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10匹目

ここから2話目ー

きゅっきゅちゃんに会うぞー

 土曜日。

 土曜日だー!

 学校は休みである。

 もっと言えば今日から三連休である。

 アルヴェリア王国にも祝日という概念が存在する。

 日本のそれより少ないがな!!!

 ……まぁ、なので、俺は件のきゅっきゅちゃん牧場に来ていた。


 きゅっきゅちゃん牧場。

 なんとも、気の抜ける名前である。


 ずいぶん昔……澪夢がいうには数千年前から存在するこの牧場は、中央区の郊外にある。

 ほとんど森林区に近い場所なので、山が近い。

 軽く調べたところでは、小さな牧場って感じで、きゅっきゅちゃんをのびのびと飼育しているらしい。

 で、俺が一番驚いたのは、きゅっきゅちゃん牧場の主な商品が”電気”であること。

 きゅっきゅちゃん牧場に併設されたきゅっきゅちゃん発電所で生産されるらしいのだが……いやはや……なにもんなんだ、きゅっきゅちゃん。


 きゅっきゅちゃん牧場へは俺の家からは電車で数駅、それからバスを使わなければならない。

 片道2時間半の長旅である。


 で、やっとこさついたわけだが……


「早いな」


 きゅっきゅちゃん牧場の看板に背を預けて、見知った……ちょっと懐かしい姿がいた。

 黒銀の髪を簪でまとめた、紅い瞳の和服少女……澪夢だった。

「一昨日ぶりです」

「今日はそっちなのなー」

「オフですし」

「あれ、仕事用なの……」

 若干納得、と頷きながら改めてきゅっきゅちゃん牧場をみた。

 石垣でできた塀に『きゅっきゅちゃん牧場』とかかれた看板が立て掛けられている。

 その中にあるのは小さな小屋が2軒、そして遠くに轟音をならすトタンの倉庫らしい建物が1つ。……あれが発電所……だろうか?

 門を潜って、しばらく歩く。

 建物は牧場主の居住スペースと……売店らしい。

 物珍しさに俺はきょろきょろと辺りを見渡す。

 澪夢は勝手知ったる、といった感じだった。

 しばらく歩いていると、それは見えてきた。


 そして、それは木製の柵に囲まれた草原にいた。


「きゅっきゅちゃーん」

 跳ねている。

 もちもちとしたボディーが。

「きゅっきゅきゅっ……きゅっきゅちゃーん」

 いろとりどりの、楕円形のボディーが跳ねて、鳴いていた。


「な……なっ……」

 俺は、なにも言えなかった。

 

 そいつは、小さいものは30cm程度。

 大きいやつは10メートルを越えているのもいるだろうか。

 手足はみあたらず、短い尻尾をブンブン振っていた。

 目は糸目。つり目かたれ目が多い。

 小さな3角の耳、真っ白いウィスカーパットの上には逆三角の鼻がふすふすしていた。

 ぴんくの口が「きゅっきゅちゃーん」と鳴く。


「鳴き声なの?! きゅっきゅちゃん?!」

 叫んだ。

 叫ぶしかなかった。

 その声に反応してか、見える範囲のきゅっきゅちゃんが一斉に俺を見る。


「ひっ?!」

 若干、怖かった。

 チビると思った。


「スライムの面影、ないでしょう?」

 澪夢はそのなかでも平然としている。

 慣れてるの? それとも……俺がビビリなだけ?

「いや……よく家畜にしようとおもったネ……」

 スライムっていう面影はないけど、なんか変な生き物だよな……。

 なんか、うぐいす色とか空色とか紫とか、生き物っぽくない色も多いし。金とか銀とか。


「きゅっきゅちゃーん、きゅっきゅきゅきゅっ」

 と一匹のきゅっきゅちゃんが木の柵にめり込んでいた。

 クリーム色の、きゅっきゅちゃん。

 つり目で、鼻がクリーム色。

 体長は30cm……くらいか。

 柵に顔を突っ込んでめりこんでいるせいで、むにゅーっとなっている。痛そう。

 脱走しようとしてるのか?

 と、俺が手を出すと、そのきゅっきゅちゃんは俺の手をぺろん、と舐める。


「……!!!」

 衝撃が走った。


「ハルトさん?」

「澪夢」

「はい?」

「俺、こいつ。飼う。牧場主になる!」

 ハルト・アーバイン。7才。

 幼心に俺は決心した。

 いつか大人になったらきゅっきゅちゃん牧場を拡大して、この世界をきゅっきゅちゃんで満たす、と。

「……なかなかに……すさまじい目標たてましたね……」

 呆れ半分な声が聞こえるが、俺は本気である。

「きゅっきゅちゃんで世界を征服する……そうする……」

 クリーム色なきゅっきゅちゃんを柵のなかに戻しながら俺は呟く。

 俺がこの世界に生まれたのは、こいつらを増やすためだ。そうに違いない。

 ゆらりゆらりと揺れる世界のなか、澪夢の声がどこか遠くに聞こえる。


「あぁ……流石。ゆうきが見初めるわけですね……」


きゅっきゅちゃんは存分にかわいい。

まだまだつづく。

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