11話【ベレッタの一日】
ご主人様とテト様が旅立たれた。
そして、この【虚無の荒野】と呼ばれる場所には、私と20体の奉仕人形たちが管理を任されている。
『おはようございます、みなさん』
『『『おはようございます、ベレッタ侍女長』』』
ご主人様に仕える者の立場として私は、ご主人様の【創造魔法】で誕生した新たな同胞の奉仕人形たちに示しが付くように侍女長の肩書きを名乗る。
20体の奉仕人形たちに指示を出し、分担して私たちは仕事に当たる。
私の仕事は、ご主人様から渡された【虚無の荒野】の地表部の管理用魔道具の確認だ。
ご主人様がマスター権限を有しており、私はサブ権限を有し、本日も動植物の状況と地表部の魔力状況の推移を確認する。
『結界魔道具の破損なし、地表魔力の生産量は安定。流出魔力量は、先月に比べて1%増加ですね。いい傾向です』
一日の収支報告と設備状況を確認し、続いて奉仕人形たちに振り分けた仕事を確認する。
全員が同一の仕事をこなせるように仕事は、ローテーションで組んでいる。
第一班は、ご主人様の住居の館の管理です。
ご主人様たちは不在ですが、館の掃除から洗濯、ベッドメイク、料理などです。
ご主人様が不在でも魔族・メカノイドという存在に変質した私や【自己再生】スキルを得た奉仕人形たちは、魔力だけでも生存できるが、味覚なども手に入れた。
なので、ご主人様に食事を振る舞えるように自分たちの食事も用意して、日々腕を磨いている。
その中で――
『これは……しょっぱい、ですね』
『申し訳ありません。砂糖と塩を間違えました』
『次回からは、レシピに塩を使わない際は、遠ざけて置きます』
なんでしょうか。
製品として作られた奉仕人形の私は、命令に対して完璧なので、料理を失敗しないのは当然です。
対してご主人様が創造した奉仕人形たちは、機能的機構は、全て私と同じです。
ですが、思考回路を司るブラックボックスだけはイメージで補完されているのか、奉仕人形たちの行動に個体差があるようです。
料理が得意な者、苦手な者。
作業が早く雑な者、作業が遅く丁寧な者。
仕事が好きな者、嫌いな者。
運動能力が高い者、よく転ぶ者など……
『これが個性なのでしょうか』
そう呟きながら、塩気が強い昼食を食べていく。
ご主人様から頂いた醤油なる調味料を使ったテリヤキチキンを作ったのですが、塩気が強く、水が欲しくなります。
続いて、第二班は、畑と畜産の管理です。
ご主人様の屋敷の周りには、畑と畜産小屋が建っております。
畑には、主食となる麦を始め、季節折々の旬の野菜、そして、イチゴやラズベリーなどの多年草の果物や果樹、薬にも使えるハーブ類や衣服などに使える綿花。花壇や植木鉢には、ご主人様に楽しんでいただくための観賞用の花々を栽培しております。
ただ、冒険者の依頼で各地を忙しく跳び回るご主人様のために新鮮な野菜などは、ご主人様が荒野から発掘した遺跡から見つけた壊れた魔道具を元に【創造魔法】で作り上げた【保存庫】があります。
これは、常温・冷蔵・冷凍の三種類を用意して、内部に人が居ない時は時間が停止する優れものです。
古代魔法文明は、技術発展に伴う食料生産の増加と長期保存技術があったからこそ、技術発展する余裕があったのだと思います。
まぁ、結果が魔法実験の暴走による消滅なので誇れる物か、と言えば微妙ですが、ご主人様の役に立つので、問題ありません。
それでも保存しきれない物は、私たちが調理の時に消費しますが、ここでも奉仕人形たちの個性が出ます。
黙々と草を毟る子、すぐに飽きて虫などを観察する子、水遣りなど計画的に周囲に指示を出していく子、家畜として運んだ鶏と山羊に関心を持つ子、作物を摘まみ食いをする子など。
自由気ままな振る舞いに奉仕人形としての矜持はあるのか、と考える。
だが――
「あの子たちを叱らないでね。まだ経験もなにもない柔らかな心だから」
ご主人様は、彼女たちを見守るように言われた。
なので彼女たちが失敗したら私がフォローすることにします。
そして、彼女たちが学習して更に、個として成長するのを見守るのです。
『みなさん、作業で衣服が汚れましたから着替えをしてきてください』
『『『はい、侍女長』』』
今日、畑に振り分けた子たちへ、ご主人様が用意した大浴場で汚れを落とし新しい衣服に着替えることを望む。
奉仕人形たちは、防水機能を有しているので、洗浄も可能だが、自己に仕込まれた魔法により清潔さを保てる。
だが、健康で文化的な生活として入浴する。または、素肌を晒すというのは、色々な発見がある。
最初は、髪の色や顔立ちだけが微妙に違うと思った奉仕人形たちも体付きが微妙に変わったように思う。
ただ、なんとなく気のせいかもしれないので経過観察は必要だ。
第三班は、森林拡張班である。
私たち奉仕人形は、周囲の魔力濃度に影響される存在である。
そのために、この【虚無の荒野】でも魔力濃度の高い森林周辺でしか長時間の活動ができない。
そのために、ご主人様が作り上げた樹林を歩き回り、育っている苗木を回収し、森林の縁に植樹して、木々の範囲を増やす努力をしている。
小国に匹敵する土地の約10%を樹林化でき、3%が泉や湧き水が形成する河川となって、荒野に水分を行き渡らせている。
この先、私たち奉仕人形たちの植樹の介入により、加速度的に樹林の面積が増えるだろう。
ですが、そのためには様々な問題が立ちはだかっております。
それは、ご主人様と共に乗り越えれば良いのです。
そして最後の四班は、休息班だ。
以上の仕事を順番に行った奉仕人形たちが自由に過ごす日だ。
魔力補充の装置で稼働に必要な魔力を補充した後、そのままスリープモードで待機するもよし、料理を自発的にするも良し、ご主人様が用意した本や遊戯などを使った娯楽に興じるもよし、それぞれ過ごし方を模索している。
その過ごし方を見ていると、自分が無趣味のように感じる。
これはいけませんね。
漠然と日常を過ごすのは、生産的ではありません。
とりあえず、ご主人様に着ていただくための衣服を考えるために、古代魔法文明の時代に存在したファッションデザインでも描き起こしましょうか。
その中からご主人様が気に入るものを選び、作るとしましょう。
『ふふっ、楽しみですね』
自然と笑みが溢れてくる。
ああ、これが命、これが人生!
生命賛歌というやつでしょうか。
目的を持って生きているとは、素晴らしい。
はやくこの幸福を後輩であるあの子たちにも知ってもらいたいものです。
そして、この思いをご主人様にも知ってもらいたいものです。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
どうぞ、よろしくお願いします。









