が潰えるか!?

 澪夢の反応に俺が絶望しかけた直後。

「おじさん的には飼うことは構わないんだけど……」

 内心ずっこけかけた。

 拍子抜け……!

 いや、まだだ! 『けど』っつったぞ、このおっさん!


「けど?」

「ユウキ様と君の両親にいいよって言われないとね」

「よっし、説得してきます!」

 と俺は勢いよくきびすを返す。

 これはもう勝ち確定では?!

 と、喜び勇んで家に戻ろうとし……

 気づいた。

 そして俺は澪夢を見る。


「……優樹様ってのに許可とればいいんだね!」

 どこにいるか知らんけど!

「マツヤさん……」

 呆れぎみな表情で澪夢はおじさんを見ていた。

 おじさんは困った、と汗を掻きながら笑っている。

 苦い。すごく苦い笑みだ。

「少年の夢を潰えさせるのは、なかなかかわいそうでしょう? 説得なさいよ」

「そんな澪夢様……あの方が、私めの声を聞いてくれると?」

「良い大人なんだから、一度怒られればいいんじゃないですかぁ?」

 人の悪い笑みを浮かべて言い捨てる澪夢。

 そんな澪夢にすがり付いて慈悲を乞うおっさん。

 なんか、いろいろ見えてきそうな雰囲気である。


 が、俺にはさして関係ないね!

 とりあえずは優樹に許可をとらないとな!

 ……どうやって許可とりゃいいんだろうな?

 つか、しゃべる手段あるんだろうし、サテライトかな?


 と、俺は澪夢を指でつつく。

 優樹とコンタクトとる方法は俺にはないが、コンタクトをとれるかもしれない存在は目の前にいるわけだし。

 しかし澪夢は俺を見て、苦笑する。

「勘違いしてますでしょ?」

「あれ?」

 あれ、勘違い?

 もしかして俺の夢はまたも潰える危機?

「許可をとるのはシステムの優樹じゃないですよ」

 と、澪夢は小声で俺にいう。

 たぶん、おじさんには聞かれたくないのだろうか。

「え、優樹じゃない?」

「えぇ、だから、行きましょうか」

 という澪夢。

 おじさんを振り払い、「天網恢恢」と言い捨てた。

 おじさんが泣きべそを掻きつつ澪夢の名を呼ぶ。

 なんとも情けない声、そして姿だった。


「れ~~むさまぁ~~ご~じ~ひ~を~~」


つづくー

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