11匹目
つづきー
しばらくきゅっきゅちゃんを見て冷静になった俺は、牧場主がいるであろう売店の方へ足を向けた。
とりあえず、このきゅっきゅちゃん飼えるかどうかを聞くためだ。
飼えるなら、両親に許可をとって一匹くらい飼いたい。そして大人になったらさらに数を増やして牧場を作るのだ。
こんなかわいい生命がこんな辺鄙な狭いところで閉じ込められているのもアレな話である。
極短の体毛はベルベッドのように艶やかで、すべすべで。きゅっきゅっと鳴く声はKAWAII以外の感想が出ない。
これが魔物から進化しただと?
とんでもない!
きゅっきゅちゃんはきっと神様が遣わせた天使……
「ハルトさん、ハルトさーん?」
「ハッ!?」
あ、没頭してた。
どうやら、売店についていたようだ。
中からおじさんが心配そうな顔をしている。
……なんか言ってた?
「いえ……なにも言わずにもくもくと歩くもんですから……顔が幽鬼そのものでしたよ」
Oh……そらおじさん心配するわな。
「こんにちはー」
なので笑顔でおじさんに挨拶する。
この人、牧場主かな? とか思いつつ。
「お久しぶりです、マツヤさん」
「あぁ、これは澪夢様。今日もきゅっきゅちゃんと戯れにですか?」
澪夢に気づいておじさんが笑顔を浮かべる。
それに澪夢は「いいえ、この子の引率です」と俺を指しながら応えていた。
引率……まぁ、見物の間違いでは……? いや、引率ってことにしたほうが都合いいのか……。
そういえば調べてる間きゅっきゅちゃん牧場に関する情報はあまりなかった。もしかして、一般に開かれてる場所ではない?
なら澪夢がいなかったら門前払いだったかもしれないのか。
澪夢はおじさんと色々話している。
知り合いなのか……。
そんな二人をよそに俺は売店で何を売っているか見ることにした。
……。
…………。
え、これ、売店?
電気プランの案内、きゅっきゅちゃん牧場支援プロジェクト、募金のお知らせ……。
商売下手にも加減があるだろう?!
もっとこう……あんな可愛らしいきゅっきゅちゃんがいるんだから、もっときゅっきゅちゃんを全面に押した……これは、俺がこの牧場を継がなければ……そしてこれを足掛かりに世界征服を……
なんて考えていると、二人の話は終わっていたようだ。
不思議そうな顔で俺をみている。
「……なに、かな」
「いや、ボク、学校の課題かなにかかい?」
と、聞いてくるおじさん。
それに俺は眉を潜めた。
……おじさんもしかして、きゅっきゅちゃんの魅力がわかってないのか……?
あんなに可愛らしいのに。
デフォルメした猫みたいな顔でもちもちした楕円形のフォルム。短い尻尾。
元気に跳ねたり列を作って這ったり、いちいち動作がかわいいのに。
「ねぇ、澪夢。この人、もしかしてあんまりきゅっきゅちゃんに興味ない?」
澪夢に近づいて小声で訪ねてみる。
すると澪夢はコクリ、と頷いた。
「えぇ、まあ。しゃーなしってやつです」
「もったいない……」
心底もったいない。
が、納得したので、改めておじさんをみる。
「ううん。近所のおねーさんからきゅっきゅちゃんのこと聞いて、気になったから見に来たの」
正直に答える。
別に嘘ついても……って話だし。
その答えにおじさんは「変わってるねぇ」と溢す。
いや、変わってるのはアンタの感性だと思うぞ。
という言葉は飲み込むことにした。
「まぁ、きゅっきゅちゃんに興味があるなら、いろいろ案内してあげよう」
と、おじさんは外に出る。
「ここにいなくていいの?」
「どうせ誰も来ないからね。でも一応鍵は掛けるよ」
とおじさんは澪夢と俺が外に出たのを確認してから扉に鍵をかけた。
「きゅっきゅちゃんは大昔に突然この-八番街-の近くに現れたんだ。それを、ユウキ様が捕まえて、ここに牧場を作られたんだ」
と話ながらきゅっきゅちゃんのいる場所に歩いていく。
「ユウキが作ったのはこの柵だけで、あとは管理してる人が作ったんですけどね」
と小さな声で俺に話しかける澪夢。
へー。
「え、柵はずいぶん昔からあるってこと?」
「時々ユウキが改修しに来てますよ。だからきゅっきゅちゃん、あの場所から出れないので」
「一匹脱走しかけてたよな……」
薄茶色いきゅっきゅちゃんを思い出して口に出せば澪夢は重々しく頷いた。
「あとでユウキに言っときます」
コソコソと小声で喋っていると、おじさんが立ち止まった。
きゅっきゅちゃんのいる場所に着いたみたいだ。
「ここで暮らしてるきゅっきゅちゃんは大体1万匹くらいかな。大部分は発電所で働いているから、ここにいるのは100匹くらいだけども」
まぁ、確かに1万もいるようには見えないな。
ってか1万もいるのかよ。
「きゅっきゅちゃんは何を食べてるの?」
「ん? きゅっきゅちゃんの主食は総合飼料……ペレットだよ」
と、いいつつおじさんは作業着のポケットから何か包みを出す。
「これはおやつ用のペレットだけどね。ちょっとあげてみるかい?」
つつみを俺に渡してくれるおじさん。
お言葉に甘えてつつみを受け取り、なかからペレットを片手に出す。
小さな、1cmもない粒のペレットをもって柵に近づくと、わらわらときゅっきゅちゃんが近寄ってくる。
「わぁ……」
幸せ空間。
しかし、1つ俺には懸念がある。
だからおじさんを振り返り尋ねてみた。
「噛まない?」
「噛まない噛まない。そのまま手を柵のなかにいれたら勝手に食べてくれるよ」
おじさんはははは、と笑いながら答える。
うーん。頭いいのかきゅっきゅちゃん。
つづくー




