7話【冒険者としての歩み】
奉仕人形のベレッタの発掘と修理――と言うか新種族への進化を見届けた私とテトは、【虚無の荒野】の管理をベレッタに任せて、久しぶりにガルド獣人国の辺境の町に顔を出し、薬草やポーションなどの納品をして過ごす。
また、Aランク冒険者としても依頼を受けた。
ガルド獣人国内で以前発生したダンジョンとその攻略の際、テトと一緒に【空飛ぶ絨毯】で短時間で移動した実績から国内で戦力が足りない地域の応援にお呼びが掛かった。
「転移先を増やすって意味だと、これはこれで楽しいかな」
「魔女様と一緒なら、どこだって楽しいのです!」
緊急依頼で辺境の町から出かけるのが年に1回のペースであり、この10年でガルド獣人国のほぼ全域――主要17都市まで【空飛ぶ絨毯】を使って転移先を増やすことができた。
また、緊急性の依頼がない時は、辺境のヴィルの町では、私とテトが筆頭冒険者として後輩冒険者の成長を見守りつつ、ギルドにポーションや薬草を納品し、残りがちな雑務依頼などを片付けた。
そして10年の間に受けた緊急依頼は――
・Aランク魔物・雷鳥竜の討伐。
・Bランク冒険者が討伐失敗した魔物の討伐。
・ギュントン王子の紹介で秘密裏に行われたガルド獣人国の重鎮戦士の再生治療。
・ガルド獣人国の王都で行われたAランク冒険者の昇格試験の監督役。
・南部の地域で起きた大雨による土砂災害の復興と支援。
・ガルド獣人国に入り込んだ誘拐組織の壊滅。
・対立する獣人部族の仲裁の護衛。
・コボルト系魔物が進化して知性を得た魔族――人狼の捜索と討伐。
・ガルド獣人国に現れた指名手配の賞金首の捕縛。
・ガルド獣人国内で開かれた各国の冒険者ギルドの会談の会場警備。
最初は、【空飛ぶ絨毯】なんて摩訶不思議な物に乗って現れた私とテトに、多くの人は訝しげな目を向けてきた。
獣人国では、少数派の人間であり、更にあまり馴染みのない魔法を使う二人組の年若い少女たち。
だが、誰もが難しいと思う緊急依頼を易々とこなした私たちは、【空飛ぶ絨毯】で颯爽と現れることから【空飛ぶ絨毯】が私とテトの代名詞となり、吟遊詩人たちが私たちの活躍を詩にしてガルド獣人国に広げていく。
その結果、今までパーティー名を決めていなかった私たちのパーティーは【空飛ぶ絨毯】となり、ガルド獣人国のどんな都市に現れても、私たちの存在が認知されるほどに、有名になった。
こうして見ると、Aランク冒険者に相応しい華々しい戦果だろう。
だが同時に、辛いこと、悲しいことも沢山あった。
私たちが駆け付け、討伐するまでに天空を飛び交い、激しい雷を放つAランク魔物の雷鳥竜が原因で3つの村が壊滅し、推定150人以上の死者が出ていた。
私とテトは、【空飛ぶ絨毯】から落雷によって壊滅させられた村々を目にした。
中には、せめて一太刀と抗った人々はいたが、空を飛び、雷を操る雷鳥竜には歯が立たず、ゴミのように殺されていったそうだ。
「もっと早くに駆け付けられれば……」
「魔女様、仕方がないのです」
むしろ、Aランクの魔物の出現にしては被害は小さい方だ。
最悪、町一つ1000人以上の人間が死ぬことだってある災害に等しい魔物だ。
それに現実は、物語のように上手くはいかない。
私の向かう先に、強大な魔物が現れて、人々に危害を加える前に倒されることはない。
依頼とは、被害が出てから初めて出されるのだ。
他の依頼もそうだった。
賞金首の捕縛と人狼の魔族の退治は、人か二足歩行の狼という外見的な差はあれど、どちらも血に飢えた殺戮者であり、人々にとっての害悪であり速やかに排除した。
排除しなければ、いずれ更なる犠牲者が出るために、まだ見ぬ被害者を出さないために倒した。
魔物討伐が失敗した依頼では、Bランクパーティーの半数は壊滅し、残り半数の冒険者も命からがら逃げてきた。
