10話【Aランク冒険者の威光】
私たちは、町から飛び出してきた衛兵や冒険者たちに刺激を与えないように町の手前で闇魔法の《サイコキネシス》で浮かせていた帆馬車と檻を降ろす。
「何者だ! 答えろ!」
「Aランク冒険者【空飛ぶ絨毯】のチセよ。街道沿いを移動中に盗賊の根城を発見したから捕縛し、捕まっていた人を救出した。後ろに居るのは【黄牙団】と名乗る盗賊だったわ」
『あの【空飛ぶ絨毯】!? それに【黄牙団】だと!?』
集まった人たちの間で声が上がる。
その声には、吟遊詩人が語る20年近く活躍するAランク冒険者――颯爽と【空飛ぶ絨毯】に乗って現れる二人組の女冒険者の姿が思ったよりも若いというより幼いことに驚いている声と、捕らえた盗賊団がこの地域では有名な相手だったことが聞き取れる。
更に、衛兵や冒険者……と言うよりは獣人たちから怒気のようなものを感じる。
「これは、私たちを証明するギルドカードよ、確認お願い。それから盗賊の方もお願いね」
「わかった。ギルドカードを確認した。それと盗賊の方は、町の牢屋に移送する!」
大勢の冒険者たちに囲まれ、両手首を鉄の塊で拘束された盗賊たちは、大人しく連れていかれる。
「君たち、何か【黄牙団】に関する物は持っていないか?」
「一応、盗品とか色々なものはマジックバッグに入れて持ってきたわ。ただ、根城の洞窟は、他の盗賊に住み着かれると困るから崩したわ」
「後始末も感謝する。後日、こちらでも調査に向かう」
大まかな場所を伝えると、後日町の騎士たちが調査に向かうようだ。
それと、まだまだやることがある。
「済まないが、盗賊の所持品の確認をさせてもらえないか?」
「わかったわ。衛兵の詰め所に行きましょう。それと捕まっていた女性を休ませる手配をしてほしいわ」
できれば、介抱には女性の手を借りたいことも、衛兵隊長らしき人だけに伝えると深く頷いてくれる。
「わかった。それじゃあ、女性たちのことを手配しよう」
「ありがとう。それじゃあ行きましょう」
捕まっていた女性たちは、町の方に任せて私とテトは、案内された詰め所で盗賊についての話をする。
その際、盗賊【黄牙団】の存在について詳しく聞く。
「ここは、ローバイル王国の国境に近い町だが、やつらはローバイルの方から流れてきたんだ」
「へぇ、お隣の国の盗賊なのね。道理で人間が多いわけだ」
私が感じた違和感には、きちんと理由があることに気付いて、納得する。
「隣国で話題の盗賊団だったんだが、ローバイル王国から逃げて、こっちに流れてきたんだ。それに盗賊の親玉がそこそこ腕のある冒険者で、仲間には魔法使いがいるから厄介だったんだ」
「なるほど、魔法の力で洞窟を作って拠点にしていたのね」
「それもあるが、人攫いを盗賊に任せて違法奴隷を扱っている。以前、我が国に入り込んだ誘拐組織の残党と我が国を裏切る商人の支援もあったようだ」
同族との絆が強い獣人族だが、やはり悪徳に染まる者もいるのだろう。
それに十年以上前に壊滅させた誘拐と違法奴隷の売買をする組織の残党か、他国の支部を持つ裏組織か、再びガルド獣人国に手を伸ばしたのか。
ガルド獣人国内の支部は、徹底的に潰したと思ったのに、甘かったかと内心歯噛みする。
それとも国内残党が独自に新しい目標を掲げて生き残ったのか……まぁ、この件は国に任せよう。
「よし、報告書は完了した。それと盗賊の盗品はどうするんだ? 所有者が返還を求めた場合は、買い取りになるが、この町に滞在するのか?」
「ローバイルに向かう途中だから時間を掛けたくないし、ギルドに買い取ってもらうわ。奴隷にされた少女たちは解放ね」
「それは、もちろんだ」
盗賊討伐の報酬なども貰えるだろうし、盗品の所有者返還や襲撃された人の遺品の返却などは、ギルドに任せた方が面倒がない。
それに見たところ、私が欲しいと思うものはなかった。
