5話【物理魔法・改】
転移魔法でテトとベレッタを連れて、発見した魔導兵器のもとに戻れば、結界で囲っていたはずの魔導兵器が、ガシャンガシャン、ガシャンと動いていた。
「ねぇ、テト。あれは、私の目から見て動いているように見えるんだけど、ちゃんと結界で囲ったはずなのに」
「テトにも動いているように見えるのです。それに肩に長い筒のようなものを構えているのです」
長年地中に埋まっていたためか、外部装甲は朽ちて剥がれ落ち、右腕が発掘時にはなく、脚部の四本脚のうち一本は上手く駆動せずに引き摺っている。
それでも残った三本脚と左腕、左肩から伸びる砲塔が【虚無の荒野】を見回すように動いている。
『ご主人様。あのタイプは、魔法吸収機構を搭載していると思われます。ご主人様の用意した結界を無力化し、その魔力で起動したように思われます』
「嘘!? 大丈夫なの?」
『どうでしょう。何分、不具合が生じていてもおかしくありません。そして、暴走状態にあっても……』
そう言って私が抱えるベレッタの言葉を聞いていると砲撃ゴーレムが私たちを見つけ、砲塔の照準をこちらに向ける。
「まさか、狙って――回避っ!」
身体強化を全力で使い、攻撃を回避する。
なるほど、貫通力が高い収束光線が放たれ、荒野の地面を抉る。
『ただの収束光線の先端に魔法無力化を搭載しております。下手な結界では容易に貫かれます』
そう言われて私は、ベレッタの体を抱えながら、浮遊魔法で砲撃から逃れるために宙に飛ぶ。
そして、テトは、真っ直ぐに砲撃ゴーレムに向かっていく。
「行くのです! ――おろ?」
テトにも砲撃が向き、魔力で強化した肉体へ魔法無力化の効果を持つ光線が迫るが、身体剛化で強度を高めた魔剣を振るい、打ち返す。
『なんと……テト様は、無茶苦茶ですね。ですが、砲撃ゴーレムは、同種の魔導兵器同士との戦闘も想定されているので』
打ち返された光線を装甲で受けたが、表面には魔法を拡散するような防御処理がされているのか、威力が軽減されている。
また、自身の放った光線が消えて空気中に漂う魔力を吸って、次の光線の発射準備をしている。
そして、テトに再び放つ砲撃は、無数に分裂して襲い掛かり、それを剣で斬り捨て、走って避けている。
「なるほどね。低魔力下だから砲撃のチャージが遅いけど、魔法対策がしっかりされているのね。それに砲撃魔法の種類を変えて、状況に対応している」
『ご主人様。悠長に構えているとテト様が危ないと思います』
「テトは大丈夫よ。けど、そうね……」
そうなると、物理攻撃力のある魔法はどうだろうか。
「行きなさい。――《ハードシュート》!」
取り出した【魔晶石】を硬化して高速で砲撃ゴーレムに放つ。
魔晶石は、以前に生み出したものより十倍は魔力容量が大きい。
更にその魔力で硬化された結晶は、【身体剛化】に匹敵する密度で強化される。
最後に、放たれた結晶体は、音速を超えて砲撃ゴーレムに迫る。
「おー、結構激しい音」
『ですが、耐えましたね』
激しい音と共に着弾した結晶体だが、魔法無力化機能によって結晶体が衝突する瞬間に硬化が解かれ、加速射出も消え失せる。
それでも運動エネルギーまでは消失できずに、音速でぶつかる結晶体が砕けながら、装甲に大きな凹みを生み出す。
「うーん。そうなると射出するものは、もっと硬度がある物がいいわよね。――《クリエイション》タングステン・シェル!」
私が【創造魔法】で作り出したのは、タングステン製の砲弾だ。
【魔晶石】と同様の釣り鐘状の金属塊を一発生み出すのに、巨大な鉄ギロチンを生み出すのと同等の3万魔力が必要だった。
「【魔晶石】よりも10倍以上も重いタングステン製の砲弾よ。受けなさい!」
右手でベレッタを抱え、左手で重力魔法で空中に浮かべた砲弾が、ギュンギュンと高速回転を加えて、風と重力魔法のレールに従い発射される。
どうせ硬化しても魔法無効化されるなら、発射に全エネルギーを注ぎ込んだ物理魔法だ。
音速を超えたタングステン砲弾は、動きの鈍いゴーレムの腹部を穿ち、装甲を貫いて上半身と下半身を完全に分離する。
「よし、終わったわ。さて、とりあえず使えるものを探しましょう」
『ご主人様、恐ろしい攻撃ですね。対軍砲撃級の一撃でした…っ!? まだ動きます!』
ベレッタを抱えながらゆっくりと地面に降り立ち、破壊したゴーレムを回収しようとすると、まだ機能していた砲撃ゴーレムが上半身だけでこちらに砲身を向ける。
そして収束光線が放たれる直前に――
「魔女様は、テトが守るのです!」
今まで拡散砲撃を避けていたテトだが、私の一撃で上下が分かたれた砲撃ゴーレムに接近し、砲塔と左腕部、頭部を魔剣で斬り裂いていた。
そして、発動直前の収束光線の魔法は、魔力に霧散し、砲撃ゴーレムは機能を停止した。
「ふぅ、終わったわね。それじゃあ、回収しましょう」
「了解、なのです」
私とテトは、破壊したゴーレムを回収する。
『制御魔導具でもある魔石の核は残っていますね。そちらは、魔石としての価値もありますし、ご主人様が考えるこの土地の魔力管理機構に組み込むこともできます』
Aランク級の大きさの真紅の魔石を砲撃ゴーレムから引き剥がした私は、テトの方を見る。
「――《アナライズ》……構造は把握して理解したから、今回はテトにあげるわ。魔石や魔力さえ整えば、後で再現できるわ」
無属性魔法の解析魔法――《アナライズ》によって、制御魔導具としての機能は、理解した。
これなら、Aランク以上の魔物の魔石を手に入れるか【創造魔法】で創り出せば、現在使っている物より大型の土地の魔力・地脈を管理する大型管理魔導具を作ることができるだろう。
「それじゃあ、帰りましょう。これで【虚無の荒野】の調査は終わったし、いよいよ本格的にベレッタの体も治せるでしょう」
『……ありがとうございます』
私は、来た時と同じようにベレッタの金属剥き出しの体を抱えて、拠点に戻る。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
どうぞ、よろしくお願いします。