体の傷は、回復魔法で癒やすことができたが、仲間を失う喪失感と魔物に対する恐怖心を私は癒やせなかった。
冒険者の依頼の裏には、誰かの苦しみや悲しみが存在するのを理解し、ランクが上がるほどその規模と悲惨さが大きくなるのが分かった。
また、悲劇は、魔物だけが作り出すものではない。
誘拐組織は、獣人国で捕らえた獣人たちを違法奴隷に落とし、他国に連れ出そうとする場面を目撃、阻止した。
その誘拐組織は、獣人国だけではなく、他国にも手を伸ばしており、人を食い物にするその所業には、人の業を見せつけられた。
だが、そんな高位の依頼の中にも救いはあった。
秘密裏に行われた重鎮戦士の治療では、受けた傷は南方隣国の兵士たちに襲われたそうだ。
ガルド獣人国で当代一番の戦士と謳われる人だったが、王族の護衛に当たり、襲撃の際に殿として敵兵たちを引き受けた後、相手国の兵士に捕まり拷問されたそうだ。
ガルド獣人国に仕えるAランク冒険者にも匹敵する戦士は、精神力も強く拷問にも耐え抜き、救助されるまで生き抜いた。
その代償に両手、両足を失い、獣人の特徴の耳と尻尾も切り落とされた痛ましい姿だった。
再生魔法は、体の栄養を使って生やしていくので沢山食べさせ、少しずつ手足を生やす。
そして、元々は筋肉の張った手足だったが、再生する範囲が大きく、筋肉もかつての面影がないほど痩せ細った。
「ありがとう、嬢ちゃんたち。これで俺はまた仲間たちを守れる」
痩せ細り、これからリハビリして筋肉を付けていかなければいけない。
隣国の人間に拷問を受けた経験や辛い生活がまだまだ続くのに、彼の口から出た感謝に――心の強さと眩しさを感じた。
ガルド獣人国の王都で行われたAランク冒険者の昇格試験の監督役に一度だけ招待されたが、そこでイスチェア王国で見た冒険者たちとはまた冒険者としての特徴が微妙に違うことにも気付かされる。
獣人国は、獣人やドワーフ、エルフ、竜人などの亜人種が比較的多い国であり、それぞれの種族がそれぞれの特徴を生かした戦いと技術を持つ。
また、ほぼ最短でAランクまでの道のりを歩んでいた十代後半の獣人の戦士は、既に【身体剛化】を使いこなし、高いレベルでの剣技を扱っており、まさに天才と呼べる人だった。
騎士の父から正当な剣技を学び、冒険者としての実践で培われた経験が、私やテトのこれまでの歩み以上に早い成長に――人間の可能性を感じた。
南部で起きた災害では、【マジックバッグ】に救援物資を持って駆け付け、町の復興を手伝った。
災害は痛ましい出来事ではあるが、そこから立ち直り、復興する人々の――力強さと未来への希望を感じ取った。
対立する獣人部族の仲裁の護衛では、その部族の次代の族長と族長の娘が恋仲になっており、様々な柵の中でも共に手を取り合える――人の愛を目にした。
各国の冒険者ギルドの中でのトップの存在であるグランドマスターたちの会合は、各国で持ち回りで行われ、国家間を超えての魔物被害やダンジョン対策などを話し合った。
国家の枠組みを超えた組織とは言え、グランドマスターにも所属する国家の規模に応じた格があり、各国の思想や意向などを持ち、利害関係や種族的な対立などがあり、互いに相容れないことはある。
それでも組織の理念を達成するための会合が行われ、魔物の被害を抑えようと日夜努力していた。
そして、そんな依頼の数々で疲れた私は、テトと共に転移魔法で【虚無の荒野】の自宅に帰れば――
『お帰りなさいませ、ご主人様、テト様』
ベレッタが私たちを迎えてくれる。
辛く悲しい光景を見た時などは、絶対に出迎えてくれるその安心感が私の心を癒やしてくれる。
ただ、それだけの小さな幸せをこの10年、感じることがあった。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
どうぞ、よろしくお願いします。