お金は所有者が不明だからそのまま貰い、買い取ってもらったお金の半分は、被害女性の社会復帰の支援のためにギルド立ち会いの下で衛兵隊長に預ける予定だ。
僅かばかりでも立ち直るための支えになれば、という偽善だ。
「わかった。改めて盗賊の討伐に感謝する」
盗賊討伐の件で感謝された私は、衛兵隊長に頷き、この町のギルドに向かう。
残った武器や食料、お金などは、適当にギルドに売り払い盗賊討伐の報酬を受け取る。
全部で大金貨3枚ほどのお金になったので、私とテトで山分けして、半分はギルドカードに預け、残り半分を銀貨や大銅貨に崩してもらう。
夜には、町で宿を取って、翌日には改めてローバイル王国に向かった。
ローバイル王国の国境線の砦では、不法入国がないか兵士たちが見張っているが、特に問題無く通り過ぎることができた。
そして、その時に、兵士にローバイル国内の話を聞いた。
「最近のローバイルの様子ってどうかしら?」
「そうだなぁ。魔物被害がぼちぼちあるな。それに国内も少し不作気味で、食い詰めた農民が盗賊になることもある」
その結果が獣人国に流れた盗賊だろう。
「その盗賊って魔法使いもいるの? 崖に横穴掘って洞窟にできる魔法使い」
「そんな技術があったら、普通に魔法だけで暮していけるだろ」
「ガルド獣人国の方では【黄牙団】って名乗る盗賊なんだけど」
「ああ、あの盗賊団か。あいつらは、元は冒険者だが、犯罪を犯して追われる立場になったんだ。それからは、盗賊に落ちて同じような奴らや食い詰めた農民を集めて盗賊団になったようだ」
魔物被害や不作による農民が盗賊に落ちるのは、なんとも切ない話だ。
だが、盗賊行為は許されないだろう。
それにそんな農民たちを利用して盗賊行為を組織的に行なう元冒険者の盗賊たちには、同じ冒険者として情けない。
更に、そんな盗賊と取引して捕まえた人たちを他国に運んで奴隷としようとする人もいる。
だが、どこにでも溢れたこの世の不幸だ。
「それじゃあ、いくね。色々教えてくれてありがとう」
「おう、嬢ちゃんたちも冒険者だけど、今のローバイルはちょっと治安も悪くなっているから気をつけるんだぞ」
私とテトは、国境を越えて、ローバイルに入る。
そして、一番近くの町のギルドに訪れて討伐依頼を探しながら旅を続け、目的地を目指す。
その途中、【空飛ぶ絨毯】から見下ろす大地の様子に顔を顰めてしまう。
「これは……大地の魔力を感じない」
「魔力が枯れているのです」
目に魔力を集中させれば、【虚無の荒野】ほどではないが、大地を満たす魔力が薄くなっているのが分かる。
魔力が多すぎれば、魔力溜まりとなり、魔物の活性化やダンジョンの発生などの魔力災害に繋がる。
だが、逆に魔力が少なすぎても作物が上手く育たず、痩せ細った大地になってしまう。
「かなり広い範囲での魔力の停滞ね。ラリエルが言っていた場所の地脈から魔力が噴き出しているから、こっちの方まで大地に魔力が浸透していないのね」
そうした大地の変化を見つけ、旅の途中で不作に悩む村々に立ち寄った私たちは、こっそりと地面に魔力を注ぎ込む。
「対症療法だけど、これでとりあえずは作物の生育は回復するはずよね」
「これで少しは持つのです!」
自分の目の届く範囲の村々が苦しんでいるのに、無視して通り過ぎることができなかった。
それぞれの村の周辺の大地に、私が持つ30万の魔力をほぼ全て注ぎ、不足していた魔力を補った。
「魔女様は、優しいのです」
「…………そんなんじゃないわ。ただ、見ない振りをするのは後味が悪いだけよ」
そんな豊作の加護のようなその魔力の供給でぐったりする私は、テトの背中に寄り掛かりながら、テトが操る【空飛ぶ絨毯】に乗って旅を続けるのだった。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
どうぞ、よろしくお願いします。









