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7匹目

まだまだつづくよー

「ただいまー! 遅くなってごめんなさい」

 と言いつつ玄関を潜れば、見慣れた靴とはべつに見慣れない下駄があった。

 あれ、下駄なんてめずらし……お客さんか?

 と思いつつリビングへいくと、見知らぬ……いや。

「あ、れ」

 俺は目を瞬いた。

 確かに初対面だ。

 全く知らないはず。

 しかし……


「おや……彼が?」

「え、えぇ……息子のハルトです」

 深い、バリトンの声に戸惑いながら応える母さん。

 しかし俺は目の前の彼に釘付けになっていた。

 

 黒銀の髪を襟足が覆う程度に伸ばした、長身の、彼。長い睫に覆われた、切れ長の瞳はすんだ琥珀色。整った顔立ちは涼やかで、どこか仏様というか……明王を思わせる雰囲気。

(神格持ち……かなり高位だ)

 イワナガヒメ様ともひけのとらない……でもこちらの方が『濃い』。分御霊では……ない?

(……って)

なんで分析できてるの。

 と、俺は内心で驚く。

 神格持ちとか、分霊とか……あ。これあれか、スキルか!

 

 澪夢が言ってたスキルのことを思い出す俺。

 よく6年前のこと覚えてた。

 

「ハルト、つったってないでこっちいらっしゃい」

 と母さんが手招きするので、俺は大人しく母さんの隣に座る。

 いつものリビング。

 木製のテーブルに椅子が4脚。

 玄関側に男性が座っており、対面に母さんが座っているので母さんの隣に座る。

 そして改めて彼を見た。

 黒い和服に濃紺の角帯。赤と黒の長い組紐を腰に3重にして巻いている。

 わぁ、澪夢もそんな感じだったなぁ……帯は赤かったけど。元気……してるだろうなぁ。

 優樹はボコられてないだろうか……。

 なんて、あの二人(三人?)のことを思い出す。


 そんな俺をみて、男性は首を傾げた。

 コテリ。そんな音がなりそうな。


「改めて自己紹介しますね? 私、Ark-8番街-支部、支部長補佐の澪夢ともうします」

「ブハッ!?」

 噴いた。

 唾液が気管に入って、激しく蒸せる。

 え、ちょ。れい……澪夢?!

 似てると思ったが本人か!


 母さんが俺の反応にやや驚きながら心配そうに背中を撫でてくれる。

 そんな俺たちをみて澪夢は再び小首を傾げた。

 それから、「あー……」と声を上げる。

「二人で話したいので、場所を移動して頂いても?」

「あ、はい。では私は台所にいますので……」

「すみません」

 軽くお辞儀をする澪夢。

 母さんは台所へと行ってしまう。

 それを横目で見、数拍。

 完全に母さんの姿が見えなくなってから澪夢は片手を上げる。

 瞬時に形成される結界の気配。

 あー……防音と……人避け?

 そんな気配を察知して、俺は澪夢を見た。

 目線が合う。

 

「記憶はちゃんと保持してますね?」

「まさか本人とは。何で男なの」

 ほぼ同時に口を開いた。

 それにお互い目を瞬かせる。

 澪夢は目を細めて笑んだ。

「転生者はこれだからいいんですよねぇ」

 と、可笑しそうに笑う。

 えぇ、反応が予想外……。

「なにが」

「あなたの母親だったらそんな言い方しませんし」

 小首を傾げてしゃぁしゃぁと言い張る。

 あぁ、まぁ……めっちゃ緊張してたよね。

 っていうか、支部長補佐だっけ。そらああなるか。

「なんか、優樹クラスメイトの嫁って印象が強くて」

「なるほど? まぁ、本性アレですしね」

 素直に答えれば、納得と澪夢が頷く。

「でも、人外だよね? 万年……じゃないや、優樹と同じなら億年?」

「いいえ、万年ですよ。私、年下なので」

「でも万年かぁ……前世足して22才の俺じゃ想像できねーや」

「足して意味あるんです? それ。……前世の享年なら5才ですけどね、私」

 さらっと言われる。

 享年5才って……ハードモードだな……。

「えぇ……ということは転生者? 5才って……可哀想に」

「あなたと同じですよ。転生して万年生きてるので最早なんとも。逆に生きすぎですよね」

 ふぅ、と吐息を吐き、それからまた小首を傾げる。

「-8番街-に転生するのは分かってましたが……どこに転生するか詳細は不明でしたので、探し出すのに時間がかかりました。それに……私自信結構忙しい身でしてね」

「あぁ……そりゃぁ、わざわざどうも」

「ですが、不老不死の人間なんて面白いものほっておくのももったいない」

「おい」

 え、道楽なの? 俺の扱い道楽の一環?

「ので、がんばりました」

「その努力はおかしい。で、具体的になにするの?」

 父さんや……母さんと引き離すの?

 と、俺は首をかしげる。

 ちょっとそれは寂しいなぁ。

 父さんとは最近仲が良い。父さん自身仕事が忙しいのか滅多に帰ってこないが、休みの日はキャッチボールとかなにかと遊んでくれる。

 母さんは……なにからなにまで頼りっぱなしだ。

 や、手伝いはするよ? お膳運びとか。トイレとか風呂掃除とかさぁ……。

 母さんや父さんはスキルを持ってないみたいなので、まぁ……俺みたいなの、いない方がいいんだろうけど……いや、息子と引き離されるのはさすがに寂しいでしょう。ねぇ?

「べつになにも?」

「うぇ?」

 さらっと答えられた澪夢の声に、俺は変な声をだした。

 なにもって……予想guy……。

「親子仲、良さそうですしね。虐待されてるならまぁ、それなりに手だてはしますけど。馴染んでるようで何より。天武の叡知、役立つでしょ?」

 にやり、と人の悪い笑みを浮かべる澪夢。

 うわぁ、良い性格してるぅ……。

「じゃぁ、なんできたのさぁ」

「あっちでそんなにこの世界のこと教えてないでしょう? フォローを、とね」

「忙しい身なのにやっさしー」

 白目になりつつ俺は天井を見上げた。

 見慣れた模様が目に入る。

 そんな俺をよそに澪夢は傍らの床へ視線を落とした。

「うつぎさん、ハルトさんのサテライトとID交換お願いします」

『わかりました』

 と、澪夢の傍らにうつぎ……と呼ばれた少女型サテライトが現れ……サテライト?

 俺とほぼ同じくらいの身長があるサテライトなんて始めて見た。

 クリーム色の髪と金色の瞳、頭に三角形の……狐耳? そして背後で揺れる3本の尻尾もクリーム色。妖狐型。……珍しい。

 彼女は手を顔の前に掲げると俺のサテライトが勝手に出てくる。

 互いにウィンドウを展開し、情報交換をしているみたいだった。

「これで、チャットできるようになりましたから。両親にばれないよう。知りたいことあれば教えて差し上げますよ?」

 わあ、親切ぅ……なんて言って良いんだろうか。

 なんか裏ある?

 俺が不老不死って知ってるもんなぁ……この人。

 いうてこの人自身も不老不死だから、俺の不死性がほしいとかそういうのではないんだろうけど。

 興味本位? まぁ、いいや。

 今の俺には権力に屈するしかないしね!

 しがない平民っす!


まだまだつづくよー

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